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第58話 続・作戦会議

「さぁ、作戦会議の続きだー!」

「貴様が上で戦っていたせいで中断されたのだぞ!」

「む、すまん」

「ちょっとチギリ、その怒り方は理不尽すぎるっすよ」


 光が薄くて仄暗いフロアの繋ぎ目、安全地帯の階段で再び俺たちは円を作る。

 仲間に新しい名を贈った余韻を少しは味わいたかったが、長くラビリンスにいても気持ちがすり減るだけだ。

 それに今回は皆負傷していなく、回復の類は必要ない。

 続きの作戦会議をするにはちょうどいい。


「なぁ、ちょっとした疑問というか、大事な質問なんだがいいか?」


 俺が前足を挙げてそう発言すると皆の視線が集まる。


「あの鬼のモンスターとここのボス……キラーバードとどっちが強いんだ?」

「うーん、どうだろ」

「なぜそんなことを聞く必要があるのだ」

「いやだって……仮にキラーバードが鬼より強かったらさ、鬼に勝ててない俺たちが勝つ可能性って結構低いと思うんだよ」

「確かに……オイラはそこの強さ関係は分かんないっすけど……誰か分かるっすか?」


 サクラのその問いに、数秒の沈黙が漂った。


 誰も分からないか……?

 

 どうしたものかと唸っていると、ガルタの瞳が暗闇で光る。


「……おじさんは、ボスの方が強いって言ってた」

「ガルタが探検隊を目指すきっかけになったってモンスターか。確かか?」

「うん。おじさんはプロの探検隊だから間違いない……ただ、キリタチの谷以外でのラビリンスの話ではあるよ」

「なるほど……」


 ややこしいのが、俺がゲームをプレイしてた時にあんな恐ろしいモンスターは存在してなかったってことだ。

 しかもなんでか、ボスモンスターの記憶は揃って欠落している。

 人間だった時のどうでもいい記憶はわりと残ってるのに、一番重要なモンスターラビリンスの記憶が残ってないのが憎たらしい。

 チギリもカミカゼもそうだ、こんなに人格が確立されているのにラビリンスに産まれる以前の記憶がないのは絶対におかしい。

 なにかの介入を疑わざるを得ない……てか、あの神を名乗るやつのせいじゃ……


「ウサミ?」

「あぁごめん、なんでもない……」


 ……今考えることではないな。

 とりあえずこのラビリンスを生きて出るためにどうするかが最優先だ。

 ……そういえば。


「俺は記憶が曖昧なんだが、一回だけ鬼から勝ちをもぎ取ったよな」


 痣に触れ、謎の強化状態に入った時だ。

 あの時は戦いが終わった後の反動で死にかけた……助かったのも奇跡みたいなものだった。

 ガルタは尖った歯で口の端を噛み、一筋の血を垂らす。


「あんなの……勝ちなんて呼べない。ウサミがあんなに苦しんで、ウサミがウサミじゃなくなってた」

「……言いたいことは分かるが、俺たちが唯一鬼から拾った勝ちだ。重要な情報だろ」

「まさか、またあの力を使う気じゃ……!」

「それはない、あんな苦しい思いをするのは二度と御免だ」


 誰かが死にそうにならなければ……という枕詞がついてはくるが。


 軽く覚悟を飲み込んだその瞬間、カタカタと音を立ててカミカゼが俺の顔を上から覗き込む。

 軽く透けた白色の腹の奥では黒い何かが蠢いている。


「嘘だな。なにをしようとしていたかは知らんが、ウサミは今自分と同じ顔をした。自分の命を駒として扱う顔だ」

「んなっ」

「それだけは許さない……と自分が言える立場ではないな。だが、その時は自分もついていく」

「それは!」

「駄目とは言わせない。駄目と言いたければその愚かな考えを正すんだ」

「うぐ……」


 俺の口からは言葉にならない呻きだけが漏れ、目端がピクピクと痙攣する。

 カミカゼは俺を見下ろしたまま、気門から空気を吐き出す。

 

「……自分は、あの存在と戦ったことがない。が、気配だけであのオーラだ。正面から戦って勝てる相手でないのは分かる。だがウサミはまるで自分の命をかければ勝てると言いたげな様子だ」

「なんでそんな分かるのまじで……」

「これくらい普通ではないのか?」


 普通なわけないだろ、とボヤきながら前足で自分の痣を指す。

 そして鬼から命懸けで勝利をもぎ取った際の話をした。

 カミカゼはそれを聞くととぐろを巻いて項垂れる。


「自分だったらその力を使い倒しているだろうな。自分が苦しむだけで皆が救われる……よくウサミはそれに頼りきりにならないでいられるな」

「文字通り死ぬほど苦しいんだよ、痣を触ると……それにボロボロになる。昔はそんなことなかったのに……」


 そう、人間の時は痛みが走るとか力が迸るとかそんなことは一切なかった。

 なってたら確実に厨二病になっていただろう。

 ……そんなことも言ってられないほど、苦痛だったが。

 感覚的な話だが、俺の心はモンスターになって強くなったように思う。

 それがなかったら、痣を触った瞬間に俺の心は砕け散っていたかもしれない。

 そのくらい物理的にも、精神的にも痛い。

 だからできることなら痣の力は使いたくない、使おうと思っても怖くて触れないかもしれない……


「……なぁ、仮にキラーバードが鬼より強いとしてどうやって勝つ? 現実問題俺たちは勝てるのか?」


 不安を煽るような発言だ、分かってるけど言わないといけない。

 皆の命が懸かってるこの状況で言い淀むことはできない。

 やってることは誰かに解決策がないかって丸投げしてるだけだけど……


「一応、対策のアイテムは広場で買ったよ。僕はキラーバードがどんな戦い方をするかおじさんに聞いたことがある」


 ガルタの言うおじさんは本当に何者なんだ……プロの探検隊なら、今後会えるだろうか。

 チギリがフンと鼻を鳴らし、壁に寄りかかってどっかり座る。


「ボスの話もいいが、まずあっしらがそこまで辿り着けるかが問題なのだ」

「今回のように最速で階段に向かえばいいのではないか?」

「はっ。アイテムにも限りがある、最速で階段に向かえばそれこそボスで苦労することになるのだ」

「そうなるとやっぱり探索するしかないっすか……?」

「霧の中見えない鬼を避け続けてか? カミカゼと俺の索敵でも絶対はないぞ」


 うーんと全員が唸る。

 解決策がない……策でどうにかなる範疇を超えている、絶対的に俺たちの実力が足りない。

 なんか、なんかこうないかな……発想の転換というか。

 実力が足りない、これはレベル上げで解決できる。

 ただレベル上げをするには鬼と霧が邪魔。

 霧は俺とカミカゼでなんとかなるとしても……問題は鬼だ。

 鬼と遭遇すればその時点で……いや待てよ。

 あの霧で視界がないのは向こうも同じ、チギリのわりと大きめの怒鳴り声にも反応しなかった。

 鬼と接敵したのは今までで二回だけ。

 一回目はサクラが仕掛け、二回目は俺の最大出力のスキルに寄せられてきた。

 ……鬼ってもしや索敵能力がないのでは?

 それなら……


「……なぁ、鬼って倒したモンスターを蘇えらせるんだよな」

「このラビリンスの鬼はそういう特性があるみたいだね」

「じゃあさ……鬼を利用して──────」


 俺の考えた作戦。

 題して……無限リスポーンキルだ。

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