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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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自称・神サマの主張・3

 互いを まだ よく知らなかったというならば、野木(のぎ)とアキラの2人も また、この段階では そうなのだった。


 多くの人が眠る真夜中に街を抜け出し、両者を繋ぐ(かなめ)であった人を追った結果が報われず、その帰り道には、それまでよりも踏み込んだ、互いを語る為の時間が持たれることを、うっすら予期していた2人であったが、そこに突如 現れた『神』を名乗る少年が、その彼らの間に割って入ったのである。


 とりわけアキラは、自分が連れ帰ると決めた その『トキオ』という不思議な少年の『魂』が持つ事情を、改めて明瞭な言葉で伝えるよう、スマホを介して語る術を得た彼に対して 盛んに求めた。


 それが目下『トキオ』を あからさまに疑う野木を(なだ)めるのに有効であるという期待の上でのアキラの計らいであったが、果たして その目論見(もくろみ)は功を奏したか、否か?


 以下は 引き続き、夜明け前、東京へと戻る車中での3人の語らいである。


◇      ◇       ◇


 「―…ところで、キミに聞きたいことは まだ たくさん有るんだけどさ、とりあえず、『転生』ってほんとにあるんだ…っていうのが驚きだよね…、しかもキミは昔『神』だったってことでしょ? 『神様』ってさ、そんな風に、フツーに『人間』の姿で『人間』の近くに生まれ変わっているものなの…?」


「あ~、それはね~、さっきもチラっと言ったけど、僕は割かし異端な方だから、『人間』の世界に『人間』の姿で存在してる『神』って、八百万いる『神』の中でも少数派だよ。

 そもそもジャパンに()いて名の知れた神様達の『本体』は、今は(もっぱ)ら『高天原(たかまがはら)』と呼ばれる『天界』から『人間』の世界を見守ってくれてる感じさ。彼らは とても強い『力』を持つ存在だからね、下手(ヘタ)に人界に降りられると、世界の均衡が崩れちゃうってのもあるし。

 …まぁ でも、『神代(かみよ)』の昔? 『人間』が まだ 少なかった時代は、『神』と『人』の距離は もっと近くて、フツーに隣で暮らしてた時期もあったのさ。僕は その頃に生まれて、ある『出来事』を きっかけに、『天界』に帰ることを許されなくなって、『人間』として『転生』を繰り返すことになったんだ、」


「―その『出来事』というのは、どのようなことでしょう―…?」


はっきりしない部分を明確にすべく、野木はトキオに問いかける。


「…あ~、それ聞く~? …今後、君達の信頼を得る為にも正直に答えるけどさ、色々、事情は有ったんだ。…怖がらないで聞いてほしいんだけど、

――僕は三千の『人』を殺したんだ、『神代』の昔に―。」


それを聞いた野木は、アキラも驚くほどの勢いで急ブレーキをかけ車を停めると、速やかに運転席を降り、後部座席のドアを開け、ついにトキオを引きずり降ろしにかかった。


「―アキラくん、やはりコレは置いていきましょう、危険過ぎます―! 神は神でも なんか ヤラかしてる神じゃないですか、こいつ―!」


言いながら、アキラの手の中のスマホを強引に もぎ取ろうとした野木だが、


「―だから! 事情が有ったって言ってるじゃないか! 話せば分かるよ!!

僕だって、元々人殺しに向く『神』じゃないし、こうして生まれ変わりを繰り返してるのだって、その時の『罪』を『人』への『善行』で償うように言われたからなんだよ、だいたい千年以上前のことなんだから、もう許されて良いくらい、罪滅ぼしはしてきてるよ~!!」


懸命に訴えるトキオの声に、アキラは野木を制して言った。


「―野木さん 落ち着いて―、この子も こう言ってることだし、その…『事情』くらいは聞いてあげても良いんじゃないかな? ―それと これ、僕のスマホだから…、」


言われて野木も我に返り、少し恥じ入るように、慌ててアキラのスマホから手を離した。


「―申し訳ありません、つい…、」


「…あ~、コワかった~…!」


引き下がる野木を見て、被害者然と そんな一言(ひとこと)を放ったトキオだが、アキラにしても、多くの人を殺したという彼の話に恐れを抱かない訳がない。


「―それで―? その『事情』っていうのは、どういうことだったの―…?」


野木が運転席に戻り、再び車を走らせ出したところで、アキラはトキオに尋ねた。


「…それはね…、僕には生まれた時から『(つい)』になる女神(めがみ)がいたんだ。僕と反対の『力』を持って、互いを制御し補い合える伴侶となる――今風に言うと『彼女』だね、その『彼女』を神代の或る時 ある人間たちが不思議な術を使って(さら)っていってしまったんだ―、」


「―なんと…、その『神代』の昔にも、そんな風に『神』を攫う『力』を持つ『人間』が居た―ということですか―…?」


さも意外なように野木が()き返す。


「…そうだね、今なら『陰陽師(おんみょうじ)』辺りに分類されるのかな…? ―でも、その頃 そんな言葉は無かったからね、ただ、『人』と『神』が隣り合って存在する時代で、特殊な『力』を持つ『混血児』も珍しくはなくて、『神代』には独特の『科学』も存在したんだよ。


…それで、僕の『彼女』を攫っていった連中のしたことと言えば、それは酷いことさ―。


『神』の『力』でも千切れない、怪しい術をかけた鎖で『彼女』を繋いで、潮の満ち引きで水浸しになる暗い洞窟に閉じ込めて、痛めつけて、現に それだけの『力』を持っていたくせに、それでも『神』としての『彼女』が持つ『力』の『加護(かご)』を求めて、自分達の言うことを無理矢理 聞かせようとしたんだ。

―だから殺した―。」


「…その…そうまでして『彼女』の『加護』を求めた『人間』たちが望んだこととは、いったい何だったのですか―…?」


少し(すご)みを(にじ)ませてきたトキオの語り口に、やや気圧(けお)されつつも 野木は それを尋ねた。


「―『神代』の昔から、それを望む『人間』は、時折り現れるんだよね…。

奴らは葦原中国(あしはらのなかつくに)に――あ、今でいう日本にね、――『人間』が増え過ぎたから、住処(すみか)や食べ物を巡る争いを避ける為と言って、海を越えた外国(とつくに)への『戦』を企てたのさ。

―僕の『彼女』は、『人間』の『モノ創り』を助けて、『祝福』と『福運』を授ける『力』を持つ系統の『女神』でね、奴らは自分達が『戦』に使う『武器』に対しても、『彼女』の『加護』を得ようとしたんだ。

―これは全く お門違(カドちが)いな話で、望むなら彼らに『武運』を(さず)ける『神』だって居たのに、

そもそも平和な世を築く為の『人間』の叡智を寿(ことほ)ぐ存在である『彼女』には、土台無理な相談だったんだよ。

―それなのに、何故か奴らは執拗に『彼女』を責め立ててさ、『彼女』同様、僕も『平和』を願う『神』ではあったけど、さすがに辛抱出来なくなって、奴らに『神罰(しんばつ)』を与えるに至ったワケです。」


「―それで三千もの人を―…。それだけ『(いくさ)』を望む『人間』が居た、ということですか―?」


「―いやぁ、奴らの『軍勢』なんて、実質せいぜい30人くらいのものだったんじゃないかな? あとは脅されたり騙されたりで、無理矢理駆り出されてた人達が大半で―…、」


「―え? …じゃあ どうして君は、そんなに沢山の『人』を殺したの―…?」


「―そこがねぇ…、僕の『神』としての『特性(とくせい)』が(アダ)になったところで…。

――僕は この世に生まれ来る『命』を『祝福』し『福運』を授ける『神』なんだ。


だから大前提として、まず直接的な『殺生(せっしょう)』が出来ないし、『暴力』も(ふる)えない。

出来ることといえば、『命』を持つモノを元気にして自由にする『力』を与えることくらいで…、


――で、そんな僕が『彼女』を助ける為に何が出来たかというと、『病原菌』を『強化』したり、毒を持ったイナゴの群れを誘い集めるっていう…まぁ つまり、『疫病』を流行らせて、毒イナゴの群れに田畑を襲わせて、奴らの住む村に打撃を与える――っていうことぐらいだった。


――結果として村は壊滅的な被害を受けて、『彼女』を捕えていた怪しい術を使う連中も、最期は病に(たお)れていった。それで『彼女』は晴れて『自由』の身になったんだけど、今度は僕が、犯した『罪』を神々から問われることになったのさ…、」


「―つまりキミは、『彼女』を救う為に、(おのれ)の本分に(そむ)いた『大量殺人』という『罪』を犯した愚かな『神』――…ということですか――…? ――他に もっと、遣りようは無かったのですか―…?」


野木は嘆息しつつ、トキオに そう問うた。


「―どうかなぁ…? 今 思い返しても、僕には あれしか無かった気がする。ああでもして『奴ら』の『進軍』を止めなきゃ、外国(とつくに)も巻き込んで、もっと大勢の命が奪われた上、未来に禍根(カコン)を残したかもしれないと思うと、僕に後悔は無いんだ。


――何より 苦しんでる『彼女』を助けるのに、『手段』なんて選んでられなかったのさ―、」


「―そうだね…、大切な誰かを助ける為なら、そう思うのも無理は無いかも…、」


ぽつりと呟かれたアキラの一言(ひとこと)に、野木は何やら不穏当な気配を感じたが、ここまで少し重々しくなっていた空気を一転(いってん)、またも軽薄な口調に戻ってトキオが言った。


「――だいたい荒ぶる系の神だったら、これくらい、まったく罪には問われないんだけどね~、僕は 何ていうか『和魂(ニギミタマ)』系? 平和を愛する方の神だから、上位の神様が怒っちゃって。


――それで、『高天原(たかまがはら)』を出禁(デキン)になって、『神』の『(タマシイ)』を抱えたまま、『人』として『誕生』と『死』を繰り返す、『時間流刑』というものに処されることになったのさ。


『彼女』は そんな僕の為に、時代が変わって、多くの神々が地上を去っても、葦原中国(あしはらのなかつくに)に留まってくれてるけど、僕が死んで生まれ変わるまでの間は会えない、遠距離恋愛みたいになってるんだよ~、それが少し辛くて。…まぁ『罰』だから、仕方なくはあるんだけどね、」


「…遠距離っぽくても続いてはいるんだ? …そんな風に何度も生まれ変わっても、その『彼女』とはちゃんと巡り逢えるものなの…?」


「―まぁ そこはね、前科一犯(ゼンカイッパン)といえども僕は『神』だから、生まれ変わる時は いつも僕を(まつ)る神社の宮司(ぐうじ)の第2子として生まれることになってる。そこで12歳になるまで『彼女』と年に1度の逢瀬(おうせ)を重ねて、13歳になったら『彼女』と霊的に(まじ)わることで、『彼女』に託してある 僕の『神』としての『力』を全回復する手筈(てはず)になってるんだ。その『力』を世の為 人の為に使って、僕の罪が許される時を待つ――…っていうのが、僕に課された更生計画(コウセイケイカク)みたいなものかな?」


「―君を(まつ)る神社―…って、あるんだ…、そこが君の故郷ってこと? 何処(どこ)にあるの?」


「―Y県の、辺鄙(へんぴ)な山奥の村だよ。なにせ そういうワケ有りの『神』だから、少ない氏子(うじこ)で細々続いてる感じだけど、『罪滅ぼし』の為に『現世利益』は多めに振る舞う僕が、隔世(かくせい)降臨(こうりん)するってことで、古くて小さくても、知る人ぞ知る霊験(レイゲン)あらたかな お(やしろ)になってる。

…そういうわけだから、今現在の僕を、そんなに怖がる必要は無いって、分かってもらえるかな…?」


「―そうだね…、君の『事情』は だいたい分かったよ。…なんていうか、『彼女』を助ける為に、仕方がなかったこと―なんだね…、君のしたことは…、」


アキラは そう理解を示したが、人命を軽視したことは否めない、このトキオの過去の過ちを、野木は今ひとつ許容し兼ねた。


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

今回はトキオの言い訳じみた長い弁明が続いてしまいまして、誠に恐縮でございます。

余談ですが、トキオが殺めた神代の人々の人数は、当初案では「3万人」だったものの、それだと文明が滅びてしまうかもと思い、急遽「3千人」に変更したものであります。それにしても大打撃です。

架空の神話的な物語ですから書いたことであって、現実にあっては痛まし過ぎる大損害です。

トキオと野木とアキラ、この3人の車中での会話は、まだ続いてしまう流れですが、よろしかったら次回以降も 引き続き見届けてくださいませ。


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