顔認証を突破せよ・6
さて、宇宙人の話の真偽は判らぬまでも、ついに実物大巫刻生の仮ボディは完成し、その滅多に驚かないという老医師・建部に、これを御披露目する時は やってきた。
完成はアキラの学力検査の数日前という状況だったので、流石に両者の対面は、その受験を終えてからの2月末となった。
東京の下町にあるという老・建部医師の診療所の前まで、トキオに付添って来たアキラは、後のことはトキオに任せ、手近な物陰に隠れると、入試以上に緊張しながら、2人が再会する その時を見守った。
少しでも『機械』であることを誤魔化せるよう、辺りが暗くなる夕暮れ時を選び、『まばたき』の他に違和感を持たれそうな『呼吸』への対策として、折角そっくりに作った顔面ではあるが、ひとまずトキオにはマスクを着用させて来た。
外は暗くなっても、診療所の中は 早や灯りが点っていて明るい。
そこに真っ向から入って行くことを、トキオは少し躊躇っていたが、ちょうど その時、『診療中』の札を仕舞いに来たベテラン風の看護師が、ガラス戸越しに彼を見つけた。
「――あなたトキオ――!? ―今まで何処行ってたの!? みんな心配してたのよ!!
―先生!! 先生、トキオが――!」
慌ただしく戸を開け閉めして、看護師は建部医師を呼びに行った様子だ。
――上上である――。
とりあえず、看護師の眼には、トキオが本来の『人間』であるトキオに見えたのだ―。
薄暗がりの効果も有ったと思えるが、アキラは物陰で小さくガッツポーズする。
『最後の一葉』の作戦上は、『女医』ということになっていた建部医師であるが、実際は老齢の男性である。頭髪の大部分は白く、痩せ型で、腰も曲がりかかった老医師であるが、その眼には未だ人並みならぬ鋭さが宿る。
「――じゃあ先生、私、言った通り、急用が出来ましたから、失礼しますね、
――トキオ、今まで何処で何をしてたか、ちゃんと先生に お話するんですよ――!」
看護師(勤続20年の吉永さん)は、建部とトキオを引き合わせると、手短にトキオに注文をつけて、颯爽と足速に帰って行った。
「―お前、トキオか? ―まったく、どこ行ってたんだ、4カ月も…心配させおって―!!」
トキオとは、血縁も何も持たない建部であるが、それでも、まるで本物の家族のように、真剣に心配していたらしいことは、陰から見守るアキラにも伝わってくる。
「―マスク外して、ちゃんと顔を見せなさい――、瑠璃愛は どうした? 一緒じゃないのか―?」
優しい温もりを感じさせる建部の声音に、トキオも言われた通り、素直にマスクを外す。
――ここまで全く問題無く、建部にも、トキオが以前のままの人間のトキオに見えていると見て間違いない――顔認証の突破は、大成功である――!
こうして2人の再会を叶えてあげられたことも嬉しいが、アキラには、武蔵と2人で作り上げた『マシン』が、見事『医師』の眼鏡にも敵ったことが尚 嬉しかった。
ここに連れて来られなかった武蔵にも、この成功を伝えようと、アキラがスマホに手をかけた その時である――
「――なんだトキオ! お前、その顔は――……!?……作りモノ か――?」
――その間10秒にも満たなかった――。
さすが経験豊富な老医師というべきか、武蔵が恐れた通り、建部は あっさりと、今のトキオの正体を見破ってしまったのである。
ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の貴重な1PVに、深く感謝申し上げます。
暑い夏の盛りに、2月の話をお届けする羽目になっておりまして恐縮です。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




