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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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情実と穴埋めの人事・8

 「――お言葉を返すようではございますが――」


 眼差(まなざ)しに(ちから)()め、野木(のぎ)(ゆたか)氏を見据えると、ゆっくりと、(おだ)やかな口調で語り始めた。


「――豊様が、アキラくんへの指導に掛かる私どもの負担を気遣(きづか)って、今回の件の撤回をお望みでいらっしゃるのであれば、そんな遠慮は無用に願います。

 ――アキラくんも――。

もし、豊様の御指摘を気になさって、一度(いちど)決めた話を(くつがえ)されようというのであれば、少し考えていただきたいです。」


 名を呼ばれたアキラが顔を上げ、自分のほうを向くのを待って、野木は続けた。


「――人間 誰しも いずれは死にます。『必ず』です――。

それが何時(いつ)訪れるか、分かる者も そうは居ないです。


――今こうして話している私でも、明日には交通事故に遭って、あの世に直行しているかもしれません。


――変わった形の心臓を抱えるアキラくんは、たしかに長くは生きられないのかもしれません。しかし、それが(まわ)りの迷惑になるからといって、自分が本当に望むことを深く考えもせず、誰かの言いなりになって、早々(はやばや)身を引いてしまうのは、()(てい)に申して、それは『逃げ』でしか ありません。」


「――でも、アキラ(あぎら)好き(すぎ)な機械いじりなら、何処に(どごさ)行っても出来る(でぎん)じゃないですか?

…別に、ここに拘(こごさこだわら)()くても…、」


「――『逃げてる』ように、野木さんには見える――ってことですか? 今の僕が?

…じゃあ野木さんには、僕が『本当に望むこと』が分かる…っていうことでしょうか?

『僕』ではない『野木さん』が、どうして――?」


 アキラからの率直で真剣な切り返しに、野木は つい、うっとりしそうになる。

彼と こんな会話を()わすことになるとは―…()わせるものなら、彼の言葉1つでも、野木には至上の快楽である。そういう『恋』を、野木は今 している――。 目を細め、アキラの言葉を笑顔で受け止め、野木は続ける。


「――たしかに、アキラくんではない私に、それが分かる筈ありませんね、出過ぎたことを申したかもしれません。――ですが、『他者の目から見て分かること』が、時に真実である場合も まま有ります。この際 我が社の人間が、アキラくんを どう思っているか、もし社長代行に就任したなら、その受け止めは如何(いかが)なものになるか、私の考えるところなどを お話ししてもよろしいでしょうか――? 


 願わくば、ここに残るか(いな)か、それを聞いてから決めてもらえれば幸いです。」


「――…わかりました…、」


 アキラが それを了承し、豊も渋々ながら(うなず)いたので、野木は


「――ありがとうございます――、」


一礼(いちれい)し、本題に入った。


「――まず我が社におけるアキラくんの知名度ですが、非常に高いです。

これは アキラくん自身がプラントに出入りしていた効力もありますが、なんと言っても第一には、社長の影響によるところが大きいです。


 それだけ、社長が御自分の御子息を大切にし、仕事の(かたわ)ら その健やかな成長の為に心血注いでいることは、社員の中で知らぬ者は無いほどです。そして…、社長の人徳の()せる(わざ)といいましょうか、社長が社内のあらゆる者と語らってしまう折々の育児談を、不快に思う社員も、まず居ないのです。


 おかげで アキラくんの個性的な人柄は よくよく知られていますが、病状の詳細に関しては一部(いちぶ)の者が知るのみですので、ゆくゆくはアキラくんが、この会社を継ぐものと予期する社員も少なくはありません。


 第2の中谷(なかや)工場長なども、おそらく そういう お考えから、本来なら 安全管理上、即刻つまみ出したい小学生のアキラくんのプラント入場を、特別に お認めになっていたものと思われます。


――ですから もし、この(のち) 会社も継がず、アキラくんが何処(どこ)かに行ってしまったとなれば、恨み言の1つや2つは(おっしゃ)るでしょうね、中谷さんは。間違いなく――。」


 思い当たるところが有るのだろう、アキラは恥ずかしそうに苦笑して、(ちぢ)こまった。


「――豊様から、『現場に出れない者は示しがつかない』といった お話もありましたが、現在の我が社の社長に最も求められるのは、時に取引先との話し合いをまとめる交渉力であったりします。

意外に思われるかもしれませんが、我が社にあっても、頑健な肉体を持つ者ばかりが、崇敬(すうけい)と信任の対象となる訳ではないことを、お知り置きください。


結論を申せば、アキラくんが社長代行に就任しても、我が社の社員の受け止めは、(おおむ)ね好意的なものになると、私は考えております。


 世間には世襲(せしゅう)の人事というだけで、拒絶反応を示す向きも少なくありませんが、我が社は その商売柄から、そうした風当りも少なく済むとも考えられます――。」


「――専務さんの言うことは、いちいち(いづいづ) もっともらしいですが、果たして 万事(ばんじ) そんなに上手く(うまぐ)いくもの(いぐもん)でしょうかね――? だいたい専務さんのように、口が達者なアキラではないですよ――?」


「――恐れ入ります。勿論、豊様の(おっしゃ)る通り、(すべ)て予想通り、上手(うま)くいくとも限らないでしょう。――そもそも社長が居なくなってしまわれたのです。この先 何が起こるのか、今は まだ、何も 分からない危険な状況です。…そこに アキラくんを(つな)ぎ止めるのは、たいへん心苦しいことも確かです。――ですが私は、今 この上、アキラくんを失うことは、我が社にとって大きな損失だと思うのです。」


「――この子が、ですか? まだ何も知らない中学生ですよ――?」


 豊は呆気(あっけ)に取られ、()頓狂(とんきょう)な声を上げる。


「――それでもアキラくんには、新しいモノを作り出す、非凡な才能が有ります――。

それこそ、肉体と頭脳を酷使する、我が社の現場業務を改善し得る、新しいシステムなどを作りだすことも、(ある)いはアキラくんには可能ではないかと――。」


「――さすがに それは…、買い(かぶ)り過ぎだよ、野木さん、」


(たま)らぬようにアキラが(くち)を挟んだ。


「――そうでしょうか? では アキラくんは、これまで一度(いちど)も我が社が置かれた現状を我が事として(とら)えたことは無いと――? 御父君(ごふくん)が経営する この会社に、子供ながらに入り込んで、いずれ この先行(さきゆ)きについて、思いを()せたことなど、一度(いちど)たりとも無かったと言えるのでしょうか――?」


「――それは――、」


 豊の手前(ゆえ)か、答えに(きゅう)したアキラは(くち)ごもる。


「――アキラくん。命の価値とは、その長短1つで測れるものでは ありません。

むしろ何を()したかにこそ、より重きは置かれるものです。

何を為すべきか分からないまま、消える命も数多(あまた)有る中で、

やりたいこととの出会いは、(すで)に大きな(さいわ)いなのです。


もしアキラくんが それをお持ちで、

それが もし、御父君の この会社を『守り継ぎたい』という思いなのであれば、

たとえ それが どんなに短い時間で終わることになろうとも、

それは とても(とうと)いことです。


――今 何も知らないことなど、さしたる問題ではありません。

私どもで お教えすれば良いだけの話ですから――。


アキラくんを、一人前(いちにんまえ)の社長として お仕立てする為に、()しむべきものなど、

少なくとも私には、何一(なにひと)つ有りません――。


――身命賭(しんめいと)して お守りし、ご指導(たてまつ)る用意と覚悟が有ります。


―そして アキラくん、

…アキラくんの次期社長就任を、誰よりも切に願っていたのは、他でもない、

(ひろし)社長であったと、私は拝察(はいさつ)しておりましたが、アキラくんは どう思われますか――?」


 そのプレゼンの終わりを、野木はアキラに向けた極上の微笑(ほほえ)みで()(くく)った。


ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の貴重な1PVが、私の元気の源です。

野木→白のファーストプロポーズ回(実質)という趣旨でお送りした今回、いかがでしたでしょうか?

依然『なろう』様先行状態が続いておりますが、一旦『カクヨム』様で追い越せそうではあります。

引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。 

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