自称・神サマの主張・5
「―ちょっと待ってください、アキラくん―!! …それ、本気で言ってるんですか―!?
この や―…ヤラカシ神と手を組むと―!?」
「―もちろん。僕と彼とが追うべき相手は きっと一緒だもん、全く理に適った共闘だと思うけど?」
「―いや でも しかし―…、総て『仮定』の上での話ですよね? 『彼』の言うことには1つも『証拠』となるものが有りませんよ、今のところ―、
―その…、仮に彼の話が総て本当だとして、現世での彼が不幸続きなことにしても、その『神代』の『奴ら』の再来と、早々決めつけて良いものでしょうか―?
―思うに、ただ生まれ変わって本来の『神』としての『善行』を行うだけでは、『罰』としてユルいと思われる節もあります―。
つまり、彼の上役の『神』が、これまでの経過から量刑を見直して、今回は敢えてハードモードの『人生』を与えている可能性も考えられはしませんか―?」
「―え~、でも 僕、生まれて来る度 生涯『童貞』を貫く縛りを強いられてきたんだよ~、まぁ、『彼女』に『操』を立てる上で止むを得ない流れではあるけどさ、これが どんなにしんどくて辛いことか…! そんな、ユル過ぎとか言われるの、ちょっと心外なんだけど~、」
「―童貞が何ですか、それぐらい―! 生涯童貞で終わる人間なんて、ザラに居ますよ、だいたいキミ今トシは幾つですか―?」
―『童貞』というワードに鋭く反応した野木氏であるが、彼が童貞or Not童貞であるかについては、彼の名誉の為に ここでは伏せておく―。
「―16だけど…、」
「―だったらフツーに童貞でいなさい―! 民法に照らしても そうあるべきです!
―なんですか、まだ年端もいかない若者が、童貞でいるのが辛いだの、ふしだらな―!
そもそも童貞を捨てることで出来る可能性の有るものに対して、責任が取れるんですか?今のキミは―!?」
「―それとこれとは話が違うよ―! 僕が言ってるのは これまでの『過去世』での辛い経験であって、そりゃ、生涯禁欲を貫くご立派な人は昔も居たし、現代社会はソレを除いても娯楽は色々あるけどさ、僕は土台が『生命』を司る『神』なんだ!! 自分が最も輝ける舞台から、自分自身が閉め出されてる辛さなんだよ、分かる? この辛さが!? 分かんないかな~?」
どうやら思わぬ方向に議論が転がり出したようで、しかし丁々発止と論戦を交わす2人を前に、これはこれで案外 好相性なのかもしれないと、黙って2人を見守っていたアキラだったが、
「―アキラくんは どう思われます―? 生涯『童貞』でいることは、重い刑罰に値すると考えられますか―?」
「―それはそうだよねぇ、生きる上での大きな悦びの1つだもん、」
「―え…!? …あ…、っと、僕は…、」
不意に意見を求められ、アキラは困惑した。
そう、黙っていたのは他でもない、アキラは『童貞』の意味を知らないのである。
こうして議論に巻き込まれるということは、自分の年頃にもなれば、知っていて当たり前の言葉なのかもしれないが、生憎アキラは自覚が有るほど、興味の有り無しによって、持てる知識に非常な偏りがあった。
『神』(の生まれ変わりの人間)と、父の会社の『専務』を前に、一介の中学生でしかない自分は、ここは正直に本音を晒すしかないと観念し、アキラは、おずおずと白状する。
「…ごめん 僕、『童貞』って何なのかイマイチ分かってなくて…、」
アキラの この一言に、2人は一瞬 言葉を失う―。
―その時、野木は思い出した―。
息子のことなら何でも話したがる子煩悩な社長の話と、その社長に付いて来ては、材料探しと称して廃材の物色を繰り返す小さな令息への対応に苦慮したという、主に第2プラントの人々の間で語り継がれてきた噂を―
―曰く、この四郎丸白という、御年15になる少年は、同世代の友人達が異性の裸体などに多大な興味を示す頃合いなのにも関わらず、そんな兆しは1mmも見せず、もとより 彼は幼い頃から、プラントに持ち込まれる廃家電やスクラップの、ボルトやネジを外した先の、筐体に収まる配線やら基盤やら、モータ、歯車その他諸々の機械要素を覗き見ることに、異様な興奮を覚えるタイプの少年だという数多の証言を―。
―噂は本当だったのだ―…! アキラくんの この告白は、おそらく紛れも無い真実…!
―なんと清らかなアキラくんであることか、野木は思わず感涙に咽びそうになったが、
「―なんだって!? 君、『童貞』が何であるかを知らないだって―!?
―そいつぁ 大変だ―!! でも 大丈夫、僕が来たからには もう安心だよ、
僕が 1から懇切丁寧に教えてあげるね、」
――絶対不可侵の聖地にも等しい、純真なアキラくんを脅かす、不届者が現れた―…!
「―いえ 結構です―。間に合ってます―。」
言われたアキラが反応する前に、野木が勝手に お断りしてしまった。
「―え…? 野木さん―…?」
―奇跡の処女地の如く純白無垢なアキラくんの心に、そんな汚れた知識を植え付けさせてなるものか―と、降って湧いた謎の使命感に駆られた野木は、戸惑うアキラを余所に 更に続ける。
「―次期社長就任が期待されます、このアキラくんに対しては、御父君たる現社長はじめ周りの者が、幼少期から それに相応しい教育を、一丸となって推し進めて参りました。今は御存知ないことについては、ここまで しっかりした貞操観念を涵養してきた賜物に他なりません。ですから、ポっと出の、『神』だか何だかワケ分からない方の余計な お世話は ご遠慮願います―、」
「―いいや! これは それとは全く違うね―! この子は きっと、その方面の知識が著しく欠けてるんだよ、このままじゃ将来的に良くない―! この機会に学ばせてあげなきゃ―!」
――敵も然る者、流石に『神』だけあって、状況を的確に分析してくる――。
たしかに、このまま何も知らない『アキラくん』にしておけないことは、野木にも重々理解できる。
―しかし、少し冷静に考えてみても、今 自分が居る この場で以て、アキラくんに そうした話をされることは、はっきり言って、非常に気まずい―…!
「…ですが、…言ってはなんですが、こんな時に そういう話をするのは、些かならず不謹慎です。」
――ならば、と野木は、今が何気に非常事態であることを盾に、なんとか この危機(?)を回避しようと試みる。
「―…なんとなくだけど、下ネタ系の話なの―…?」
――皮肉なことに、野木の この一言で、賢いアキラは およその見当を付けてしまった。
「―やぁ、中々 察しが良いじゃないか、アキラくん、
そこまで分かったんならイっちゃって良いよね? ズバリ童貞っていうのは―、」
「―お黙りなさいトキオとやら! それ以上言ったら 今度こそ つまみ出しますよ―!」
「―そんな! 助けて…!」
「―この車は私の物です。何を乗せるか最終的に決めるのは私です。それを努々お忘れなきよう…!!」
――業を煮やした野木は、彼にしてはレベルの低い、意地の悪い脅迫めいたことを口走ったが、これにはアキラが黙っていなかった。
「…それを言ったら、この車を買えたのって、父さんがボーナス弾んだからだよね? だったら、その息子である僕の言うことを、野木さんは尊重すべきじゃないのかな?」
「―え!? ―そういうこと言うんですか!? アキラくん―!?」
想定外のアキラの反撃に、野木は珍しく素っ頓狂な声を上げる。
「―野木さんがコドモみたいなこと言うからじゃないか、この子は困ってるんだから、助けてあげなきゃダメだよ―!!」
「―そうだ、そうだ~!!」
アキラの加勢に勢いづき、そんな風に囃し立てたトキオだったが、アキラは そのトキオをも毅然と諫めた。
「―トキオもトキオだよ、野木さんが何だか嫌がってるのに しつこ過ぎ! もういいから、このことについては黙って―! あとは自分でググるから―!」
「―…ごめんなさい…、」
「―…ま、まぁ そうですね、そうしていただければ…、」
こうして この件は ひとまずの決着を見たが、その後 アキラ少年が 本当に、これをググったかどうかは定かではない―。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
いつも 貴方様の1PVに元気づけられています。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




