君が望む学校生活
「えーっと、恋衣...どうしたの?」
平日の昼間、閑散としたバイト先のドーナツ屋さん。ワンオペ中に暇を持て余していた糖太は、入店してからずっとテーブルに伏せたままのメンヘラファッションな幼馴染に声を掛けた。
頭上から掛けられた声にのっそりと反応して顔を上げる幼馴染。なんだか、先週よりも少しだけ頬がこけたような印象を受ける。
「ねぇ、トータぁ...なぐさめてよぉ...」
力のない声を返す恋衣の姿に、糖太は小さくため息をこぼした。
恋衣はファッションメンヘラである。根は『清楚で真面目だけが取り柄』の典型的な普通の女の子だ。
「うぅうう...悲しすぎるよぉ、その幼馴染のヒロインがねぇ」
恋衣の話を聞くと、どうやらメンヘラで有名なアニメを一気見したらしい。メンヘラなんて現実だけでお腹いっぱいなのに、わざわざそんなアニメを見るなんて...物好きだなぁ。
「最初はね、スマホの待ち受けのおまじないをしてた主人公を見かけて、それを友達として応援しようとしてたんだけど、途中で相手のヒロインの子が交通事故にあっちゃって」
オタク特有の早口言葉で捲し立てる恋衣の話を聞き流しながら、お店の入口をチラっと確認する。どうやら、しばらくはお客さんの気配はないようだ。
「それから数年後、植物状態のヒロインが目を覚ますんだけど。なぜか性格が豹変しちゃって、急に鉈を手にして家に突撃してきてぇ」
なんだか、すごいネタバレをされている気がする。いや、そのアニメ見る気ないからいいけどさ。
「まぁその後なんやかんやあって、最後は綺麗な景色を背景に船の上で結ばれるんだけど」
ナイスボートな結末に「ほぉん、へぇ~よかったねぇ」と適当に相槌を打っておく。壮大なネタバレを吐き終えた恋衣は、気だるそうにその身体を机に投げ出した。
「ん?でも、それってハッピーエンドじゃない?恋衣は何が悲しかったの?」
結局、主人公とヒロインが結ばれたのならば大団円なのでは?もしかして、恋衣は幼馴染のヒロインに感情移入してた...とか?
「いや...それがさぁ」
テーブルの上に伸ばしていた両手がピタッと動きを止め、恋衣は顔だけこちらに向けて渋い顔を見せる。
「最後の最後で、鉈を持った幼馴染が全員スプラッタにしちゃって...」
血で染まったエンドロールにメンタル削られた恋衣は「はぁああ~」と深いため息をつく。
「あの鉈が伏線だったとはなぁ...」
一周回って変な感想をこぼす恋衣。いや、それ展開が強すぎて考察のし甲斐ないと思います。
「あー...恋衣も大変だったんだねぇ。まぁ、ドーナツでも食べて元気出しなよ」
ここで売上を上げたところで、バイトの自分には何の利益もないんだけども。まぁ、少なくとも今はバイト中だから多少は貢献しておこう。
「んー、でも食欲ないかも。昨日から、何も食べてないし...」
ほとんどプチ断食になっている状態の恋衣。もはや、新手のダイエットなのかもしれない。
「じゃあ、急にドーナツ食べるのは良くないかもね。サイドメニューの『中華がゆ』とかいいかもね」
そう言い残して回れ右をする糖太の姿を、ぼんやりとした顔で見つめる恋衣であった。
この後、中華がゆで食欲スイッチが入った恋衣はドーナツ爆食祭りを開催。
後日、増えに増えた体重に恋衣の悲鳴が上がるのは、また別のお話。
あなたのメンヘラはどこから?私は闇鍋




