メンヘラの腹の虫は収まらない
『トータ、バイト終わった?』
『もうそろそろだよね』
『...まだかな?』
どこかの偉い人が言いました。メンヘラは『めんどくさい生き物である』と。
本日もメンヘラファッションに身を包んだ恋衣は、自宅のベッドの上でスマホを握りしめていた。
「んー、返信が来ない。てか既読すら付かない」
トータは朝から不在、おそらく今日もバイトなんだろう。やっと覚えた地雷系メイクでバッチリ決めて行ったのに、結局トータママに挨拶してお家にトンボ帰りする形となった。
部屋の窓から見える景色もだいぶ暗くなってきた。朝からのシフトならそろそろ退勤の時間帯のはず。
ごろんっと寝返りを打つと同時に、恋衣の手元のスマホが震える。
『いまバイト終わった、どうしたの?』
やっと返ってきた糖太の返信にホッとしつつ、そっけなさすぎる字面に少しだけイラっとする。
『寂しい』
『早く帰ってきて』
『トータがいないと死んじゃう』
どこかの偉い人が言いました。メンヘラは『死ぬ死ぬ言っておけばいい』と。
ネット上のありとあらゆるメンヘラに関するまとめ記事を読み漁った恋衣は、既にメンヘラ以上にメンヘラを理解していた。
世の中にはびこるメンヘラ共に使い回されて味も残ってないレベルの台詞を送信しながら、恋衣はポンコツな笑みを浮かべていた。
◇
「うわぁ...これはひどいな」
もはや実家のような安心感にも似たB級メンヘラの匂いがする台詞に、糖太は思わず顔をゆがめた。週末の忙しいフルタイムのバイトをこなした後の一発目に、これは...なかなか精神的によろしくない。
改めて、恋衣から送られてきた香ばしいメッセージに目を通す。
『寂しい』
暇だからだよ、バイトでもしなさい。
『早く帰ってきて』
いや、帰ったとしても恋衣のとこには行く予定ないけど。
『トータがいないと死んじゃう』
それ、幼馴染が使う台詞じゃないよ。あと、こういう奴が一番死なないんだよなぁ。
(あ、もしかして『糖太』は『糖分の暗喩』なのか?...いや、それでも死なないか)
そんな適当な現実逃避をしつつ、ぼんやりと恋衣の求めているワードを脳内で検索する。
こういうのはね、ゲームみたいなもんなんですよ。正論じゃなくて『相手が求めている解を当てる遊び』だと思うようにしている。
「よし...まぁ、こんなもんでいいか」
メッセージを送信してスマホを閉じ、甘い香りをまとった制服を脱いで着替えを始めた。
◇
―ピコンッ
『ドーナツ持って帰るね、もうちょっと待ってて』
飛び込んできた糖太からのメッセージに、恋衣の部屋で小さくお腹の音が鳴り響いた。
メンヘラは可愛いくらいがちょうどいい




