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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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情実と穴埋めの人事・10

 アキラと(ゆたか)を見送った野木(のぎ)内藤(ないとう)は、消灯確認と施錠の為、ひとまず会議室に戻った。

 そこで内藤は(おもむろ)に、野木に対して こんな謝罪の言葉を述べてきた。


「――今日は なんだか…すまなかったね、どっちの味方だか分からないようなことばかり言ってしまって…、いや 本当に、申し訳無かった――、」


「――アキラくんの為の、公平な視点からの御意見と受け止めておりましたが、…でも確かに、今日の常務は 何か いつもと御様子が違うとは感じておりました、」


「――そう見えたかい? ――ともかくだ、君は ああ言ったけども、アキラくんの指導については、とりあえず私に(まか)せてもらって良いかな? アキラくんが通うのに一番(いちばん)近いのは ここ第1プラントだし、ここの監督は これから私が(つと)める予定だからね、君が あれほどの熱意を示したところ、申し訳ないとは思うけども…、」


「――勿論(もちろん)、異論は有りません、――私自身が、ほんの数年前に常務からの御指導を(たまわ)ったばかりですし、それがアキラくんの為にも間違いなく最良である(はず)です――、」


 今になって、自分が(ふる)った少々大仰(おおぎょう)な熱弁が、(いささ)か恥ずかしくなってきていた野木は、間髪(かんぱつ)入れず それに賛同する。


「――ありがとう。…実は、…喜和子(きわこ)がね、…ウチの妻が、このまま(ひろし)が戻らない時は、アキラくんをウチの養子にしたらどうだと言い出しててね…、」


 ――何かの種明かしをするように、内藤は そんなことを ぽつぽつと語り出した。


「――正直、アキラくんの為に、果たして どうするのが一番(いちばん)良いのか…、少し、分からなくなっていたんだよ…、勿論、広が戻ってくれたら、それが一番良いことに違いないし、私は広の一番の友人なのに、こんなことを望んで良いものかと――、

年甲斐(としがい)もなく、戸惑(とまど)ってたのさ、いや、全く面目ない、今日は君に助けられたよ…、」


 ――(ひろし)社長と同い年の内藤は、喜和子夫人と連れ添い もう20年以上になり、近々銀婚式を迎えると聞く。


その間、負担の大きい不妊治療にも(のぞ)んだが、そうまでして2人が(のぞ)んだ新しい命は、(つい)(さず)かることが(かな)わなかったのだ。


 そんな中、親友の息子にして、行儀よく、優し気な あの少年が、1人置き去りにされたとなれば、浮足立(うきあしだ)つのも無理はない――。


 常ならば、社外との交渉事を 最も丸く収める力量を秘める常務・内藤が、今日のところは口数少なく拱手傍観(きょうしゅぼうかん)(てい)であったことに、野木は どうやら得心がいった。


 切実過ぎる願いが、普段は饒舌(じょうぜつ)な人間を黙らせてしまうこともあるのだ。


 100円単位の領収書1枚も(おろそ)かにはしない、経理の(オニ)として君臨(くんりん)する少々面倒な御仁(ごじん)ではあるが、この内藤常務の こうした1面には、憎みきれない、愛すべき人間味を感じる野木である。


「――アキラくんを引き取るにしても、流石(さすが)(ひろし)が姿を消したばかりの昨日や今日で、そんな話を持ち出す訳にもいかないし、…それでも仙台(せんだい)に連れて行かれることになっては、そういう話も難しくなるから、…いや、本当に、引き留めてもらえて良かった…。

今日の君の働きには、感謝する、この通り――、」


内藤から初めて向けられた最敬礼に、野木は恐縮して頭を下げた。


「――頭を上げてください、内藤さん。結局のところ、アキラくんを引き留めたのは私ではなく、やっぱりトキオの存在なんだと思いますよ、」


――そうなのだ。そもそも春まで『仮ボディ』を作り終えたとして、そこでサヨナラでは 少し無責任に過ぎると、アキラくんも考えるところが有った(はず)――。


(かえり)みるほど、アキラに対する熱烈な慰留(いりゅう)が猛烈に恥ずかしくなってしまった野木は、自分の中でも そういうことに、今回の件を結論づける。


 頭を上げた内藤は、いつもの飄々(ひょうひょう)とした表情に戻りかけていた。


「―え? その…トキオくん――?

…いったい どういう子なんだい――?」


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の1PVを頂戴できますこと、たいへん光栄に思います。

お父さんは姿を消してしまいましたが、アキラくんは、結構 周りの大人の皆さんには恵まれていると思います。約1名、道ならぬ恋に身を焦がす、哀れな男もおりますけども。

引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。

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