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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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顔認証を突破せよ・4

 ―ロボットに『人間』を(いつわ)らせるに当たり、アキラと武蔵(むさし)の2人を最も手子摺(てこず)らせたのが、『まばたき』をさせることであった。


 いかに武蔵が作ったフィギュアの『顔面(がんめん)』がトキオの写真そっくりの出来映えだとはいえ、この1分間に約20回の開閉運動無くしては、『人間』として怪しまれる恐れが(おお)いに有る。


 この『眼』の周辺の細工であるが、まず眼球にはクリプトン球を使い、これを一面(いちめん)赤紫に塗った上から白目と黒目を武蔵が描画した。


 それをシリコーンゴムで作った『顔面』の眼の位置に切り込みをいれて()め込み、最初は伸び縮みするゴムの特性を そのまま生かし、切り離した『まぶた』の上下に仕込んだ電磁石の力で『まばたき』をさせようと(こころ)みた。しかし これは、目を開く度『まぶた』の周囲に幾重にもなる不自然なシワが生じる為、そこは やはり、スライド式に開閉する『まぶた』を作ろうとなったのだが、これが2人には至難の業だった。


 眼球に沿う曲面構造を保ち、絶え間なく繰り返す摺動(しゅうどう)運動にも耐えうる強度を備え、それでいて、あくまで皮膚の一部(いちぶ)である『まぶた』の質感を持つ『部品』を作り出すのに武蔵は四苦八苦し、アキラもまた、『まぶた』が閉じられる際、どうしても生じてしまう小さな衝撃音を、出来るだけゼロに近付けようと試行錯誤した。


 微細(びさい)事柄(ことがら)とはいえ、無視は出来ない、人間の(いとな)みを再現する上で避けて通れない、この『まばたき』という目の前に有った大きな壁――


 しかし2人は、むしろ この挑戦を(おお)いに楽しみ、学校の授業の合間にも寸暇(すんか)を惜しんで議論を重ね、方策を練り、一時期(いちじき)は、『ニンゲンすごい! まばたきスゴイ!』が2人の合言葉のようになったほどだった。


 短い冬休みが終わり、1月も残り数日というところで、2人は(つい)に、(おおむ)ね納得のいく『まばたき』機構の完成に()ぎ着けた。


 正直なところ、まだ(かす)かに響く音は消えなかったが、これなら充分、よほどの注意を払わなければ聞こえないだろうと、武蔵が太鼓判(たいこばん)を押した。


 この『まばたき』機構の完成を(もっ)て、この『最後の一葉(ひとは)作戦』において最も重要な頭部顔面ユニットが出来上がったことから、アキラは武蔵に雇止(やといど)めを申し入れ、約束した工賃を渡し、後は受験勉強に専念するよう(つつし)んで願った。


 武蔵は名残惜(なごりお)しそうにし、無給で良いので(すべ)ての完成まで(たずさ)わらせてほしいと願ったが、「受験は大事だ」とアキラに(さと)され、「困った時は また頼る」との一言(ひとこと)に気を良くし、おとなしく この(すす)めに従うことを選んだ。


 この後 再び この件で アキラが武蔵を呼ぶことは無かったので、武蔵がK.K.リングの社長室を『工房』として訪れたのは、この日が最後であった。


 果たして この『人間』を()した作品が、『ヒト』の感覚に備わるという、『不気味(ぶきみ)の谷』を越えるか(いな)か、最後となった この日、2人はペットボトルのホットココアで部分的な完成を祝う乾杯を()わし、後は時間が()つのも いつしか忘れ、(おお)いに熱く語り合ったのだった。

(そして帰りは、野木(のぎ)小言(こごと)を聞かされながら、彼の車で送られた。)


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の日常に、ほんの少しでも彩りを添えられる作品になっておりますならば幸いです。

引き続き、次回も お楽しみくださいませ。

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