自称・神サマの主張・4
「―『悪さ』した分、人を甘やかす『神』―ですか。寡聞にして存じ上げませんが、ちなみに君の『神』としての『名』は何と云うのです―?」
「―トツナヒコノミコトというよ。まぁ 知らなくても無理は無いのさ、僕みたいな下っ端の『神』は『高天原』を追われた時点で、あとは記録も伝承も消される一方だから、」
「―たしかに僕も聞いたことは無いけど…、字で書くと どうなるの? トツナヒコって、」
「―え? それ 知りたい―? …ええっとねぇ…、」
そう言うとトキオは、アキラのスマホのメモアプリを起動して、画面に自分の名前を1文字ずつ ゆっくりと大きく縦に表示していった。それを見ていたアキラは、些か珍奇に思える その漢字に目を丸くし、そのアキラの表情をルームミラー越しに見た野木も また、気になってアキラに尋ねた。
「…どういう字を書くんです…? 私にも見せてもらえますか―?」
言われたアキラはルームミラーに映るよう、野木にスマホをかざして見せたが、そこには左右が反転していても、一見して一風変わっているように思える文字が記されていた。
〔凸名彦〕
「…なんとなく、字面から受ける印象は かなり いかがわしい感じがしますね…、」
野木は率直に抱いた感想を口にする。
「―あ~、やっぱり そう思う~?
…これも罰として課された当て字なんだよ、ほんと僕も 結構 恥ずかしいっていうか…、
――元々は違ってて、ほんとは もっと神っぽい、厳かな字面だったのに、でも もう本来の表記は許されないっていうかで…、…まぁ、今となっては、これも今っぽくてアリっちゃアリかな~?って思えるようにはなったけどさ~、」
「―たしかに、なんかポップな感じがして良いかもね…、」
悲しげに語るトキオを慰める為、そんな言葉をかけたアキラだったが、
「あ、アキラくんも そう思う~!? 嬉しいなぁ! ほんと なんかさ、やっと時代が追いついてきた感じ~?」
秒で立ち直った風のトキオである。
「…でも 本当は どういう字だったの? こっそり僕にだけ教えるとかは出来ないの?」
「―それは厳禁なんだ。その禁を犯すと大変なことになっちゃうから勘弁ね。
―でも、ほんとに本当は もっと格調高くてカッコ良い名前だったんだよ~、アキラくんなりに想像してもらっても良いかも。」
「…そっか、僕 国語は ちょっと苦手だけど、今度 辞書とか引いてみるね。
…ところで、君の『神社』があるならさ、君のこと、そこに連れて帰ってあげたほうが良いのかな? もちろん 今すぐってワケにはいかないけど…、」
ここまで聞いたトキオの『事情』を勘案して、アキラは善意から そんな提案をしたのであるが、
「―え? あ、それは ちょっとマズいんだ…。いや、ちょっとっていうか、かなりマズい…! …てゆうか、―そうなんだよ、どうも『今生』は色々 可変しいなぁ とは思ってたけど、やっぱり全部 仕組まれてたのかも…、そうなると、いよいよマズい、マズいぞ これは…!」
「―なにが そんなに『マズい』んですか―? こちらにも分かるように仰ってください、」
1人で慌てるトキオに苛立ち、野木が その理由を訊く。
「――それがね、今まで こんなこと無かったのに、今回、生まれ変わってからは、何だか 色々 良くないことが続くんだ…。父さんと母さんは事故で早死にしちゃうし、氏子の人達は、妙な迷信に染まってフツーじゃなくなってるし、『彼女』は4年前の12月12日以来、僕の所に来てくれなくて、おかげで僕は今も半人前のままだし、しまいには僕が殺されかける事件とかもあって、もう耐えられなくて、瑠璃愛と2人で東京に逃げてきたんだよ、去年――。だから、地元に帰るのは今は逆に危険ていうか…、」
「―それは確かに…なんだか大変だね…、」
同情するようにアキラが言う傍らで、
「――ていうか、半分『神』でも殺されかかったりするんですか? 案外『神』とは弱いものなんですかね?」
疑問と皮肉を交えた問いを、野木が遠慮なく見舞う。
「――返す言葉も ございませんけど――そこなんだよ! あの時点で気づくべきだった…!
今夜のあの『札』もだけど、神封じの呪法が――、神代の あの時の連中に似てるんだ―…!
…考えたくないけど、僕は『奴ら』を滅ぼし切れなかったのか―…!?
――なんてことだ―、『逆神』となっても『奴ら』を根絶やしに出来たら、それで良かったと思ってたのに…!」
「―トキオ―…、」
声色から伝わる、彼の心の痛みを気遣うように、アキラはトキオの名を呼んだ。
「―『根絶やし』だなんて、物騒なこと言ってるよね…、
―でも ほんとうに、『人間』の『自由』と『平和』を思うなら、『奴ら』は生かしておくべき存在ではないんだよ…『天つ神』の面々は、気づいてるのかな? このこと…、」
どうやら今 この時代に、『神代』から続く因縁の相手に再び悩まされることになったらしい、自称・『神』の主張が、どこまで正しく本当のことなのかは分からない。
しかし、生まれ変わった現在、年齢も自分と大差無いらしく、初対面であるのに大層気さくで、尋ねたことには全部 正直に答えてくれる、この『トキオ』という少年の言うことを、アキラは総じて信じても良い気がした。
野木の運転するSUVが、出入り道路から合流地点に向かうところで、既に白みはじめていた空に、新たな朝を告げる光が差し込んで来る。
「――わかったよ。君に そういう『事情』があるなら、その『神社』に帰れとは言わないし、何度も言うけど、君は僕の家に連れて帰るつもりだから、そこは心配しなくていい。
――『身体』を奪われた君に出来ることと、その君の為に僕がしてあげられることを合わせて、どんなことが出来るかは 未だ解らないけど、僕達は手を組んで、一緒に闘うのが良いと思うんだ、お互いに、大切なものを取り戻す為に――、」
「――アキラくん―…!! ――ほんとに…そうしてくれるの―!?
――ありがとう!! 君が賢くて助かる~!!」
朝の光で満たされてきた車内に、アキラの力強い言葉と、トキオの明るい声が響き渡ったが、それを手放しでは歓迎出来ない野木が そこに居た。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の1PVに、いつも多大な お力添えを頂戴しております。
さて、出て参りました『凸名彦』でありますが、これは一応私の創作した『神』ということになっております。とはいえ、日本に八百万いる神様でありますから、万一 不勉強な筆者の預かり知らぬところで、実在している!等の情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、恐れ入りますが是非ご一報くださいませ。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




