自称・神サマの主張・6
少し横道には逸れたが、観覧車のある道の駅で、野木とアキラは2人向かい合い、温かい ひもかわうどんを朝ごはんとして食べた。
夜通し運転してきた野木を気遣うアキラの命令で、食後20分ほど運転席で仮眠をとらされた野木だが、結果として小一時間ほど寝てしまい、慌てて起きて出発しようとしたところで、アキラは その前にトイレに行くと言って車を出た。
1度行きかけて戻ったアキラは、仮にも神様を連れて行くのは気が引けると言って、パワーウィンドウ越しに、『トキオ』の『魂』が入った自分のスマホを野木に託して行った。
アキラの手の温もりが残るスマホを懐に抱えて、遠ざかる彼の後ろ姿を眺めながら、思いがけず、初めて2人で会食する運びとなった、先ほどのフードコートでの あれこれを、野木は夢見心地で反芻する。
行儀よく 小奇麗な、かの少年と連れ立って歩くことは、野木が密かに待ち望んでいた心躍ることで、少々猫舌気味なのか、汗ばみながら一心に、当地の名物うどんを食んでいた彼の様子が、とても可憐で可愛らしく、その姿を思い返すと、こんな時であるというのに、野木の口元は つい綻んでしまう。
空腹と共に心まで満たされて、少し倒した運転席のヘッドレストに頭を乗せ、野木は満足そうに瞳を閉じた。
この先のランニングコストを思うと少し気は重いが、やはり新車を買って良かった――その良さを実感出来る 快適なシートが、野木を再び少しの間、心地よい微睡みの中へと誘う。
「―へぇ~、ほぉ~、ふぅ~ん、…なるほどねぇ~~~!」
眠りに落ちる すんでのところで、野木を呼び起こしたのは、胸元のスマホから発せられた、何やら挑発的なトキオの声であった。
その時になって ようやく野木は、『直接触れ合えば分かり合えることもある』と語った、トキオの『魂』入りのスマホを、正に その手で触れてしまっていたことに気づいた。
―しかし、こうなっては、今更 慌てても仕方がない―。
「―それで? 私の弱味でも握ったつもりですか―?」
努めて平静を装い、野木は手の中のスマホに向かって問いかける。
「―いやぁ~、お兄さんにも 色々事情はあるみたいだし、神として、そうそう無粋な真似も出来ないしね。―とりあえず、『アキラくん』には黙っておいてあげるよ、―お兄さんの『本心』は―。」
「―キミの言う、私の『本心』が何を指すのかわかりませんが、一応 お礼くらいは言うべきでしょうかね? この場合…。」
「―可愛くないねぇ、お兄さんも『人』なんだから、フツーに素直に信じてくれたら良いんだよ、『神』たる僕を、」
「―『神』なんて、いないものだと思っていました―。 キミの語った『神代』の話にしても、正直どこまで信じて良いやら…、」
それでも 先程 このスマホを手にして以来、不思議と このトキオの『魂』に対しては、再三アキラが言ったように、恐れも疑いも不要に思えてきた野木ではある。
「―ここまで僕が話したことに、嘘偽りは1つも無いよ。それで僕を『疫病神』呼ばわりしたきゃ、勝手にすれば良いさ―、」
――先刻 言いかけて呑み込んだ言葉をトキオに当てられ、苦笑しながら野木は答える。
「―そうは申しません。…言ってしまえばガチでソレ過ぎて、逆に気の毒になりますからね―。―ただ、少し…厄介だとは申しておきましょう―、実際 そのように 『心』を読まれてしまうのであっては―…、」
「―ごめんね、でも今回ばかりは大目に見て―?
―とりあえず、ノギセンは僕を信じてくれなくても、ノギセンは信じられる『人』だって分かったから、もういいよ。あとは自重する。」
「…なにが『いい』のかわかりませんけど…、…―ところで、こんな問答をする為に、私を叩き起こしたんですか? せっかく もうひと眠りするところでしたのに…、」
「―もちろん、それだけじゃないよ、アキラくんのことが心配だからさ―、」
「―アキラくんが―?」
些か睡魔に押され気味だった野木は、トキオの言葉に冷水を浴びせられたような気になり、急いで体勢を立て直す。
「―だいたいノギセン、さっき僕のこと『有難みの無い神~』みたいに言ってたけどさぁ、
あのアキラくん、ほんとうなら 今 泣いて喚いて 居ても立っても居られないほど、不安に押しつぶされそうになってるんだよ。そこを 僕が、今ギリギリ使える神の力で和らげてあげてるんだ。少しは感謝してほしいくらいだよ、」
「――君の その…、もっともらしく、それらしい話を臆せず語ってくるところは、どうも信用し難く思えてしまいますが―…、」
妥当性は感じつつも、通常の感覚では真偽のほどは判らないトキオの話に、やはり どうしても言いがかりめいた言葉を返す野木である。
「―なるほどね~。でもさ、
君の大事なアキラくん、ただトイレに行ったにしては、随分 時間がかかり過ぎてると思わない―?
――こう距離が離れちゃうとさ、僕の『力』も届き難くなるから心配なんだよ、」
これを聞いた野木は、手の中のスマホを見、これを預かって早や20分は経過していることに気づいて跳ね起きた。
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