第56話 ナイスファイト!
「周囲にモンスターは三匹、階段にまっすぐ進むと二匹と接敵することになる」
「自分の感覚ではまだ分かりかねる。反応に引っかかったら突撃する」
「ガルタも行くからちゃんと申告しろよ」
「……心得た」
「こころえた!」
会ってから大体すぐ返事したミリピードが少し渋った……ような?
やっぱり最前線っていうのにこだわりがあるんだろうか……
『仲間を守って死ぬのは名誉だ。本望だ』
……なんだかそれは、仲間を守って盾となることだけに自分の価値を置いているみたいで不安定……けど俺と違って別にうじうじしてないしなぁ。
依頼を終えてラビリンスから出たらちゃんと話してみたいな。
前衛をガルタとミリピード、後ろに控える形で俺とチギリとサクラ。
この陣形を崩さずに慎重に霧の中を突き進む。
そろそろ敵の位置を改めて把握しようと魔素を練り始めたその時。
ミリピードの黒光りする体表が迷彩柄に変化していく。
なるほど、分かったぞ。
ミリピードは戦うときその柄に変わるんだな。
なんだか軍人みたいだ。
そう思った俺はガルタの肩をぽんぽんと叩く。
「ガルタ、構えて」
「らじゃ」
ミリピードの黒一色の目は霧の中でもギラリと輝き、前だけを見据えて口を開く。
「突撃一秒前」
その声を聞いてガルタは一気に地面を蹴り出した。
ミリピードの身体が蛇腹のように圧縮される。
節々や脚に鈍い光を帯びた魔素が巡り、やがて全身に広がった。
そして宣告からきっかり一秒後、ミリピードは飛び出していく。
周囲の霧を軽く吹き飛ばしながら突き進むと、拳を振りかぶるガルタの姿が眼に映る。
「ふんっ!」
ガルタはチュウリンの鼻っ柱を正面からぶん殴って吹き飛ばす。
無防備に宙を舞う標的を、この戦闘狂が見逃すわけがない。
「死ねぇ!!」
ミリピードは魔素で顎肢を硬化させ、喉元にくらいつく。
顎肢はチュウリンの首を貫通し、破裂した果実のように血が弾け飛ぶ。
チュウリンは耳が張り裂けるほどの断末魔を上げるが、ミリピードは表情ひとつ変えずに顎肢に力を込め続ける。
鮮血を被りながら淡々と殺戮をこなすその様はまさに兵士。
首を捩じ切ろうとする彼は、抵抗するチュウリンと力が拮抗してプルプルと震える。
しかしまた、ラビリンスのモンスターも甘くはない。
「ゴロォ!」
ミリピードの後方から轟音を立てて転がるゴロックが接近する。
当然それに気付かぬミリピードではない、避けられないわけもない、それでも……
「来ォイ!!」
彼は血走った目でそう言い放って動かない。
チュウリンを捩じ切るために無防備な彼に、勢いよく転がるゴロックが激突──────
「スキル発動! ワイルドネイル!」
ガルタが声高々に宣言したそのスキルは、ガルタの白い爪を自身の身体の半分にも及ぶほどに巨大化する。
それが容赦無くゴロックに振り下ろされ、何度も切り裂いていく。
ゴロックの身体は綺麗にいくつかに寸断され、ガルタはそのままゴロックにとどめの一撃を叩き込む。
そしてふぅと息をひとつ吐いた。
ミリピードはそんなガルタに目をやったままチュウリンの首を捻じ切り、頭から大量の血を浴びる。
グリーンを基調にした迷彩柄は血に染まるも、ミリピードは身体をそっちのけ、状況把握に使う触覚についた血を脚で拭う。
悪鬼。
そう呼ばれてもおかしくないほど悍ましいミリピードの様相。
触覚を細かく動かして未だ気を緩めないミリピードに、ガルタはずんずんと近寄る。
錆びたブリキのようにガルタの方を向くミリピード……ガルタはそんな彼に拳を突き出した。
「ナイスファイト、ミリピード!」
そうしてガルタはにっと笑った。
目の悪い彼に、その屈託のない笑顔が映ったのかどうかは分からない。
だがミリピードは息を吐きながらふっと笑い、体表にこびりついた血が光の粒子に変わる。
迷彩柄に変わった体表も元の黒色に戻った。
「二匹とも大丈夫……そうだな」
まだ戦っているかもと思って二匹に駆けつけた俺たちだが、どうやらもう戦いは終わっていたようだ。
光の粒子と化したゴロックの残骸とチュウリンの血はたちまち俺たちに吸い込まれ、身体がふわりと暖かくなる。
殺した後にこんな気持ちにさせるシステムは毎度ながらちょっと怖い。
「もう階段はすぐそこだ。このまま行けば他のモンスターと接敵することは……」
ミリピードがそう言った瞬間、チギリの首元とミリピードの尾が紅い光を放つ。
元から紅い俺の目はその光を受けて大きく見開かれ、冷水がかけられたように自然と全身が強張る。
このサインは……忘れるはずもない……。
オニが近くにいるサインだ……




