自称・神サマの主張・1
あっけらかんと放たれた その ひと言に、野木もアキラも 一瞬 唖然とする。
「―えっ…と、君、『神様』なの…? …ごめん、僕 それは分かってなかったかも…、連れて来て良かったのかな? 君のこと…、」
少し不安になったらしいアキラは、神を名乗るトキオに尋ねる。
「―ぜんぜん良いよぉ―! むしろ置いて行かれたら困るって! 僕、ワケわかんない奴らに攫われて あそこに居たんだもん、助けてもらえて良かったぁ~!!」
『攫われた』というワードに、今は少し敏感に反応してしまうアキラと野木だが、野木は至って冷静に、新たに生じた疑問を投げかける。
「――『神』の割りには、攫われてしまったりするんですねぇ、『生まれ変わり』とはいえ、今は普通の人間に過ぎない―ということでしょうか―? もっとも、今の貴方は、その普通の人間にさえ見えませんけど…?」
「――そうだなぁ…、何から話そうか…、――とりあえず、現代に生きる『巫 刻生』も、全く普通の人間てワケじゃないよ。でも奴ら、僕の姉さんを人質にして、僕が逆らえないようにしたんだ。結局 瑠璃愛…―姉さんは そのまま奴らに連れて行かれて、『人間』としての僕の身体も一緒に持って行かれたってワケ。今 ここに居て、君達と話をしてるのは、半分人間、半分神である僕が持つ、『魂』なんだよ。
――たぶん だけど。」
「――たぶんて―…、」
アキラは少し 咎めるように口を挟む。
「―いやぁ、さすがの僕も、こういう状況は千年以上存在してきて初めてでさ、正直 自分でも 何が何やら まだ よく分かんなくて困ってるんだ。
―ともかくヤツら、妙な実験の実験台に僕を使ってさぁ…!! 僕の『身体』を一瞬で『機械』に作り変えたんだよ、そんでバラバラに分解して どっか持ってったんだ。酷いよね~、僕に何の断りもナシにさぁ~…!」
「…それって、事前に確認されてたら、まだオッケーだったってこと―?」
困っていると言う割りに、やたらと軽いノリのトキオに対し、アキラは思わず そんな突っ込みを入れてしまう。
「―ん? ―いやぁ~…、そうだなぁ~、事前の お断りがあっても、やっぱダメだよね、」
トキオから発せられる情報は、スマホから出て来る声だけだが、何やら苦笑いでもしている気配である。
「―ところでキミさ、なんか機械に詳しそうだけど、最先端のカガクギジュツって、こんな風に、人間を機械に一瞬で置き換えるなんてこと、頑張れば何とか出来るものなの―? 僕 その方面は専門外でさぁ、」
「―えっと…、どうだろ、僕の知る限り いくらなんでも出来ない相談だと思うけど…、野木さん、どうかな…?」
唐突なトキオの質問に、アキラは助けを請うように、野木にも その知見を求める。
「――質問に お答えする前に、状況を確認したいのですが、つまり貴方は そもそも持っていた人間としての血肉で出来た『人体』を、一瞬で、何らかの他の物質で構成された構造体に変えられてしまったということですか? それは表皮組織から骨格に神経系、各感覚器官や心臓とリンパ系の各循環器系に消化器官、呼吸器に生殖器、爪、髪、血の一滴に至るまで、総て本来の器質とかけ離れた物質に置き換えられてしまったと―。
――それでいて、貴方は 本来の『カンナギトキオ』としての『意識』を失わず、その置き換わった『構造体』を、自分自身の『身体』として知覚し、制御出来た―ということでしょうか―?」
「―…う~ん、そうだね、実験台に磔られてたから、自由に動くって訳にはいかなかったけど、だいたい そんな感じだよ―、自分の『身体』っていう感覚はあった、」
「―分解されていく時、痛みは感じましたか―? 出血などは どうだったんでしょう?」
「―痛み…よりは、恐怖が先にあったよ…、血…みたいな液体は、分解前に予め全部抜かれた。ヤツら中々手際が良くて…、言われてみれば、痛みは あまり感じなかったな…、」
「―それで貴方は、自分の『身体』が総て持ち去られてしまうまで、その一部始終を知覚出来たのですか―? 順番はわかりませんが、いずれ目も脳も失ってしまった中で―?」
「―うん…、そうだね…、そう言われると不思議なことだけど、どこかで それを見ていた自分はいるよ…、」
「―そうして、掴みようのない、光の塊である、貴方の『魂』らしいモノだけが残った―。
――なるほど―。実に興味深い話です。俄かには信じられないことですけどね―。」
乾いた笑みを添えて、野木は少し棘のある言葉を返した。
「――信じられないのは僕もそうさ、――それで どうなの? こういうことって、『カガク』的にはアリなのナシなの―?」
「―現在の科学が『有機物』から『無機物』への変化として認める事例として、私が思い出せるのは、微生物による分解がもたらす『異化』と呼ばれる反応くらいです。それは規模も小さければ時間もかかります。
一瞬で人の身体を機械に変えるなんてことは、理論的な筋道をつけるのも難しい、まるで非現実的な、魔法みたいな出来事です。普通に考えて、あり得ません。
――いくら専門外でも、それぐらいフツーにわかりませんか?」
「…じゃあ、『ナシ』ってことなんだね?」
「―そうですね。現代の科学は、まだ その域まで達していません。
――逆に、貴方が本当に『神』の生まれ変わりだというなら、そういう『力』を持つ『神』の仕業を疑ったほうが良いのでは―?」
曲がりくねった細い山道を、巧みなハンドル捌きで下りながら、野木はトキオに そう言い聞かせた。
「…それにしても、本当に『神』が実在して、その『力』で『人体』を一瞬で『機械』に変えたとするなら、その持ち去られた貴方の『身体』を、是非一目見てみたかったものですね。いわば それは、『神』の手になる完全な『機械人間』であったのかもしれません。その目も その脳も、心臓も、貴方の意識を損なうことなく機能し続けていたのであれば、それは完全に『人体』の各器官を代替補完し得るものと考えられます。その価値は計り知れませんよ―、」
どこか うっとりと野木の語る推論の中に含まれた『心臓』の一語に、アキラは思わず息を呑んでしまう。
理屈が先行しがちな語り口からは分かり難いが、この人智を超えたトキオの『魂』との遭遇に、珍しく野木は興奮しているのかもしれないと、アキラは思った。
「…確かにね…。そういう『力』を持つ『神』に心当たりは有るよ…。―有るんだけど…―え~~~、参ったなぁ…! どっちにしろ困ったことだぞ、これは~~~!!」
「―まぁ落ち着いて、ともかく その持って行かれた『身体』を取り戻せば良いってことじゃない?」
手の中のスマホを介して狼狽えているトキオを、アキラは そう言って宥める。
「―その前に 人質に取られた『お姉さん』を奪い返す必要もあるでしょうけども―。
―ところで、君の言う その『実験』は、あのプレハブで行われたのですか? 2階まで行って写真を撮って来ましたが、そうした実験台の痕跡らしきものは、私は見つけませんでしたが…、」
「――ヤツら、大急ぎで全部 撤収して行ったからなぁ…。
――実験は、たしかに あのプレハブの中に連れ込まれてからだったよ。君達が来る30分くらい前にはヤツらは全部 終わらせて出てった―。
…ところでさ、君達が、こんな時間に こんな山奥の あんな怪しい建物目指して やって来たのって、…もしかして、『シロウマルヒロシさん』を探す為―?」
――トキオの この一言に、野木は思わずブレーキを踏んで車を停め、アキラはスマホを強く握り締めた。
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科学の発展とともに様々な機械が創り出されている現代ですが、果たしてニンゲンに取って代わり得る『機械人間』が出来上がったら、ニンゲンは その時どうなるんでしょうね?(なお本作のテーマは そことは微妙に違ったものになる予定です。)
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




