顔認証を突破せよ・5
アキラが武蔵に渡した『工賃』は、時給にすれば1000円ほどだったが、武蔵は不満を言うことも無く大層喜び、その後も作業の進捗やアキラの受験や体調までも、折に触れては気にかけてくれた。
よく考えれば 辻褄も怪しい『最後の一葉作戦』を受け入れ、真剣に力を尽くしてくれた武蔵の友情を、残りの作業に1人取り組むアキラは、しみじみと嬉しく思い返す。
(よくぞ――「その地下アイドルに直接頼んだほうが早くね?」――と言わずにいてくれたものである。)
――本当のことを打ち明けていれば、最後まで武蔵の力を借りることも出来たが、これもアキラが自分で決めたことなのだ。
これまでは武蔵の手前、隠れてもらっていたトキオの『魂』に登場願い、仮電源で動作確認をしていた作りかけの『マシン』が、実際トキオの『力』で動くか試し、動かすことに慣れてもらう――作戦は、そういう段階に入った――。
――とんだ横道に逸れている――と、野木には何度か釘を刺されている。
――父の行方と、トキオの周辺と、仮に関わりがあるとしても、アキラのしようとしていることは、時間とコスト、何よりアキラへの負担が かかり過ぎるのだと、彼が厳しく指摘するのは、おそらくアキラの身を一番に案じてのことなのだとは分かる。
けれど その野木が 堂々と申し開き、父のGPS反応が群馬山中で消えた現場の情報まで提供したにも関わらず、父の行方について、警察からは その後も何ら、芳しい報告は届かない――。
――どんな横道だろうと、これは確かな前進なのだ――
ただ手をこまねいて、立ち止まっているよりは よほど良い――。
最後の難関となった『直立二足歩行』の姿勢制御に苦心しながら、冬でも鼻筋に浮かんだ汗を作業着の袖で拭い、小さな溜め息をついて、アキラは呟いた。
「―やっぱり ちょっと 気になるな、ソレ――。」
「―え? なんのこと―?」
アキラの傍らの作業机に置かれた、頭部顔面ユニットに入りこみ、『口』を動かして『表情』を作る練習をしていたトキオが、声を出して尋ねる。
「――その『まばたき』のシャッター音だよ、武蔵くんは良いって言ったけど、やっぱり少し採点が甘いんだよな…、武蔵くん、優しいから…、」
「――良い子だよね、武蔵くん! 良いトモダチじゃん―!」
「…それは否定しないけど…、」
「―そんなに気にしなくてもさ、この武蔵くんが作ってくれた、完璧そっくりフェイスがあれば、多分 先生、一目で僕だって分かってくれるよ! それに建部先生なら、『僕の身体、機械になったんだ~』って 最悪ぶっちゃけても、案外すんなり受け入れてくれる感じの人だよ~、」
この期に及んで そんなことを言い出したトキオに、アキラは一瞬呆れてものが言えなくなりそうだったが、なんとか持ちこたえて訊き返す。
「―それ、ほんとに―?」
「――うん。――僕らを拾ってくれた建部先生っていう人はね、なんでも小さい頃宇宙人に攫われかけたことがあるとかで―?
それから少々のことでは驚かなくなったんだって―。
だから僕が『神』の『魂』を持って生まれた『半神』だって、思い切って打ち明けた時もさ、全く薄い反応だったのが何だか つまんなくて…、
だからね、僕が『身体』を奪われて、残った『魂』で動く『機械』の『身体』で戻って来た~ってなったら、さすがに今度はビックリしてくれるんじゃないかって、内心 期待してるんだ~!」
――なんと、自称『神』の話は既に承知している上に、『宇宙人』とは――…!?
アキラは これから相見える2人の人物の人間性と関係性に一抹の不安を覚え、少しだけトキオを咎めた。
「…いや それ、『ビックリする』だけで済む話じゃないと思うし…、とりあえず その『宇宙人に攫われかけた』ってホントなの――?」
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