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第43話 やくたたず

「ふっ……ふっ……」


 一体……あいつらと別れてどれだけ経った?

 なんとかここまで生き永らえてきたが、さすがにこれ以上は……


 軋む身体中から自身の血と脂の臭いが漂い、鼻が曲がりそうになる。


「ゴロロ……」


 あっしは岩陰に姿を隠しながら魔素を練り、いつでもスキルが発動できるよう構える。

 しかしスキルを使うということは、すなわち敵にこちらの位置を知らせることになるのだ。

 あっしの得たスキルは絶大な威力を持つ代わりに、その場で大きな音を立てるというデメリットがついている。

 そのせいで敵を倒せてもすぐに増援がやってくるのだ。

 もうすでに何度か使った。

 ここもいつバレるか分からない、早く離脱しなければならないというのに……


「ちう?」


 チッ……同種なら手加減くらいしろというのが分からないのか。

 あっしのことはあっしが一番分かる。

 あっしらチュウリンの感覚は鋭いのだ。

 耳も鼻も、危険を察知する第六感も秀でている。


 スンスンと鼻をヒクつかせる音がジグザグしながら近寄ってくる。

 あっしは疲労で漏れるうるさい吐息を無理矢理止め、全身の毛を逆立てる。


 来るな、来るな、来るな、来るな…………


「ヂッ!!」

「くそっ!」


 そんな願いが届くわけもなく、あっしは苛立ちを口から吐き出した。

 後ろ足でバックステップを踏み、飛び上がって練り上げた魔素を形にする。


「スキル発動……」


 言霊を紡ぐと、あっしの首元の印から赤い弓が出現する。

 追加で魔素を練り上げ、金色の矢を生み出して弦にかけた。

 右前足で弦と矢を引き、チュウリンの眉間に狙いを定める。

 何度も引いてきたからか、前足がプルプルと震えて矢先がブレる。


「カブラヤ!」


 それでも金色の矢はまっすぐチュウリンに向けて飛び、地面を貫通する勢いで突き刺さった。

 砂埃と血を辺りにぶちまけ、あっしの視界が紅に染まる。

 しかしそれと同時に、耳を塞ぎたくなるほどやかましい鈴の音が鳴り響いた。

 被せて大きく舌打ちする。


 なんなのだ。

 なぜこうも不便なスキルを渡すのだ。

 あっしは目の前の敵を静かに倒せればそれで良い、それ以上に今は何も望まないのだ。

 なのにあっしに巣食うこのオニは、素直にあっしの助けになってはくれないようなのだ。

 使用したら光って位置がバレるとかだったらまだ、この霧の中では影響が少ない。

 だがこのスキルは視界が無くとも関係ない、大きな音が鳴るというデメリットを抱えている。

 この……役立たずが。


「ゴロォ!!」


 くそッ、クソックソ!!


 すぐ近くにいたゴロックが霧の中で目を光らせ、あっしのことを見る。

 その瞳は狩りをする猛獣のもので、思わず額から汗が一筋垂れた。

 あっしはラビリンスに長く居て気づいたことがある。

 ここにいるモンスターには、確かな格差があるのだ。

 その格差は弱肉強食のこの場らしく、生来持つ魔素量と強さで決まる。

 ここで暮らしてきたあっしには分かる。

 今目の前にいるゴロックは、明らかなる格上だと。

 

 だが多少格上であろうと関係ない。

 このスキルの威力は絶大なのだ。

 たとえゴロックであろうと貫通する威力が……


「ゴロ……ゴロロォ!!」


 金色の矢を再び生み出そうとしたその刹那。

 あっしのことを吹き飛ばさんとする向かい風が吹く。

 いや、風ではない。

 圧倒的な魔素の奔流。

 それがあっしの全身の毛を後ろに靡かせる。

 目の前にいるゴロックが灰色のオーラを纏い、地面にヒビが伝う。

 その場でドンドンと飛び跳ね、あっしを嘲笑うように目を細める。


「スキルはつ」

「ゴロッ!」


 ほとんど反射で口から出た力ある言葉の一端。

 しかしその言葉が力を為す前にあっしの眼前には歪な岩肌が広がった。


 あっしは思った。


 ────なぜ?


 だってそうだろう。

 いつ産まれたって、ついさっきだぞ。

 いや、何ヶ月も何年も何十年も、それとももっと生きていたのかもしれない。

 でも、違う。

 なんの意識もなくただ殺され続ける時間を、「生きていた」と表現していいわけがない。

 いいわけがないのだ。

 あっしがあっしとしての自我を得たの本当につい最近、あいつらと会う数日前だ。

 あれだけ苦しんだのに、まだそれしか生きていない。

 一体あっしが、なにをしたというのか。

 答えはそう、文字通り()()()()()()()()


『契約は繋がり、なんすよね?』 


 その通りなのだ、サクラ。


『だったらオイラたちが渡して、チュウリンから貰って、またオイラたちが渡して……そういう繰り返しがなきゃ、繋がりが切れちゃうじゃないっすか』


 そう……なのだ。

 なにも為さぬまま……たった一つの契約すら守れないあっしという男は……なんのために、生きていたのだろう。


 サクラ……


「すまん」


 最期を悟って漏れたのは、産まれて初めての謝罪だった。

 だがまぁ、ちょうどいい。

 謝罪なんて、舐められて搾取されるだけのばかが吐くものだ。

 あっしがそんなばかと同類になるなんてのは、御免なのだ。

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