甘いラスクに込めた願いは
常に多忙な父への気遣いと、機械いじりという趣味を持つアキラは、これまで あまり遠出をしたことが無い。
朝、開店後間もない、まだ品物も出揃わない道の駅ではあったが、店先には そんなアキラが目移りするのに充分なほど、色とりどりの品が並んでいた。
アキラの隣を歩く野木は、「自分には お土産選びのセンスが無いのです」と、小声で自虐的な告白をしてきたが、それでも休日は運転技術を磨く為、レンタカーで あちこち巡り歩くことは時折してきたのだともいう。
―センスが無いなんて、それこそ謙遜ではないかとアキラは肩を竦めたが、だんだん真剣を通り越して深刻なレベルに達してきた野木の表情から、確かに それが彼を本当に悩ませているらしいことは分かった。
―ならば、と アキラは、野木の期待に副えるよう、何か内藤の喜びそうなものが無いか、父の友人でもある かの常務との、さほど多くは無い過去の記憶を手繰りながら、賑わう店内を漫ろ歩いたが、父の行方が知れなくなった今、この華やいだ場と、自分が抱える気持ちとの落差にフワフワと心が揺れて定まらず、これといって 気の利いた お土産の提案も出来なければ、ましてや自分の欲しいものなど、やはり見当も付けられなかった。
そんな具合で 何も決められないまま歩いた2人だったが、とある店の前で、アキラは足を止めた。
ファサードを一見すれば、そのデザインで それと分かる、そこは 父の大好物のラスクを製造する洋菓子店だ。
「―…ここのラスク、美味しいですよね。そういえば群馬の会社ですから、ここは直営店の1つでしたっけ…、」
立ち止まったアキラに、野木が そんな言葉をかける。
「―父さんが好きなんだ、ここの……そういえば、内藤さんと一緒に食べてるとこも、見たことあるかも…、」
「―そうなんですか―? ―なるほど、それは良いことを聞きました。
―内藤さんへの お土産は、こちらに決めましょう―、」
そう言って、野木は早速ドアを開け、店に入ろうとしたが、
「―あ、じゃあ、僕にも何か―って言うなら、僕も ここのラスクが良いです、」
アキラの申し出に、野木は少々微妙な表情を向ける。
野木としては、正直もう少し値の張る、かつ形に残る物を送りたいところであったが―…
「―もし父さんが家に帰ってたら、父さんを探して何処まで行ったかの証拠にもなるし、何より大好物だから、喜ぶし―。―だから、それで良いです―。」
このアキラからの納得の説明に、野木も彼の願いを尊重し、頷く他無かった。
「―そうですね―。
―では、社長が無事お戻りになっていることを願って、そういたしましょう―、」
そうして野木は、内藤とアキラ、加えて3つのプラントの事務所用にと、入数の異なる5箱のラスクを買い求め、アキラと2人、満足して車に戻った。
そこで徐に後部座席に乗ろうとしたアキラを呼び止め、もう外も明るく、見晴らしも良いのだからと諭し、アキラを再び助手席に座らせた野木なのだった。
◇ ◇ ◇
あわよくば、トキオの見たものも、指輪のGPSの反応も、総て何かの間違いで、土産のラスクに父たる社長・広の無事の帰宅を願った2人だったが、帰り着いた四郎丸家に、あの温和な父の姿は やはり無かった。
その後も待てど暮らせど父の帰宅は果たされず、父を喜ばせんと用意された その甘い菓子折りは、とうとう賞味期限が切れてしまうまで、遂に その封を開けられることは無かったのである。
ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の1PVを頂戴できますこと、たいへん喜ばしく思っております。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




