情実と穴埋めの人事・6
これを つい『敗北』と捉えてしまうのは、内に秘めたる恋慕の故であると自覚する野木であるが、そもそも その道ならぬ恋は最初から、誰にも知られぬよう、ただ消え去る時を待つのみと、己に強く課している野木でもある。
遠く離れてしまえば、この無用の想いに焼かれる時間も、少しは短く終るかもしれない――。
いわば 恋情の余命宣告とも言うべきか、
いっそ ここで それを受けるのも悪くはない――。
自嘲に近い笑いに頬が緩むのを自覚しつつ、それでも今は 尚 注意深く、この愛すべき可憐な少年の御身が安泰であるよう、最良の選択肢を見定めてやらねばならない――その思いで、野木は再び前を向いた。
「…血の繋がりって言っても、真央ちゃんは 僕 少し苦手だったな…、」
そんな野木の想いを知ってか知らずか、この場に居る、身内ではない者への配慮でもするように、アキラはポソっと、そんなことを口にした。
「ああ、そうだっけな、でも ほら、昴を憶えてるだろ? あいつ、1浪はしたけど、去年念願のT北大に受かってな、いずれはナノテラス?とかを使った研究を始めるんだって、今は一生懸命大学通いだ。アキラをウチに住ませることになるかもしれないって言ったら、良い話し相手が出来るって、喜んでたぞ〜、」
「…昴お兄ちゃん、…そうなんだ。頑張って、行きたがってたところ、行ったんだね…、」
「――アキラだって、あれだよ、仙台に来れば、高専2つ、ウチから通えるところにあるし、お前の成績なら、狙ったところに必ず入れるさ。この際 好きなところを選べば良いんだ。だいたい お前は『片付ける』より何か『作る』ほうが大好きなんだろ? 曾祖父ちゃんの会社のことは、もう この人達に任せてさ、お前は仙台に来て、自由に好きなことしたら良いんじゃないか?」
「…そんなこと…、考えたことも無かったな…、」
どこか思わせぶりな一言を、アキラは ただ、心底 戸惑っているように呟いた。
「――アキラくんが それを望むのであれば、私どもも それで構いませんよ――。弊社は商売柄、誰が欠けても現場は回せる布陣を敷いておりますからね、私どもに対する遠慮は無用に願います――。」
「――左様でございますね。アキラくんが何方に行かれましても、少なくとも筆頭株主として、配当を受け取る権利がございますから、些かではございますが、今後の暮らしに役立てられますよう、私どもも鋭意増収を目指して参りましょう。」
ここぞとばかりに野木と内藤の2人は、最初 豊氏に言われたことへの腹いせのように、代表抜きでも会社の通常業務遂行に不都合は無いこと、社長代行就任を願ったのは、むしろ良心的な配慮からなのだと、にこやかに分からせにかかった。
しかし、これを聞いていたアキラが見せた、どこか寂しそうな表情に、野木の胸がチクリと痛む。
野木としても、こんな風にアキラを突き放すような発言をするのは本意ではない――。
更に言えば、先ほど名前を聞いただけの、見知らぬ『スバルお兄ちゃん』にさえ、湧き上がる嫉妬を抑え切れない自分なのだ。アキラの身の振り方を決める、重要な話し合いとはいえ、こんな駆け引きは野木にとり、やはり唯切ないことでしかない。
そもそも豊氏にしたところで、住む場所は さておき、最後はアキラくんの自由にさせるつもりでいるなら、何故 最初に決まっていた社長代行就任には あくまで反対するのか、そしてアキラくんも また、その反対を押し切れないのは何故なのか、野木の考えが そこに至ったところで、豊氏が こんなことを口にした。
ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の貴重な1PVを賜れますこと、いつも光栄に思っております。
今回も、予約時点で『なろう』様先行の内容となっております。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




