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第47話 仲間を信じて

「う、ウサミ……世界が揺れてるよぉ」

「ごめん……助けたくて……」

「へへ……ありが、と……」


 ガルタはフラフラと力なくよろけ、俺の背中からずり落ちる。

 スキルの反動が残ったまま、ピストンしまくった俺の背中に乗っていたのだから無理もない。

 けど……


「いっ……た……」


 俺ももう、限界……


 痛みと疲労で足がプルプルと震え、倒れまいと堪えるも……上手く力が入らずに地べたに倒れ込んでしまう。


「ウサ、ミ」


 魔素がすっからかんで動けない……さっきだって無理して人間の片手でスキルを使ったんだ、視界がぐにゃぐにゃで耳鳴りが俺の頭を塗り潰す。

 口内は胃液がじわじわと侵食してきて酸っぱい、今すぐ吐き出したい。

 たとえ今スキルが使えたとしてもあいつに当たらない、回復手段の木の実はガルタのアイテムボックスの中。

 ガルタは反動が残ったまま激しい動きをしたせいでダウンしてる、俺のせいだ、俺の判断ミスだった。

 俺が、俺がなんとかしないといけないのに……身体がもう、動かない……!


 地面を引っ掻いて蠢く俺をよそに、鬼はゆっくりと歩いて吹っ飛んでいった鉄棒を拾い上げる。

 そしてそれを地面に立て、俺の顔を見て歪んだように笑った。

 仮面の隙間から見える奴の、漆黒を煮詰めたような笑みが俺の恐怖心を掴んで膨らませていく。


「ヒトヒト……」

「はっ……はっ……」


 もう少し……もう少しなはずなんだ……!

 ここまで追い詰めたら、もう倒せる……倒すまではいかなくとも、戦闘不能にさえできれば…………


「……痣を、触れば……」


 原理は分からない。

 何が起きてるのかも分からない。

 誇張抜きに死ぬほど苦しい痛み。

 生還できるか分からない。

 この恐怖に目を瞑れば、俺に勇気があれば、強ければ、この状況を打開できる。

 あの鬼でさえ余力を残して倒せる。

 痣に触れさえすればそれだけの力を手にできる。

 捨てろ、俺の自我なんて今は必要ない。

 痛いのが嫌だからしません、怖いからしません、そんな甘えたことを言っている暇はない。


「シクシク……」


 どこからか冷たい風が吹く。

 身体に吹きつけるそれは俺の思考回路から冷静さを奪って熱くする。

 俺が、俺がやればガルタが死なずに済むんだ……!


「だめだよウサミ……! それだけは……!」

「じゃあ誰があいつを……!」

「仲間を、信じて!」



 チリン──────



「カブラヤ!」


 久しく聞くしゃがれた声とともに、上空から一本の矢が飛ぶ。

 金色の矢が鬼の足元に突き刺さったその瞬間、目覚ましのようにけたたましく鈴の音が鳴り響いて大爆発。

 その衝撃で鬼は後方に吹き飛び、俺は横のガルタを掴みながら飛ばされぬよう踏ん張る。

 踏ん張りながら矢の飛んできた方向に目をやると、チギリを乗せて跳ぶサクラの姿があった。


「ブロッサムダンプリング!」


 サクラが即座に奥の手のスキルを発動し、十個の餅が発射される。

 それは空中で無防備になった鬼を捉え、地面にくっつけた。


 サクラにチギリ……!

 最高のタイミングじゃないか!


 そんな心の中の賞賛を届ける間もなく、サクラは空中で弧を描いて落下しながら俺を見る。

 歪んでくの字に曲がって見えるサクラが、何かを伝えようとしてる。

 これは…… 


「ガルタ! 無理にでも俺に捕まれないか!?」

「乱暴になる、よ」

「ばっちこい!」

「スキル発動、回復ダンゴ!」

「……ごめん」

「んぐッ……」


 ガルタは俺に覆いかぶさり、腹に爪を突き刺した。

 自分の肉に軽く食い込む爪の感触を感じながら、痛みの反射で俺は地面を蹴る。

 サクラの回復ダンゴを口でキャッチし、またも噛まずに飲み込む。

 身体が綿でできてるような不快感が消え去り、血にも似た魔素が身体を巡る感覚が蘇る。

 視界も多少元に戻り、喉元まで迫るゲロも無理やり飲み込んだ。

 イガイガと絡みつく感覚も飲み込み、ただひたすらに地面を蹴り続ける。


「階段を見つけたっす! 着いてきてください!」

「おっけい!」


 身体を膨らませて器用に着地するサクラは高く跳ねながら霧の中を突き進む。

 俺はとにかくキツくても地面を蹴る、蹴る。

 胴体に食い込んだガルタの爪は俺が速度を上げれば上げるほど深く潜る。

 肉と毛に血が滲んでいるのを感じて気持ち悪い。

 ガルタもガルタで身体に力が入らず、嵐に吹かれる洗濯物のように振り回されて今にも振り離されそうになっている。


 皆、皆つらいんだ……つらい中命張ってんだ、俺が止まるわけにはいかない……。


 霧に包まれ視界がほとんど機能しない中、俺は耳を頼りにサクラを追い続ける。

 しかし皮肉にもその頼りの耳が同時に、俺たちを追う絶望の存在を知らせていた。

 信じたくない現実────鬼が、追ってきている。

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