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第50話 熱

 また、声が聞こえる。

 次は誰だろう。

 水の中に沈んでいるみたいで、光も音も匂いも全てがぼやけてしまっている。

 ……ちょっと集中して聞いてみようかな。


「おい、ウサミはいつ起きるのだ。遅すぎるのだ」

「そうだね……ポケットキャンプファイヤーもそろそろ効果が切れちゃうし、なんでか角も再生しない」

「あっしを吹き飛ばして頭から突っ込ませた責任を取ってもらわねばならん」

「もう、チギリはまたそんなこと言って。素直じゃないっすねぇ」

「なんだと貴様!」

「ちょっ、落ち着くっすチギリ!」


 うーん……やっぱりよく聞こえない。

 

 くぐもって聞こえる音になんとか意味を持たせようと軽く考えてみる。

 ペタペタとなにかが叩かれる音、少し濁った……声かな?

 ……喧嘩してる? いや、戯れてるのかな。

 何人かいるのは分かるけど……


「ウサミ……大丈夫?」


 この人の声は……戯れてるのとは別の?

 ……なぜだか安心する、この声を聞くと。

 何言ってるか分かんないけど。


「早く起きるといいな」


 また何か言われた、それと同時に頭に何かが触れる。

 前に、後ろに、前に……往復している。

 ……撫でられてる。

 優しい手つきだな……昔お母さんに撫でられて寝かしつけられたのを思い出す。

 ……けど、なんかチクチクするし硬い手だな。

 なんかもったいな、せっかくこんなに撫でるのが上手いのに。

 ふわふわした自分の毛が靡き、がっしりした誰かの手が触れ、身体がぽかぽかしてくる。


 あったかい……多分、今俺を撫でてくれているのは誰よりも優しくて、慈悲深くて、太陽みたいな人なんだろうな……。

 あぁ、いや、違うな──────


「────人……じゃないか」


 俺は目を開き、横に座るガルタの顔を見上げる。

 火に照らされた顔は明るくなっているけど、どこか儚げな表情をしている。

 ガルタの目には焚き火がゆらゆらと揺れていて……遅れて俺に気づくと目が涙でさらに光を放つ。

 そしてガルタはゆっくりと俺の身体に覆い被さる。

 俺はそのまま目を瞑って息を吸い、吐く。


 ガルタの、匂いがする。

 土と、獣と、草の匂い。

 前世だったら間違いなく息を止めて忍ぶような臭いだったろうに、今はなぜだか安心する。


「おはよう、ウサミ」

「おはよう、ガルタ。今度は飛びついてこないんだな」

「ほんとはそうしたいけど……すごい痛がってたから」

「ふーん……」


 まぁ、ガルタもちゃんと学習してくれたんだな。

 洞窟で目覚めた時は酷い目にあったし、首絞められて苦しかったし。


「先輩、ぷぅぷぅ鳴ってるっすよ?」

「へ」

「なんて分かりやすい男なのだ。これでは悪いモンスターに騙され放題だな、フハハ」

「ちっ、違うから! 本当に……そんなことないよ」


 ……こんなことしてくれる人なんて前世の時はいなかった。

 抱きしめて頭を撫でてもらえるなんて……。

 ……幸せ、なんだ。これ以上ないほど。

 痛くて苦しくて、死にそうになったとしても。


 まぁ──────


「まったくウサミはかわいいなぁこのこのぉ」


 ガルタは俺の首に腕を回し、頬にぐりぐりと拳を押し付ける。


 ほんとやだこいつ。


 そう思いながら俺はガルタの腕を前足で掴んで頭を預ける。


 ──────直接は言ってやんないけどな。


 どうせ、こうやっていじられるだけだしな。

 そう心の中で独りごち、やれやれと笑う俺はまた暖かい光で満たされた。

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