この並木道に告白を―
「...そうそう、昔よく行ってた緑地公園」
スマホで通話する糖太の隣で、静かに耳をそばだてる恋衣。さすがに電話口の相手の声までは聞き取れない様子。
「...よかった、じゃあ連絡待ってるね」
用件だけ伝えるとすぐに電話を切った糖太を、申し訳ない表情をした恋衣が上目遣いで見つめる。
「大丈夫だった。母さん、10分くらいで着くってさ」
「ううう、かたじけない...恋衣が軟弱なばっかりに...」
恋衣の脳裏に人の良さそうなトータママの笑顔が浮かんだ。たぶんトータママは嫌な顔一つしない人だと分かっていても、胸の内は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
「仕方ないよ。見た感じだと腫れも大きくないから、大事じゃなさそうでよかった」
痛めた恋衣の足首に目を向けながら、糖太はゆっくりとベンチから立ち上がった。そのまま隣に座った恋衣の前にしゃがみ込み、そっと恋衣の足首に触れる。
「...ちょっと熱、持ってるね。炎症が進む前に帰って冷やそう」
ひんやりとした糖太の指先を感じつつ、言われるがままにこくこくっとうなずく恋衣。今なら何でも言うこと聞いてくれそう...いま、何でもって言った?
「さて、さっさと移動しようか。入口まで結構、距離あるからね」
恋衣から視線を外して、公園の入口がある方向に目を向ける。ここからだと見通しのいい並木道をまっすぐ抜けるだけだが、さすがに怪我人を歩かす距離ではない。
不安そうな顔で糖太の指示を待つ恋衣。庇護欲を掻き立てるその姿にグッと自制心を働かせながら、糖太は頭に浮かんでいた二択を提案する。
「恋衣...おんぶとだっこ、どっちがいい?」
◇
氷砂糖恋衣はおんぶされている。青々と茂る並木道を、幼馴染に背負われて進んでいく。
「さっきは裏から入ったから通らなかったけど、この道も懐かしいね」
この並木道は秋の紅葉時期が特に人気だけど、この時期の若々しい緑もとても美しいものだ。
「...トータ、ごめんね。その、重くない?」
申し訳なさで一回りほど小さくなったような錯覚を覚えるほど謙虚になってしまった恋衣が、糖太の背中越しに声をかける。
「ぜんぜん、軽くて心配になるくらいだよ」
なるだけ余裕っぽく聞こえるように意識して返事をする。正直、気を抜くとヨロけそうになるのを隠すので精一杯です。
「ほんと、ごめんね。こんな...ダメダメな幼馴染で」
ギュッと手に力を込める恋衣。少しの遠慮が挟まっていた二人の隙間が、ほとんどゼロになってしまう。
地面に落ちる木漏れ日を眺めながら、糖太は二人分の重みを感じる足を止めることなく前に出す。
「...そうかな?けっこう素敵だよ、僕の幼馴染は」
乱れそうな呼吸を抑えつつ、この道を二人で走っていた頃の記憶を思い出していた。
「小さい頃から、ずっと一緒で。こうやってまた、この道を一緒に歩けてる」
あ、実際には恋衣はおんぶされてるから、歩いてはいないんだけど。まぁ、それはご愛敬ということで。
「変わらなくていい、かな。少なくとも僕は、いつもの恋衣が好きだよ」
面と向かっていないからなのか、いつもだと言えないような恥ずかしい言葉が素直に出てくる。背中越しに恋衣の緊張が伝わってきて、つられて糖太も恥ずかしくなる。
「あ、でも。もうちょっと、手加減してくれてもいいかな。毎日はかまってあげられないし」
ごまかすように早口でまくし立てた糖太は、グッと力を込めて背中の恋衣を背負いなおした。
突然の衝撃に「わっ」と小さく声を上げる恋衣。一瞬だけモゾモゾと抵抗する様子を見せるも、結局は糖太の背中に体重を預けて落ち着いたようだ。
「...うん、わかった。トータ、いつもありがと」
耳元で聴こえた幼馴染の素直な言葉に、思わず首がむず痒くなってしまう。ふふっと恋衣の笑い声が聞こえた気がして、思わず糖太にも笑みがこぼれた。
(そっか。トータって、ぽっちゃり好きなんだ)
糖太の決死の告白を「太っててもOK」と曲解した恋衣により、糖太は「メンヘラ好きのぽちゃ好き」という不名誉なレッテルを貼られることとなった。
勘違いコント、ってひとつの解だよなぁ




