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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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情実と穴埋めの人事・9

 社長・(ひろし)の思いについて、(ゆたか)とは真逆の見解を示した野木(のぎ)だが、彼の意見を要約すれば、そこにはアキラへの『行かないでほしい』という願いが溢れる。


 これを聞いていたアキラの瞳は、野木が語りを終える前から早くも潤んでいたが、今 その目をしばたたかせれば、長い睫毛は微細な涙を絡め、一際(ひときわ)艶めいて光を弾く。


 (かす)かな溜め息をついて(うつむ)いたアキラは、目を閉じて、言った。


「――僕は――、」


思い切ったように顔を上げると、アキラは隣に座る豊を見据え、決然と告げた。


「――豊おじさん ごめんなさい――。

僕は やっぱり、仙台(せんだい)には行かないです――、」


「――アキラ……、」


驚いたように豊は彼の名を呼んだが、(すで)に察しはついていた(ふう)眼差(まなざ)しではあった。


「――気休(きやす)めの…、冗談だったのかもしれないけど、父さんは いつも 僕に、『立派な跡取りに育ってる』…って、言ってくれてたんだ、だから 僕は――、

…父さんの留守は、僕が守りたいです――!

…おじさんが、僕を心配して来てくれたことには 本当に感謝します。

でも どうか…、この社長代行就任の件、お願いですから認めてください――!」


「――あれだけ(あんだげ)言っても(かだって)()分からないか(わがんねが)? (なみ)大抵(たいてい)こと(ごど)では無いん(ねん)だぞ――?

こんな危ないところに(あぶねどごさ) お()1人、置いて行ける訳(おいでげるわげ)ないだろう(ねぇべ)――?

仕事()家事()勉強()子どものくせに(わらすのくせに)、お()1人で やっていけると(やっていげっと)思うのか(おもうが)――?」


「――父さんは 今、もっと大変な目に遭ってるかもしれないのに、全部 放り出して僕だけ逃げろって言うの―? 逃げたって、僕にも追手がついたら どうするの――? 

僕は おじさん達まで巻き込みたくはないし、こうなった以上、

一番(いちばん) (はら)(くく)るべきなのは僕なんだ……!

僕は ここに残ります――、誰が何と言おうと……!

おじさんだって、僕の好きなように、自由にして良いって言ったでしょう――?」


「――お()には、好きな(すぎな)モノ作りでもして(すて)、平和に安全に のんびり過ごしてほしいって(っつ)気持ち(きもづ)で言ったんだ! 仕事()就いて(ついで)、社長ともなれば(どもなれば)、自由に好きな(すぎな)ことばかり(ごどばり)する(わげ)にもいかないん(いがねん)だぞ?」


「――そこは厳密には違うんだよ、おじさん。

僕は ただ、モノを作るのが好きなんじゃなくて、

『いらない』っていわれたモノの中から、何かを(よみが)らせるのが好きなんだ。

――だから、僕が 本当に やりたいことは、ここじゃなきゃ出来ないから…、

どうか 分かってください、おじさん――…!」


そう言ってアキラは、豊に向かい、心を込めて頭を下げた。


「…どうあっても(なずすても)叔父さんの(おんちゃんの)言うこと(ごど)聞けないか(きげねが)……?」


「――ごめんなさい――…!」


「――1人東京()居て(いで)怖くないのか(こえぐねぇのが)――?」


「――平気だよ。僕だって春には高校生だもん。もう親元を離れても良い年頃だよね?」


腕組みをして、渋い顔をしていた豊は、やれやれというように、大きな溜め息をついた。


「――まった()女の子(おなご)みたいな(みでな)可愛い(めんけ)してても(すっても)、お()も やっぱり男の子(おどごわらす)なんだな…、

――もういい 分かった(わがった)好きな(すぎな)ように、好きな事(すぎなごど)したら(すたら)いい。(おら)も そう言ったしな(かだったすな)


――ただ()、世間に出て(さでで)、『仕事』を持つから(もづがら)には、お()も一人前の『大人(おどな)』としての振る舞いってもの(つもん)を これからは(いまから)考えて(かんげで)、していかなくては(いがねげ)ダメだぞ(わがんねぞ)

――まず 今 ここで、何をすべきだ――?」


「――え…? 今…? ……?」


「――挨拶だろ(あいさづだべ)!? ――これから ありったけ(あったげ)世話になる(せわんなる) この人方(ひとがだ)に、失礼の無いよう(ねぇよう)頭を(あだま)下げなきゃ(さげねげ)ダメだ――!」


「――あっ、はい…!」


 まごついている内に正解を言われたアキラは、慌てて立ち上がり、内藤と野木に深く頭を下げて言った。


「――社長代行就任の件、(つつし)んで お引き受けします――!

これから ご指導のほど、どうか よろしく お願いいたします――!」


「――うん、まぁ、50点って(っつ)ところかな(どごがな)、」


 苦笑いしながら豊も席を立つと、真剣な顔で内藤と野木に向き合い、頭を下げた。


「――私からも、お願いしなくてはいけませんね、

いや、さんざん失礼申して、申し訳ありませんでした――。

まだ右も左も分からない又甥ですけども、どうか何卒(なにとぞ)、よろしくお願いします――、」


「――いえいえ、豊様の御心配は御尤(ごもっと)もでございました。

私どもも(こころ)して、アキラくんを お(あず)かりいたしますので、

こちらこそ、よろしく お願いいたします――。」


 野木と内藤(ないとう)も立ち上がり、内藤が にこやかに答えて、一同(いちどう) 直立して頭を下げ合った。


かくして、長きに渡ったK.Kリングの会議室に()ける4人の話し合いは、目出度(めでた)く野木が望んだ結論を得、その幕を閉じたのである。


ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の貴重な1PVを頂戴出来ます事、いつも非常に嬉しく思っております。

豊氏の東北訛りのフリガナを振っていて、なんとなく、フランス語の趣きを感じるようになった筆者です。(※あくまで極個人的な感覚です)

引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。

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