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第44話 再来

「スキル発動……」


 両手いっぱいに掬った魔素で全身を覆い、スキル発動の構えをとる。

 イッカクウサギの身の丈に合わない大量の魔素が身体中から迸り、その流れが霧を吹き飛ばす。

 異常性に気づいた周囲のモンスターが一斉にこちらを見て唸り、額から冷や汗がたらりと流れた。


「ウサミ、こっちは任せて!」

「チギリを頼むっす!」


 俺は頼もしい二匹に首を縦に振って応答し、半足後ろに引いた。

 そして爪先にグッと力を入れると、甲高い音を立てて地面が割れる。


「ホーンタックル!」


 鈴の音がした方に一直線。

 俺の身体は空を切り裂くジェット機が如く、周囲の霧を吹き飛ばしながらひたすらに突き進む!

 俺には分かる、あの音は昔ゲームで聞いたことがある……チュウリンのスキルの効果音と同じだ!

 つまりこの先に……


「チギリぃぃぃぃぃぃ!!」

「ぬ!?」


 見えた!


 ホーンタックルを使った俺の勢いは留まることを知らない、一切の減速をせず突貫。

 チギリは溢れ出す魔素に吹き飛ばされる形で俺の進路から離脱し、進路上には邪悪なオーラを放つゴロックのみが残る。


「ゴロッ!!」

「あ゛ぁ゛ぁぁ!!」


 スキルを発動したゴロックと正面からぶつかり合い、衝撃波がラビリンスを伝う。

 魔素で限界まで硬化させた角と、このラビリンス内では別格と言えるほどの硬さを誇るゴロックの身体が唸りを上げる。


「あっしは無理が嫌いなのだ……なのに……」


 チギリは二足で立ち上がり、残った前足で紅の弓で黄金の矢を引く。


「ここまでさせやがって……! スキル発動、カブラヤ!」


 彼の放った矢は鈴の音を鳴らしながらゴロックを横から突く形で飛んだ。

 命を懸けてぶつかり合っているウサミとゴロックがそれに気づくことは当然なく……


「ゴァッ……!?」


 黄金の矢はゴロックを貫通し、一際大きな鈴の音が響き渡った。

 ゴロックの身体から力が抜け……


「あ゛っ!?」


 未だエネルギーの残ったウサミの身体は慣性を残したまま飛び、先にある大岩に激突して大きな土煙を上げた。

 力尽きたゴロックの身体は消えるように徐々に形を失っていく。

 やがて光の粒子となったそれはチギリと……土煙の中にいるウサミに吸い込まれた。

 チギリはそれを見て血をペッと吐き出し、ぜぇぜぇと息を切らせながら弓を支えにして立つ。


「ふん……吹っ飛ばした借りはあっしの無理でちゃらだ……ウサ、ミ……」


 弓矢は光となって弾けて消え去り……チギリは前に倒れ込んで意識を手放した。



◇◇◇◇◇



「ぅう……っい……!」


 頭から流れる血の温度で目覚めた俺は、未だ生暖かい頭の傷を抑えて涙を浮かべる。

 涙で滲んだ視界は辺りに舞う砂煙で更に滲み、充満する土砂を吸い込んでしまい咳き込む。


 ズキズキと固まりそうな痛みと、内側から圧迫されるような痛みが同時に襲ってくる……魔素の使いすぎのせいなのか、頭を強く打ったせいなのか……どっちもか……。


 モヤがかかったような思考の中、暖かな光が俺の中に吸い込まれる。


 これは……EXPだ。

 あのゴロックは殺せたってことか。


「……チギリ!」


 チギリは……どうなった?


 俺は焦燥に駆られて砂煙を抜け出し、ある程度霧の晴れたフロアを見回す。


 どこ……どこだ、チギリ……


 最後に聞こえた鈴の音は間違いなくチギリだ、チギリが手助けしてくれたんだ。

 スキルを発動してから時間が少し経ったあの時の出力では……押し負けていた可能性も大いにあった。

 あの異常な強さを持つゴロックからもぎ取った勝ちは俺だけのものじゃない。

 俺とチギリのものだ。

 視線を一瞬向けただけでも分かった、乾いた血がこびりついた体毛に震える手足……あの限界のチギリを放っておいたらいつ死ぬか分からない。

 早く見つけないと……


「……ん」


 運が良い。

 リンガの実が落ちているのを見つけた。


 俺はリンガの実を両前足で抱え、二足でよちよちと歩く。

 本当なら木の実は後回しにしてチギリを探したいが……今アイテムボックスを持ってるのはガルタだからな。

 ただ……全力でスキルを使って跳んだせいでさっき戦った場所からどれだけ離れたか分からないんだよな。

 残りの魔素が少なくてきついけど……ソニックウェーブを使うべきか?

 十中八九魔素酔いを起こす……というか今そうなりかけてるけど。

 ……今持ってるリンガの実をチギリと分け合って、ガルタたちと合流してからもう一個二人で木の実を食べればいいか。

 

「スキル発動……ソニックウェーブ」


 角を掲げて震わせ、超音波を発する。

 反響する音はフロアの全体構造をなんとなく俺に知らせると同時に、その場にいる生命体の位置も大まかに把握させてくれた。

 ズキリと痛む頭、その痛みから頭を抱えたくなる……が、そうもいかなくなった。

 全身から汗が吹き出し、ガタガタと震え出したのだ。

 本能。それが俺にそうさせていた。


「ヒトヒト……シクシク……」


 振り返らずとも分かる、聞き覚えのある声。

 それでも俺は振り返りざるを得なかった。

 もしかしたら、奴じゃないかもしれない。

 お願いだ。どうか風の音かなにかであってくれ。


「……」


 金色の捻れた角、赤い般若の仮面。

 無機質で棒のような手足に大きな鉄棒。

 俺の後ろに立つそいつの正体は紛れもなく……


「ヒトヒト……シクシク……」


 鬼。

 絶望の化身だった。

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