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第55話 正しさと命

「……階段に着いたら話がある。あと、もう不用意に突っ込むのはやめてほしい。せめて突っ込む一秒前には申告してくれ」

「了解した。善処しよう」


 俺は色々ぶちまけたい感情を一旦全て飲み込み、大きなため息で少しでも発散する。

 今どうこう言っても戦う時ノイズにしかならないし、長話している隙もない……命のやり取りをするって分かってるのに不安要素を作りたくない。

 チギリにも怒られたし……言いにくいことをしっかり言ってくれる存在は貴重だ。

 こういう感情の処理もチギリなら上手くやるんだろうなぁ……。

 

「二匹とも! 無事!?」


 霧を突き破って真っ先に合流したのはガルタ。

 遅れてチギリとサクラも後ろからやってくる。

 明らかに不服そうな表情をしているチギリが口を開く前に、俺は前足でチギリを静止する。


「ごめん、軽率だった。ミリピードには突っ込むなと言ったけど受け入れられなかった……だから突っ込む前に申告するようお願いした。俺もスキルを使って索敵を行ってミリピードと二匹で前衛をする」

「……いや、霧の中詳しい状況を把握出来るバカうさぎと無鉄砲ムカデは分かれるべきなのだ。ガルタとムカデ野郎が前衛をやるのがいいだろうなのだ」

「僕? 任せて!」


 呼び方から怒りが漏れ出ているのが分かる……。


 ガルタはいつもと変わらないにこにこ顔でミリピードの横につき、なにやら話をし始めた。

 一方のチギリは吐こうとしたため息を大きく飲み込み、二足で立ち上がる。

 俺の目の前に迫り、前足で俺の視界の中心に指を指して睨みつける。

 俺のピントはチギリの指に合い、周りの背景がぼやける。


「おいバカうさぎ。貴様はいい加減に自身を省みることを覚えろなのだ。あのムカデ野郎に酷くお怒りのようだが、貴様も同類なのだ」

「……!」

「それでやつに説教かまそうなんて片腹痛いのだ。貴様らに説教する資格があるのは精々あっしくらいなのだ、命を軽んじる異常者共め」


 チギリはフンと鼻を鳴らして俺の顎を鼻先で持ち上げる。

 さっさとスキルで索敵をしろ、ってことだろう……。


「スキル発動……ソニックウェーブ」


 俺は角を震わせながら言われたばかりの言葉を反芻する。


 自身の身を省みることを覚えろ。

 貴様も同類。

 説教する資格はない。

 命を軽んじる異常者。


 ……全くもってチギリの言う通りだ。

 俺は、俺にはミリピードに怒る資格なんてなかった。

 そう、俺はミリピードに言いたかったんだ。

 もっと自分を大切に扱ってほしいって、自分の命を盾にするような戦術はやめてほしいって。

 けど……今までの俺はそれをミリピードに言えるような戦い方をしていたか?

 痣に触れて、自分がどんなに苦しもうとガルタを、サクラを、チギリを守るために力を使おうとした。

 いや、そもそも俺は皆を守ろうとしてその力を使おうとしたのか?

 その後ろにあるリスクを度外視した、俺がしようとしたことはただのエゴで、その場で皆が死ぬところを見たくないだけの俺の……──────


「せんぱい」


 俺の……


「先輩!」

「……っ」

「先輩」

「っあぁ……どうした、サクラ、今索敵してるから……」

「先輩が優しいから、ミリピードのことほっとけなかったんすよね。オイラ分かってるっすから」

「……」

「チギリの言っていることは正しいっす。確かに先輩にはミリピードを怒れるような行動はできてないかもっす……けど」


 サクラは身体を伸ばして俺の肩に回す。


「オイラたちは探検隊の仲間っす。危険なことは危険だって、やめろって言うのが正しいっす。まぁそれが避けられないのが探検隊でもあるっすけど……最小限にリスクを軽減するべきっす。誰かに言うことで、言おうとすることで……無意識に自分も同じことをしてたとか、そういうのに気づけるんじゃないかなって思うんすよ。だから要するにその……そんなに気にしないでくださいっす。チギリも、きっと先輩のこと心配してるんすよ」

「そうか……そうだな……」


 俺はスキル発動を終え、サクラに微笑みかける。


「ありがとな」

「いえいえっす!」


 アイテムは少なくともこの周辺にはない……ハズレフロアだな。

 けど逆に考えればこの不安定な状況で長く探索する必要もないってことだ。

 霧の中レベルアップのためにモンスターを殺すのも……リスクが高い。

 やるにしても次のフロアからでいい、ミリピードの感覚と合わせれば安定感も増すはず。

 けど……今のままじゃリスクを避けてミリピードと協力するのは無理だ……なら。


「このフロアは……最速で攻略する」

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