顔認証を突破せよ・8
自分達の部屋を そのままにしていてくれた建部と、自分の『身体』の代わりとなる『機体』を作ってくれたアキラへの御礼として、トキオは買い置いてあった お茶と菓子とを振る舞い、一同は暫し その場で歓談した。
多少のことには動じない建部ではあるが、まだ中学生のアキラが、目の前に居るトキオの『仮ボディ』を作ったことには驚きを隠さず、賞賛を惜しまなかった。これにアキラは恐縮し、これは友人の力添えがあったからこそ出来たのだと、照れながらも 付け加えることを忘れなかった。
あれこれ語り合ううちに、トキオが徐に自分の口にも お菓子を運び入れそうになり、慌ててアキラが止めるという一幕もあった。何はさておき、見た目の再現だけに特化して、大急ぎで作り上げた『マシン』なのである。そんなことをされては、出来たばかりで早速 修理する羽目になるからと、アキラは迂闊な『神』に念を押した。
話の終わりにトキオは、これからはアキラのもとで、奪われた『身体』と瑠璃愛を探すことになるから、ここは引き払ってお返しすると建部に申し入れた。
「――今日のところは身軽に帰るけど、これから折りを見て荷物を取りに来るね、勿論 瑠璃愛のぶんも。――遅くとも、3月末までには空けるようにするから――、」
というトキオの話を遮り、建部は このまま 荷物置き場にしても良いので、ここを使って構わないと2人に告げた。
「――多くはなくとも1世帯分の荷物だ。運ぶ先で場所を取って、迷惑なこともある。
当面 必要なものだけ持って行け。あとは置いておいて構わん。勿論 瑠璃愛のぶんもだ。
――あの娘は お前と違って賢い。ひょっとすると、自力で逃げ出して、ここに帰って来ることも有り得るだろう?
――その時に、着替えの1枚も無かったら、まったく私の面目が立たん。
今日まで お前を待っていたんだ、瑠璃愛のことも、引き続き待たせてもらうぞ。」
「――せんせい、ありがと…。…なんか嬉しい…嬉しいんだけど、
―え~~、なんか、なんとなく先生も、うっすら僕をバカ扱いなの?」
「――そりゃそうだろ。聞いたところじゃ、電話だったら すぐ出来た状況だったのに、私に何の連絡も寄越さんかったということは、スマホを取られた時点で、ここの番号が分からなくなったからだ――そうだろう―? 瑠璃愛だったら そうはならんさ。」
「――う…、おっしゃる通りでございますけど…、」
総て お見通しといったところの建部を、悔しそうにトキオは見上げる。
「――まったく お前は、自分が『神』だというなら、もっと しっかり、シャッキリしてろ! 『身体』を取られた お前も気の毒だが、その謎の『連中』の狙いが、お前だったんだとしたら、ただ巻き込まれた瑠璃愛が不憫だろう―? あんな…、なんの落ち度も無い、働き者で賢い娘が……、――そもそも お前達が東京に逃げて来たのは何の為だ――? 『瑠璃愛を護る為』だったんじゃないのか――?」
「――わかってます。…だから、必ず取り戻すよ、瑠璃愛のことは―…!」
そう言って、建部を見つめ返したトキオの表情が、アキラには とても凛々しく精悍なものに見えた。
完成間もないトキオの顔ではあったけれど、こう言ってはなんだが、アキラには、この時に ようやく初めて、トキオの顔が『神っぽい』ものに思えたのである。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の1PVが、この物語を書き進める力となっております。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




