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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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自称・神サマの主張・7

 そうしてアキラのスマホを手に車を飛び出し、彼が向かったトイレへと小走りで急ぐ。


―失態である―。

―少し体調でも悪いのか、しかし それくらいなら まだ良い―

―この上 万一(まんいち) 何者かの魔の手が、彼にまで及んでいたとしたら―


 性分として、こんな時、悪い事ばかりを思い巡らしてしまう野木(のぎ)である故、駆け付けた先の 掃除の行き届いた明るい手洗い場で、1人 鏡の前で(たたず)む意中の少年を見つけた時は、実際 その場に へたり込みたいほど安堵した野木なのだった。


 けれども そんな素振りは おくびにも出さず、野木は(うつむ)き加減のアキラに声をかける。


「―アキラくん、…すみません、少し 遅いと思って来てしまいましたが、大丈夫ですか―? どこか具合でも―…?」


現に案じていたせいもあるが、この声かけは少々不用意であったことは否めない。


 反射的に顔を上げ、振り向いたアキラの目には、今も溢れんばかりの涙が、はっきりと浮かんでいたのだ。


―これこそが失態だったと、野木は瞬時に悟る。

―戻って来なかったということは、その顔を誰にも見せたくなかったからに違いない―


 過去には『すぐ泣く(なにがし)』と揶揄(やゆ)された彼にも、それに(あらが)うくらいの矜持(きょうじ)は確実に育っているのだ、間違いなく―。


 かける言葉に(きゅう)した男に、救いの手を伸べたのは、きっと1人泣き暮れていたのであろう、少年のほうだった。


「―ごめんなさい、心配かけて…、大丈夫だよ、具合悪いとかじゃないから、ただ…、」


「…ただ……?」


――それは確かに涙声なのだが、アキラは気丈に言葉を紡ぐ。


「――目の中に睫毛(まつげ)が入っちゃって…、たまにあるんだよ…、中々取れなくて…、」


気恥ずかしそうな微笑(ほほえ)みを浮かべ、ハンカチで目元を(ぬぐ)いながらアキラは言った。


―もっともらしく、それらしい話を語る者が ここにも居たことに野木は苦笑する。


「―それは痛いでしょうね―…、良ければ、私が見て差し上げましょうか?」


 機転を()かせたアキラに対し、少し下心の混じる応答しか出来なかった自分に、(いささ)か後ろめたさを感じつつも、野木はアキラに歩み寄る。


「――もう取れたから、平気。――待たせて ごめんなさい、じゃあ帰ろっか…?」


アキラから明るく断られた野木は その場で立ち止まり、自嘲気味(じちょうぎみ)微笑(ほほえ)む。


 出入口付近で待つ自分の元へ、アキラが自ら歩み寄って来るのを待って、野木はアキラを護るように寄り添い、慈しむように、自分の車までの数十メートルを歩いた。


◇      ◇       ◇


 野木から自分のスマホを返され、後部座席に乗り込んだアキラは、すっかり元気を取り戻したようで、再び トキオの『魂』と語り始めた。


「…ええっと、じゃあスマホに入る前に、僕に直接語りかけてたのって、今の その『(たましい)』だけの状態じゃ、君は あまり自由には動けないってことなんだね―?」


「―そうなんだ、見た通りの光の玉で、手も足も無いからには、自力での移動は難しいし、下手(ヘタ)すると風に飛ばされて どっか行きそうになる感じ―? …もう少し、『感念力(かんねんりき)』を回復出来れば ちょっとはマシになる筈だけど、基本『魂』単体には、ほぼ『重さ』が無いものだから、『質量』を持つ『物体』を動かすことも出来ないんだよ…、」


「…なるほど…、『神』といえども、ある程度は 物理法則に支配されるんですね…、」


 シートベルトを締めながら、少し感心した風に 野木も口を挟んだ。


「…君は そう言うけどさ、現に そうやって、スマホのスピーカーやメモアプリを使ったり出来るってことはだよ、君の その『魂』には、ある程度 電気的に振る舞える『(ちから)』が有ると見て良いんだよ―。そうだよね? 野木さん―、」


「―そうですね。『光』も電磁波の1種である以上、『光の玉』である時点で、何らかの電気的『力』を有することは確かでしょう―。

―それこそ、『神代(かみよ)』は どうあれ『現代』では、そこに『電気』さえ有れば、それを各種の運動エネルギーに変換する方法は山ほど有りますよ―、」


「―そうなんだよ、だから、君の その『魂』があるなら、その『力』で動かせる、仮の身体は作れると思うんだ―。―ここは ひとつ、僕に任せてもらえないかな―?」


「―ほんと―!? ――君 そんなこと出来るの―!?」 


「―うん。僕 ちょっとだけ得意なんだ、そういうの。

―これまでも、ちょっとしたロボットなら作ったことはあるし、君が望むなら、この機会に実物大のヒト型ロボットに挑戦してみるのもアリかな~?って思ってる。」


「―すごいね、アキラくん! それは助かるよ! 是非お願いしたいです―!!

わ~僕 良い人に拾われちゃったぁ~!!」


―アキラの機械工作の腕前は、『ちょっとだけ得意』などというレベルで無いことは承知している野木である。それにも増して、それに賭ける熱量たるや、虚弱な心臓を抱えているにも関わらず、もとより常人の域には無いのだ。


―果たして この突如現れた『神』の御恵たる『質量ゼロ』の『動力源』を前に、仮にも受験生たる彼が、この先 勉強や生活を(おろそ)かなものにしはしないか、嬉しそうなトキオを余所(よそ)に、少なからぬ不安に駆られる野木であったが、当のアキラは そんな彼の心配など どこ吹く風、早速トキオと その『仮ボディ』製作の為の相談を始めている。


「―完成まで 数カ月は かかると思うし、君の『魂』が持つ『動力』としての『特性』を見極めるのに、最初は色んな『実験』に つき合ってもらうことにもなるけど、良いかな? …それで、元の君の『身体』に近い『ヒト型』を希望ってことなら、やっぱり『顔』も、そもそもの君の『顔』に似せたいとは思うけど、僕は君の『顔』を見たことが無いのが問題なんだよねぇ…、」


「…そうだなぁ…、『感念力』が回復したら、スマホで自撮りの念写くらいは出来ると思うよ、それが出来たら見てもらうってことで。…前もって、大まかなイメージを伝えておくとねぇ、僕の顔って、時々 昔のキ○タクに似てるって言われるカンジだよ―、」


これを聞いた野木は、発車する為 解除しかけていたブレーキを猛然と踏み込み、全速力で振り向いてアキラに言った。


「―アキラくん!

それ絶対信じちゃダメなヤツだと思います―!!」


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の1PVに、今日も元気をいただいております。

引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。

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