情実と穴埋めの人事・11
さて、一方のアキラと豊であるが――。
急な上京だったにも関わらず、両手いっぱいに提げて来た、アキラの好物の『ずんだ餅』やら『笹かま』やらを、冷蔵庫にギッシリ残し、豊氏は、これ以上 自分の会社を留守に出来ないという事情で、その翌朝8時台の新幹線に乗るべく、東京の四郎丸家を出立する運びとなった。
昨夕 帰宅してからというもの、自分が認めてしまった手前、アキラが これから社長としてやっていく為に必要と思えることを、思いついては夜も更けるまで 語り続けた、自身も社長の豊氏であった。
この短期集中連続奇襲型家庭内社長育成研修から解放されることに、ひとまず安堵するアキラであったが、父の帰らぬ家に、2泊してくれた、この父・広に似る大叔父が去ることを、少し寂しく、心細く思うことも確かである。
しかし、東京で1人でやっていくと宣言した以上、そんな素振りは見せまいと、アキラは豊に、沢山の御土産と、来てくれたこと、認めてくれたことへの感謝を、精一杯、大人びた言葉で気丈に伝えた。
豊とて、本当は未だ、アキラを1人置いて行くのは忍びなく、ましてや社長など――という思いは、総て消えた訳ではない。
――けれど あの若き専務が、堂々たる態度と真剣な眼差しで、切々と訴えた言葉の1つ1つに、豊も また感じ入り、心動かされたことも確かであった。
「――広は良い部下達に恵まれたな…、」
帰りの荷物を抱え、リビングを1歩出たところで、豊は振り向き、アキラに しみじみと そう語った。
「――うん…、」
――それが1番には誰のことを指すか、言うまでもなくアキラにも分かっている。
「――叔父さんも、負けないように頑張らないとな、
――アキラもな、ちょっとでも父ちゃんに近付けるよう頑張るんだぞ、
――まぁ、本当のところ、今日 今直ぐにでも広が帰って来てくれたら、それが一番なんだけどな…、」
「…うん…、そうだね…。
――でも 僕も 頑張るから――、ほんとに 色々ありがとう、おじさん、」
今回の上京で、久しぶりに会ったアキラは、見違えるように すっかり大きくなっていて、小さい頃とは別人のようにも思えていた豊だったが、この時アキラが見せたのは、豊にも見覚えのある、あの 小首を傾げて 少し照れたような、愛らしい笑顔だった。
そこで豊も優しい大叔父の顔になり、最後は笑顔で、生まれ故郷の東京を後にしたのであった。
――結局のところ、この時アキラを東京に引き留めた者は誰だったのか、それを正しく理解していたのは、アキラ自身と大叔父・豊、加えて内藤、そして、『実物大お母さんロボット』の中で、ことの推移を見守っていたトキオの『魂』の4者である。
この点について、野木は自身の羞恥心から、珍しく事実誤認をしていたことを、ここに敢えて指摘しておく――。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の貴重な1PVを頂戴できますことに、深く感謝申し上げます。
今回にて豊おじさんの出番は まず終了ですので、方言のフリガナで読みづらいなぁ~と思っていた皆様、ご迷惑を おかけしましたが、ひとまず ご安心ください。
東京生まれ設定の豊氏ですが、キャラ的に これは訛らせたほうが しっくりくる…! という信念の元に訛らせた次第です。…フリガナ、振るほうも ひと手間では ありましたけども。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




