第49話 オニの秘密
声が、聞こえる。
誰の声が推察しようと聞き耳を立てるも、意味はなかった。
『また会ったな』
頭の中に直接反響するような声。
どうやら馴染みのあるそれはどこで聞いたものか……全く覚えがない。
誰ですか、と問おうとするも声が出ない。
『……声が出ないか。やはり上手く接続できんな』
なんか勝手にこっちの状況把握されてるし、接続とかよく分かんないこと言ってるな。
まじで誰なんだよこいつ。
『むぅ、もう意富加牟豆美命の力を使ったのか。一度で使い切るとは中々だな』
おおか……なんだって?
さっきからこいつの言っていることが何一つ分からない。
というか今俺はどうなっている?
目も見えないし音も……こいつの声以外何も聞こえない、耳鳴りがするだけだ。
匂いもしない、感覚もない、意思だけがそこにある……無痛無汗症ってこんな感じなのかな。
なにもできないからか、脳の隅に眠っているようなどうでもいいことばかりが頭を巡る。
その間にも声の主は唸る。
何も感じないのに、じっと見られている感覚だけがあって果てしなく気持ち悪い。
『おい、宇佐美佑歩。返事しなくてもいい。聞け』
いきなり乱暴だな。
てかなんで俺の名前知ってるんだよ。
誰かも分からないやつの言葉、ましてやこんな状況で聞いた言葉を信じるわけが……いや、待てよ?
そういえばこの声は……神社の……。
『お前の中にある力は私の大切な……いや、大馬鹿者の力の可能性が高い。貴様の身体には身に余るだろう』
……痣のことかな。
直感というやつなのか、俺はそう思った。
『その力を背負わされた責任は我にある。故に神の名の下に誓おう。その力を取り除いた上で、必ず無事に元の世界に帰してやると』
元の、世界?
待って、俺はそんなの望んでない……!
俺は神を名乗るそいつに、異議を唱えようと無い口を開こうともがく。
しかしその努力虚しく、何も起きない。
『ここまでか。では、また会おう』
待って、待って……!
その願いが声の主に届くことはなく……溶けるように欠けていく意識の中で、俺は眠りについた。
◇◇◇◇◇
「ふぁいやー!」
僕は放射状の薪に魔素を照射した。
するとボッと音が鳴り、赤色の炎が燃え上がる。
広場で一つだけ買ったアイテム、ポケットキャンプファイヤー。
魔素を照射することで火が灯り、じわじわと魔素を回復させてくれる効果がある。
階段を上る途中であった小さな平地で休憩をとっている。
チギリのような意思を得たモンスターを除いて、階段にラビリンスのモンスターが入ることはできない。
ラビリンスの不変のルールだ。
僕は壁を背に座り込み、火に手を翳す。
魔素不足で重たい身体がじんわり暖かくなり、安堵の溜め息が漏れる。
「……ねぇ、サクラ」
僕は手を翳したままサクラに話しかける。
サクラはリンガの実を頬張りながら僕の方を見る。
「どうしたっすか師匠」
「僕、おかしいと思うんだ」
「なにがっすか?」
「オニって……本来あんなに好戦的じゃ無いんだよ」
サクラがごくりと音を立ててリンガの実を飲み込んだ。
「そうなんすか?」
「あれ、サクラってこういうの詳しいと思ってたけどな」
「お恥ずかしながら……オイラが探検隊を目指さないよう、父ちゃんたちにその辺りの情報はできるだけシャットされてたんすよ。まぁそんな状況でも、こっそり探検隊のモンスターたちに話を聞きに回ったりしましたけど」
サクラは懐かしむようにてへへと微笑んで頭に巻いたのスカーフを撫でる。
「けど、探検隊の皆さんはオニについてのことをあんまり話さなかったっすね……今思えば変な話っす。あんな強くて危険なモンスター、ギルドでも注意喚起されてても不思議じゃ無いのに」
「きっと話題に上がらなかったのは、オニが探検隊の前に現れることがほとんどないからだと思う」
「けどもうオイラたちは……」
「うん。もう二回も遭遇してる。それに向こうから戦闘を仕掛けてきた」
オニたちには役割がある。
ラビリンス生まれのモンスターだけが知っている、外のモンスターに話してはいけない禁忌。
ラビリンスのモンスターを殺して殺して殺し続ける、最悪の存在。
けど……僕やチギリのような意思を持つモンスターを殺しにくるようなことはないはずなんだ、こちらから手を出したわけでもないのに。
オニの印を得たモンスターは外に出る権利を得る、オニがそれを邪魔することはないはずなのに。
「……いや、待って……」
そういえば、だ。
ウサミとはラビリンスの中で出会った。
そして気づいたらラビリンスに居たって言ってた。
確か……トウキョウ? とかいう場所に住んでるって言ってたけど、僕はそんな場所知らない。
もし仮に、ウサミがラビリンスで生まれたモンスターだったら?
ラビリンスに生まれながらオニの印がない、僕と同じ禁忌を犯したモンスターだったら?
「もしかして……」
オニの狙いは……僕とウサミ?




