顔認証を突破せよ・3
――最初にして最大の難問は、トキオの『身長』を推定することであった。
約2年前、郷里を出奔した かの『半神』は、自分の身長が現在何センチなのか、全く記憶も把握もしていなかったのだ。
与えられた情報は、全身を映した『念写』による写真1枚のみで、その背景には比較対象となるものなど何ひとつ映っていない。ならば――と、追加で写真を求めてみても、かのトキオは鏡で見て記憶している自分の像しか映像として出力出来ず、対象物はおろか、正面以外の側面と背面の映像すら、満足なものは得られなかったのである。
意外や 自身に対する客観的視座には欠けていた『半神』たるトキオに半ば呆れつつ、アキラは これにどう対処するか、武蔵と相談した結果、トキオが乗っていたというミニバイクの車種から座面高さを調べ、そこから足の長さを推定し、その比率から身長を割り出すという武蔵の案を採用することにした。
いまひとつ判然としない、トキオの身体の厚みについても、これは かろうじてトキオが記憶していた彼の体重51Kgを参考に、正面の肖像写真から側面と背面の実物大図を 武蔵が自身の計算と知識と直感と美意識を元に想像で肉付けし、描き上げた。
結局のところ『外観』となるフィギュアはもとより、アキラが作る内部機構も、この武蔵が描いた図をもとにサイズを決め、作るしかない状況だったのである。
作品の人物造形に関しては定評のある武蔵であり、彼が独学で身につけた美術解剖学の深い知見に全幅の信頼を寄せるアキラは、武蔵の手になる完成予想図を称賛こそすれ、疑義を呈することなど微塵も無かったが、これには逆に武蔵が多大なプレッシャーを感じてしまった。
材料も揃い、いよいよ製作に取り掛かるという土壇場になって、相手が人体観察のプロ中のプロと目される『老医師』であるという事実に臆した武蔵は、完成予想図を総て描き替え、自分の割り出した計算結果に5㎝を加えた172㎝を、トキオの身長とするようアキラに願った。
――モデルとなる人物の年齢は16歳、完成まで数カ月かかれば、5㎝くらい身長が伸びていても、何ら不自然には思われないだろうという武蔵の結論であった。
万一自分の計算が間違っていて、以前より身長が短くなっているという、成長期にあるまじき最悪の事態に直面する危機を回避する為、武蔵が選んだ安全策に、最終的にアキラも同意した。
◇ ◇ ◇
自身が出した計算の答えには少なからぬ自信が有った武蔵だったが、その数字を自ら取り下げた鬱屈を払うように、その後は得意とする人物造形に没入した。
武蔵の仕事は実に手早く繊細にして正確であった。
その頃はアキラの持つ歯車型のキーホルダーを もう1つの『依代』として、ロボットの製作現場に付いて行くこともあったトキオ(の『魂』)は、自分が念じた真影の通り、武蔵の手により着々と粘土で復元されていく自分の『身体』を見、その見事な仕事ぶりに、文字通り、歓喜と驚嘆に『魂を震わせて』いたようである。
武蔵にとっては、実は不慣れな材料を使う作業の連続であったが、彼は粛々と それらの扱いを自力で習得し、計画通り、冬休み前には、完成品の石膏型を作り上げた。
冬休みの間は、アキラの城である第2プラントの『研究室』に武蔵も乗り込み、急造の工房では出来なかった、大がかりな作業を優先的に片付けた。
石膏型にシリコーンゴムを流し込み、硬化を待つ間など、武蔵は、内部機構の設計を進めるアキラの為に、人間の骨格や筋肉が どのような形状で、どのように動くのか、自分の持てる知識を惜しみなく彼と分かち合い、悩めるアキラを大いに助けたのだった。
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末筆ながら、この度の熊本地震で被災された皆様に 心から お見舞い申し上げます。
犠牲になられた方に深く哀悼の意を捧げますとともに、今なお救助を待たれる方が一刻も早くご無事に救出されますこと、電気・水道等ライフラインの早期復旧が為され、被災地の皆様の平穏な日常が、1日でも早く取り戻されますことを、衷心より お祈り申し上げます。




