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第60話 決行、無限リスポーンキル・2

 僕は魔素で聴力や視力、嗅覚さえも強化して身を低くする。

 いつもは上がったほっぺがまっすぐ平行になり、瞳が普段の五割増しで見開かれる。

 全身の毛と髭が逆立って空気がくすぐったい。


「イキヨイキヨ!」


 その声と共に正面からぶわっと空気が押し寄せ、白い霧を押し退けて黒い霧がやってくる。


「……ガルタ」

「なに。手短に」


 僕は余裕がなくて、カミカゼの眼も見ずにぶっきらぼうに返事する。


「これを終えたら、互いに互いを称え合おう。ナイスファイトとな」

「ふふ」


 緊張してるからか、条件反射的に笑ってしまった。

 けど……肩の力が抜けた。


 カミカゼの体表は迷彩柄に変わり、顎肢をがばっと開く。


「約束だ」

「もちろん。ありがとうカミカゼ」


 互いに微笑み合い、横並びで黒霧に突っ込む。

 黒霧に入ると、魔素で視力を強化してもほとんど前が見えない……だから僕は爪を一気に伸ばしてカミカゼの斜め前方につく。

 ここからはオニに気づかれないよう、小声での連携が要される。


「左前方一秒後に接敵、そこから反時計回りのルート」

「了解」

「スキル発動……」


 僕は右足で地面を蹴って一気に方向転換。

 僕は伸ばした爪を魔素でコーティングし、右拳を後ろに引く。


「アイアンシザー」

 

 カミカゼのスキル発動宣言とほぼ同時、僕は爪を正面に突き立てる形で右拳を突き出す。


「ぢぅぅ!?」


 僕の爪はチュウリンを串刺しにする。


 ……カミカゼが来てるな。


 察知した僕は右足を上げて通り道を作る。

 それとほぼ同時にカミカゼが僕の股を抜けた。

 そして一気に前身を跳ね上げ、僕の眼前でチュウリンの首を掻き切った。

 鮮血が舞い、黒い視界に紅色が混ざって瞼がピクピクと蠢く。


 大丈夫、すぐEXPに変わる。


「次だ」


 戦闘時は誰よりも声が大きなカミカゼは一転、今は死神のように冷たい声で淡々と敵を殺していく。

 とはいえ目の悪いカミカゼと黒霧で視界のない僕は音を使わない連携は不可能、敵モンスターの断末魔もあるからオニに気づかれないなんていうのは無理だ。

 だから……



──────ジィィィィン



 遠くから耳鳴りにも似たやかましい音が響く。

 チギリのカブラヤだ。

 これでそっちにヘイトが向けば作戦成功なんだけど……


 カミカゼが触覚をピクピクと動かしながら次の敵……ゴロックを素早く後身で締め上げる。


「ハードクラッシュ」


 そして前身をムチのようにしならせ、後身で締めたゴロックを地面に叩きつける。

 ゴロックの小さな悲鳴と地面の激突音が激しく鳴り響く。

 ゴロックはどう頑張っても音を立てずに殺すのは無理だ、判断ミスだったかもしれない……!


 僕はフーッと息を吐き出しながら唸りを上げて警戒を高める。

 カミカゼもしまったと思ったのか焦ってゴロックから距離を取る。


 お願い、お願い……来ないで……!


「ソニックウェーブ!」


 ウサミの宣言の後、指向性のある音波が僕たちを横切って飛ぶ。


 これは……消費魔素量を増やしたスキルの出力向上……!

 オニを自分たちの方に寄せるため……?

 けどこの方法じゃ……ウサミの魔素が枯渇しちゃう……!


 僕とカミカゼの心拍は呼応するように加速し、モンスターに囲まれた状況で止まらざるを得ない。

 僕は髭に魔素を集中させ、うっすらとだがオニの動きを知覚する。

 

「これは……」

「ッ! ハードガード!」


 カミカゼが突然僕を覆うように全身で巻き付き、全身を硬化させるスキルを使用する。

 それから一秒も経たず、カミカゼの身体越しに衝撃と音が伝わる。

 トドメを刺し損ねたゴロックの攻撃だろう。

 カミカゼは衝撃の直後僕から離れ、硬化を解いていない顎肢でゴロックに対抗する。


「カミカゼ!」

「問題ない、オニは遠ざかっていく。声による連携もしやすくなるだろう。ただ……宣言を省略したせいで多少くらった」


 僕が鬼にだけ注視したせいだ……!


「木の実を……あっ……」


 僕はアイテムボックスが()()()首元の虚無を握る。

 そうだ……アイテムはチギリに渡したんだ……!


「いらん。自分はまだ動ける……それに、再生は得意分野だ」

「けど……」

「ガルタ。それよりも……自分は今怖い」


 金属と岩の激しい激突音が響く最中の独白だった。


「自分が最も目立たないと、他の仲間が狙われる。今もガルタが危なかった」


 僕は拳を強く握り締め、地面を蹴り出す。

 狙いはカミカゼと打ち合っているゴロック。


「スキル発動、ワイルドファング!」


 カミカゼの身体を飛び越え、ゴロックの直上から口を下に落ちる。

 大きく口を開け、スキルで巨大化、硬化した牙を突き立てる。

 防御力の高いゴロックはこんな一撃じゃ倒せない……けど!


「噛み砕くッ!」


 僕はゴロックに牙を突き刺す。

 そして顎を魔素で強化、空いた右手で自分の顎を何度も殴りつける。

 頭を含む顔の骨が軋むのを感じる、口内に滲むような血の味と臭いが広がる。

 命のやり取りをしているという自覚が、僕の奥にある本能をより滾らせる。

 牙は面白いようにゴロックの身体を突き進み、貫通させることに成功した。

 そうしてちぎれかけたゴロックの身体を噛んだまま頭を振り、地面に叩きつける。

 ゴロックは轟音と共に歪な割れ目を残して砕け散った。


 そしてカミカゼの方を見てVサインを送ってみる……って、見えないのか。

 まいっか。


「僕、強いでしょ」

「あぁ、思わず見惚れてしまった」

「えへへ、ありがと。皆もこれくらいはやれるはずだよ」


 ……そう、ウサミだって伊達に死線を潜り抜けてない。

 向こうにはサクラとチギリもいるし、木の実でもサクラのスキルでも魔素は回復できるはずだ。

 だから僕が今やるべきは、復活したモンスターを殺し続けること。

 それとカミカゼと無事でいることだ…………よし、切り替えた。


「……なるほど、ガルタは自分を安心させようとしたのか」

「そうなのかな? そうかも!」

「感謝する。自分も……」


 そう言ってカミカゼはいくつかの脚を合わせて沢山のVサインを返してくれる。

 なーんだ、見えなくても視えるんだ。

 全然違わないじゃん!


 僕はニヒッと笑って姿勢を低くする。


「さぁ、正念場だよカミカゼ!」

「あぁ……ここからは……」


 カミカゼは硬化した顎肢同士をぶつけて周りのモンスターを挑発する。


「一歩も退かんぞォ!!」

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