顔認証を突破せよ・7
『マシン』を作るのに精一杯で、こういう状況に どう対応すべきかなど、まるで考えていなかったアキラは、スマホを両手で握り締め、ハラハラしながらコトの成り行きを見守るのみであったが、片やトキオは少しも慌てず、事前にアキラに言ったとおり、自分の『身体』が奪われて、代わりの『機体』を作ってもらった、これまでの経緯を、包み隠さず総て建部に話したようだった。
――果たして建部という医師は、正しく多少のことには動じない、懐の深い人物だったようである――。
トキオの話を聞き終わるなり、建部は ひとつ大きな溜め息をつくと、物陰に身を潜めていたアキラの元へ歩み寄り、外は寒いからと言って、トキオとアキラ、2人を共に診療所の中に招き入れてくれたのだ――。
トキオの住まいになっている、診療所の奥、元は宿直室だったという部屋に向かいながら、アキラは隣を歩く建部に、意を決して こんな質問をした。
「――あの…! 今後の参考の為にお尋ねしたいんですが、トキオがロボットだって お分かりになったの、最初の違和感は何処にありましたか――?」
今後 改良を試みる為にも重要な情報である。アキラは固唾を呑んで建部の答えを待ったが、
「―…そうだねぇ…、身長が…前より大きくなってたんだよ、5㎝は伸びたかな―?
前に血液検査で見た結果からして、トキオは もう この先 身長は伸びないだろうと思ってたからねぇ…、」
建部の この返答に、アキラは乾いた愛想笑いを返しつつ、その力があったら 危うくスマホをへし折るところであった。
◇ ◇ ◇
4カ月前まで トキオと瑠璃愛が暮らしていた部屋は、最後に2人が連れ立って出かけた その日のままに残されていた。
10畳ほどの、一段高い畳敷きの部屋は、真ん中に張ったロープに吊るしたカーテンで区切られ、姉弟とはいえ男女としての一線を引いた倹しい暮らしが そこにあったと偲ばれる。
そのカーテンを引いた陰に隠れ、何やらゴソゴソしていたトキオが、再びアキラと建部の前に姿を現した時、その手には、この作戦の最終目的である、預金の通帳と免許証とが握られていた。
ミニバイクについては尋ねたところ、裏手の駐輪場にシートをかけて、きちんと保管してあると建部は答えた。何はともあれ、この作戦で目指した金品の獲得は、無事果たされそうな流れに、トキオとアキラは安堵し微笑み合う。
「――先生、ありがとね! ぶっちゃけ黙って居なくなっちゃったから、ひょっとして もう とっくに色々片付けられてるんじゃないかって、ちょっと心配だったんだ~!」
「――聞き捨てならんな。――私が そんな薄情な人間だとでも思ってたのか――?
お前さんらがワケありの家出人でさえなきゃ、とっくに警察に捜索願いだって出してたところだぞ、」
建部は少し不服そうに、トキオに そんな言葉を返した。
「…あの、『ワケあり』って、先生は、トキオのこと、どれくらい御存知なんですか―?とりあえず、トキオが半分『神』だってことは知ってるんですよね―? それって正直、聞いて直ぐ信じられることでしたか…?」
先程来、おそらく現実では あまり あり得ない状況に直面しているにも関わらず、淡々と自分達に接する建部に対し、アキラは つい そんな疑問をぶつけてしまう。
「―ん? …まぁ、確かに、コレは存在自体が出鱈目みたいな奴とは思うがね、私も全部を知ってるわけではないさ、ただ、背中の刺し傷も治りきらんうちに、東京に逃げて来たからには、よほどの事情が有ったんだろうよ。そういうのを、私は どうも放っておけないタチでね…、」
「――え!? …刺し傷…ですか―…!?」
初めて聞く話に、アキラは思わずトキオの顔を窺い見る。
「――うん、まぁ、そうだったよねぇ~、でも先生がキレイに治してくれたし、今の『仮ボディ』なんか、傷1つ付いてないもんね~!」
トキオは1つ瞬きをして、下手な苦笑いを浮かべるだけだった。
「――あの、トキオから聞いたんですけど、先生は昔、『宇宙人に攫われかけた』って、本当ですか? だからトキオが『神』だって聞いても、割りと すんなり受け入れられた感じでしょうか?」
とりあえず、『刺し傷』のことは置いておいて、今ここでしか聞けない、実は密かに ずっと気になっていたことを、アキラは建部に重ねて問う。
「――あ~~、あれはねぇ、ちょっとした冗談みたいなものだよ。そういう経験が有ろうと無かろうと、医師たるもの、常に泰然自若としてあるべき――ということさ、」
建部のこの答えに、アキラは思いの外 この建部という医師は常識人なのであり、どころか、かなりの人格者だということを悟り、前説から抱いていた自分の失礼な認識を、急遽 改めたのだった。
ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の貴重な1PVを頂戴するのに相応しい作品となるよう、楽しくも試行錯誤の日々を過ごしております。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




