顔がすべてでないとは申せ
「…野木さん、何も、そんな最初から疑ってかからなくても…、」
野木の剣幕に驚きつつも、やんわり彼を宥めようとしたアキラだったが、
「――逆に どうして彼の言うことを そこまで信用出来るんですか? アキラくん―!! そんなに安閑と何でも信じてしまうようでは、有り体に申して先々のことが思いやられます、怪しい詐欺やら宗教やらに引っかかりそうで…!」
何やら自分まで貶されるに至り、流石のアキラも これには不服を申し立てた。
「―ちょっと待ってよ野木さん、なんでキ◯タクに似てるくらいの話で、そこまで話が発展するの―? そっちのほうが僕には分かんないんだけど…?」
対して野木の訴えは続く。
「―現に実物の顔なり写真なりがあるなら、私も もう少し冷静に判断はいたしましょう―、彼は素顔を晒すこともなく、かつ『神』として、不思議な『力』を操りながらの安全圏に居て言っているんです―! そこに即座に胡散臭さを嗅ぎ取れなくてどうします―!? これが仮に、SNSで知り合った、素顔を知らないフォロワーから知らされた情報だとしたら、アキラくんは すんなり信じますか!?」
「…う…それは確かに ちょっと怪しむかもだけど…、」
例えが巧みだったのか、言われてアキラも少しだけ、野木が抱く疑いに理解を示した。
「―そうでしょう―? 自分で自分をキ◯タクに似ているなどと豪語する手合いは、鏡の見方を知らないバカか、全くのバカとしか思えません―!」
「…え、でも そこはさ、謙遜の仕方を知らないバカも含まれてくるとは思うけど…?」
「―ちょっと待って―!! どう転んでもバカ扱いなの―!? 僕『神』なのにヒドくない!? 言わせてもらえば、僕はキ◯タクに先駆けること千年超えの『神代』から、『見目良い神』で通ってるんだよ―!?」
「―はっ、認知度も乏しい『神』が、狭い界隈で持て囃されている評価などアテには成りませんね―! 若しくは貴方の地元とは、イケメンといえば有名どころのキ◯タクの名しか出て来ないような文化レベルなのではありませんか?」
「―言っとくけどコレ、東京出て来てバ先で言われたことだから―! それも1人2人どころじゃなく言われたことだし! 野木センの言う通りなら、東京の文化レベルが その程度ってことじゃない―!?」
「―何度でも言いますが、キミの言うことには証拠が無いんですよ―、私には むしろ、キミが この機会に自分の顔を 従来より理想に近づけようと企んで、言葉巧みに我々を誘導しているように思えます。
―それは そう、例えるなら動物園から逃げ出したシマウマが捕まって檻に戻されようという時に―? 自分はシマウマではなくライオンだから、ライオンの檻に入れるよう 要求するのと同じくらい、身の程知らずの戯けたことです。
―そんな危険な愚行は周りのまともな人間が止めてやらなければ、その先に どんな悲劇が待ち構えているか、言わずとも お分かりになりますよね?」
「…失礼しちゃうな…! 僕 嘘なんかつかないって言ってるのに…!」
再三 野木から頑迷な疑いを突きつけられ、手の中のスマホから発せられた、いかにも悲し気なトキオの声に アキラはハッとした。
「…そうだよね、トキオは ただ、自分の顔を なるべく実物っぽく再現してほしくて、正直に言ったことだもんね…、この場合、確かに謙遜なんて必要ないんだ、
―ごめん、なんか、バカ扱いしちゃって…、」
野木の些か大げさな例え話もあり、逆に少し冷静になったアキラは、ここに来て再びトキオの肩を持つ。
「―アキラくん―!?…信じて良いと思うんですか―? 彼の言うことを―、」
アキラの変節に、少し不満そうな声を上げた野木だったが、
「―うん、だって、何にしろ『顔』は必要だし、イメージがはっきりするなら、僕は それで良いんだよ、真偽はどうあれ、多少盛られたって、僕は構わない。
…だいたい、そういうキム◯クが不動の顔面覇王的な価値観も 今ドキどうかと思うよ、顔の好みなんて人それぞれだし、そもそも僕は、キム◯クよりも野木さんのほうがカッコ良いと思ってるし―、」
「―え―? そうなんですか…!?」
少々不毛な論争は、ここで突如終わりを告げた。
アキラが、こんなにも分かり易く驚いた野木の顔を見たのは初めてであった。
大きく見開かれた目と、瞬く間に染まった頬――普段は出来の良い彫像のような澄まし顔の男が、珍しく見せた人間らしい表情に、アキラも釣られてドキリとする。
「…まいったな…!」
言いながら口を手で覆い、顔を背けた野木の表情は、最早 窺い知ることも叶わないが、神たるトキオだけは、彼が今 どんな気持ちでいるかは手に取るように分かっていた。
「…野木さん…?」
ルームミラーからアキラが覗いて見ようとしても、今や すっかり手で隠されてしまった野木の顔は見えず、これまで見たことのない彼の様子にアキラは戸惑う。
そのアキラにも増して、混乱を極めているのは野木のほうだった。
――言ってしまえば、野木は嬉しいのである。
正に『天にも昇るような気持』とは、このことを言うのだろう、自らが この国で1番の美男子と認める芸能人より、カッコいいと言われてしまったのだ、それも かの意中の少年から――!
しかし『謙遜』というものを きちんと弁えているアキラくんのことである―。これが執拗な疑いを振り撒き 彼らを困らせていた自分を黙らせる為の、社交辞令でしかない可能性は重々理解できる―。それでも『童貞』の意味を知らないアキラくんでもあるのだから、もしかして、純粋に彼の本心から発せられた言葉であるという可能性も、万が一にも無くは無いのではないか――?
ともかく この歓びと、アキラへの感謝を、それとなく伝え表す手段は何か、最早トキオの素顔のことなど そっちのけで、野木はニヤける頬を抑えながら、思考をフル稼働させた。(←※なお、「ありがとう、嬉しいです」等と素直に言葉で伝える選択肢は、何故か最初から彼には無い)
運転席で暫し項垂れていた野木は、はたと何かに思い至ったように顔をあげると、車のエンジンを切り、再びサイドブレーキを引いて、少し白々しい調子で こう言った。
「―そうそう、お土産を―… 買って行きましょうねぇ、…こんな時ではありますけど、内藤さんの ご機嫌伺いの為にも それは必要でした、うっかりしていました―…、」
助手席に置いていたボディバッグを手繰り寄せながら、野木はアキラにも誘いをかける。
「―アキラくんも、一緒に行きませんか―? 内藤さんとの つき合いは、アキラくんのほうが長いでしょうし、お土産選びを手伝ってもらえましたら、アキラくんにも何か、お礼に 御一つ好きなものを買って差し上げますよ―?」
それらしく真の狙いを暈してはいるが、何のことはない、要するに、持てる叡智を振り絞り、野木が己の感激を示すべく導き出した答えは、アキラに対して彼が欲する品を貢ぐことであった。
これにはアキラが躊躇した。
ひょっとすると、「キ○タクよりもカッコいい」と語った、お世辞半分、しかし全く出鱈目でもない自分の言葉が 野木に影響したのかもしれないが、ただでさえ、真夜中に車を出してもらったのである。
この上、たかだか土産選びを手伝うくらいで、お礼の品など受け取れるものかと、アキラは後部座席に座ったまま、いそいそと駐車場に降り立つ野木の、どこか浮かれた表情を 戸惑いながら眺めていたが、そんな彼の背を押すトキオの言葉が、手の中のスマホから囁かれた。
「―好きなもの買ってくれるってよ―? 良いんじゃない? 一緒に行けば?」
「―え? …でも、なんか、図々しいよ、そんなの…、」
「―こういう時だから、元気づけたいのかもしれないよ、君のこと―、」
トキオも また、同様にアキラを気遣っているのが分かる、心の籠った声だった。
「―行かないですか―?」
車外の野木から再び促され、アキラは取り急ぎ、彼らの勧めに従うことに決めた。
ここまで お読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の暮らしに ほんの少しでも彩りを添えられる作品になっておりますならば幸いです。
近年の 行き過ぎたルッキズムには やや引いている感じの筆者でありまして、そもそも専務・野木氏は構想段階において、パッと見イケメンレベルくらいを想定していたにも関わらず、アキラくんには困ったもので、お世辞半分で とんだ持ち上げ方をしてくれたものです。おかげでカクヨム様のほうでのイラスト企画、野木センのところで大きな壁にぶち当たっております。(最終的に、アキラくんの美的感覚が独特なのだという解釈に収めることになりそうです。)
ところで、皆さまが一番のイケメンと認める有名人は どなたでしょう?
後学の為、お教え願えましたら嬉しいです。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




