第51話 先に進むために
「やっぱり、このままじゃ勝てないと思う」
リンガの実を食べながら俺はそう言った。
皆はそれを不服そうに、だがそれでいて何も言えない様子だ。
「次でようやく七階層、そこでまたオニに会うかもしれないし、十階層にはボスモンスターまでいる。明らかに戦力が足りない」
そう言い切って俺はまた一口木の実を齧る。
それでやっと体内のゴワゴワした感じが消え、ゆっくりと角の再生が始まる。
限界を超えて魔素を使うのはもうやめよう……痛すぎるし気持ち悪いし、何より回復アイテムの消費が激しすぎる。
ポケットキャンプファイヤーに加えてリンガの実を二つ食べてしまった。
「……そうだね。ウサミがそんなボロボロになるまで頑張らせることになっちゃう」
「頑張らせるなんて言わないでくれよ。俺は自分の意思でやってんだ」
「僕らが危ない時にウサミがそういう行動をとるって、少なくとも僕は分かってた。なのにこの体たらくなんだから……頑張らせたも同然だよ」
俺とガルタは互いに頬を膨らませて軽く睨み合う。
だって俺が望んでやったことだろ、なんでそれを状況証拠だけで頑張らせたみたいな言い方をするんだよ。
全部お前らを守るために、俺が勝手にやっただけなのに……。
俺とガルタの様子を見ていたチギリはギリギリと歯を噛み、溜め息を吐いてから大きくウォホンと咳払いをする。
俺とガルタはチギリの方を見やる。
「癪だがウサミ、貴様の言う通り……あっしも戦力が足りないと思うのだ。あっしはもうこんな目に遭うのはごめんなのだ。……ところで戦力が足りない、無理だと言ったからには当然! 打開策があるのだろう? な?」
チギリは金色の瞳をぎょろぎょろさせながら俺に詰め寄る。
怖いって……明らかに圧を感じるんだけど……。
まぁ勝てないって言うだけじゃ士気を落とすだけっていうのは分かってるし、考えてはあるけど……
「不確定要素が多いし、策って呼べないくらい穴があるものだけど、あるっちゃあるよ。一案って感じかな」
「聞かせてみせるのだ」
「まず一つ目は……俺の痣の力の制御だ」
「却下!」「却下っす!」
ガルタとサクラが同時に俺に詰め寄る。
反対されるとは思っていたが……こんな食い気味で反応されると思わなかったな。
そんな心配してくれなくてもいいじゃん?
俺は前身を起こして前足で二匹に壁を作る。
「まぁ正直俺もやりたくない。ありえないくらい苦しいし、皆の命の保障ができない」
ガルタとサクラは顔を見合わせてから、渋々元いた場所に戻る。
チギリは腕を組んでどっかり座り直し、鼻をふんと鳴らす。
「ではもう一つは?」
「もう一匹……ラビリンス内で仲間を増やすことだ」
◇◇◇◇◇
「……ここ、は……?」
キリタチの谷のどこか。
一匹のモンスターが暗闇で目を覚ました。
彼はピクピクと触覚を動かしながら辺りをてきとうに這い回る。
細長い身体は蛇腹状に細かい段差を超えていき……霧の隙間から漏れ出る光を感じ取る。
彼の胸中に在るは、オニに殺され続けた永い苦しみや痛み……ではなかった。
「自分は……戦わなければ、前に出なければ」
彼は洞窟から這い出、鋼鉄のように硬い顎肢同士をぶつけてキンキンと敵意を込めた音を撒き散らす。
その宣戦布告を聞いてか、彼の周囲では唸り声や足音が害意を持って響き続ける。
黒光りする体表は朧のようにぼやけ……やがて全身を迷彩柄に変えた。
彼は一歩も引かない、ただ迎え撃つ構えを取るだけだった。
「かかってこい」
彼の名前は、ミリピード。
戦う理由を忘れても前に出ずには、退かずにはいられない。
まさに不退転、百足のモンスターである。




