捜索願い
捜索願を届け出ようとした その窓口でも、ひと悶着があった。
窓口の警官は、アキラと内藤から事情を聞くなり、そこに事件性と緊急性が存在する可能性を即座に認め、行方不明者届の記入をアキラに促し、特異行方不明者としての手配を粛々と進めようとしてくれたのだが、そこに もう1人、上役らしい警官が来て、それに『待った』をかけたのである。
今風のアゴ髭を生やした、その警官が異議を唱えたのは、やはり内藤が躊躇ったのと似通った理由からであった。
曰く、大の四十過ぎの大人が、ほんの数時間帰りが遅れただけで、特異行方不明者扱いとは全く嘆かわしいことで、逆に不憫でならない―、と。
アゴ髭の警官は、大仰な身振りも交え、声も高々に言い募る。
「―今日日、神父や坊さんだって、そこまで清らかな暮らしをしてる奴なんて、そう居やしませんよ―! まだ日付けだって変わっちゃいないのに―? そんな大げさに騒いで、事件扱いなんかにされたら、親父さん、余計に帰って来づらくなるってもんです―!
坊やも もう中学生なら分かってやりな? 男には、『息抜き』とか『羽目を外す』ってことが、どうしても必要な時があるんだよ、たぶん親父さんは今夜ソレなんだな、」
些か乱暴にアキラの肩を叩いて説得してくる警官の手から、アキラを庇って喜和子が反論する。
「―お言葉ですが、四郎丸社長のことを何もご存知ない方が、何故そんなことを言い切れるんです―? 私どもは、社長が この息子さんを、どれだけ大切にしているか、長年 お傍で見て来て よくよく存じております。『息抜き』や『羽目を外す』にしても、決して連絡を怠るような社長ではないんです。普段と違う、何かがあったと危惧されるから、私どもは警察のお力を お借りしたく、ここに参りましたというのに―…、」
「―しかしですねぇ、その電話の件も、『業務外』の揉め事と、社長さんも仰ってたんでしょう―? ―そんなの、おおかた痴話ゲンカでもやってたんじゃないですかぁ―?」
「―そんな―!!」
「―お? どうした~? なんか揉めてるねぇ―?」
アゴ髭の警官と、喜和子の口論が白熱してきたところで、1人の男が外から入って来た。
「―逸木刑事―! 遅くまで お疲れ様です―!」
「おう、互いにな―!」
窓口の警官は、その男を笑顔で労い、『イツキ刑事』と呼ばれた男は、軽く手を上げ それに応えた。
「―どうした、どうした? こんな夜更けに何の口論だ? ん? 行方不明者届?
―こんなもん、ササッと書いて、パパッと受理したら、それで仕舞いだろ? 何を揉めることがあるかね?」
アキラの手元にある書類を横から覗き見て、刑事・逸木は こともなげに言った。
「―自分も そう思うんですけど…、」
窓口の警官が助けを求めて逸木に縋ろうとしたところ、アゴ髭の警官が それを遮る。
「―『一般家出人』として扱うなら俺も文句は言わないさ、この菊池が『特異行方不明者』扱いにしようなんて、寝惚けたことヌカしてるから、止めてやったまでだ―、」
自分の判断に狂いは無いとでも言いたげに、アゴ髭の警官は 逸木に同意を求めた。
「…ふ~ん…、会社の経営者サマでいらっしゃるんですねぇ…、ちなみに 社長さんは、どういった商売を―?」
逸木は、アゴ髭の警官には目もくれず、アキラと内藤に尋ねてきた。
「―廃棄物処理業をしております―…。―当社は法令遵守を旨としておりますが、取引先となる方々には、色々な方がいらっしゃいますので…、連絡がつかないとなると、心配なところもあるのです。―何より社長は、男手1つで息子さんを育ててらっしゃいますから、こんな遅くまで、行き先不明のまま帰らないなんてことは、本当に初めてなんですよ…、」
切々と訴える内藤の言葉を、頷きながら聞いた逸木は、
「―う~~~ん、なるほど。たしかに色々あるとは伺いますねぇ…、
―いいんじゃないか、菊池、これは特異扱いが正解だろ―?」
あっさりと、窓口の警官・菊池に軍配を上げた。
「―ですよねぇ! そうします―!」
―『一般家出人』と『特異行方不明者』では、警察の対応も違ってくる。
窓口の警官は、逸木の加勢を受け、アキラの父・広の捜索を、即座に開始する為の手続きを再開した。
「―逸木―! お前、また横から勝手に余計なことを―!!
―これしきのことで現場を煩わせてどうする―? とんだ勇み足だろ、こんな―…!」
「―勇み足だったら、『何事も無くて良かったねぇ』、で済む話じゃねぇか―!
ケチケチしてんじゃねぇよ! こんな善良そうな区民が助けを求めて来てんのに、軽くあしらう警察は、良くないと思いま~~~す!」
腹立たしそうに逸木に喰ってかかったアゴ髭の警官だったが、逸木は、そのキャラの濃さで以て、それを軽々封じた感だ。
少し戸惑いながら、警官たちのやりとりを見守っていたアキラに気づいた逸木は、姿勢を正すと、彼を安心させるように、笑顔で こう言った。
「―案ずるな少年、後は警察の力を信じて、朗報を待ってくれ―。…でもな、万一 家に帰ったら、父ちゃんが玄関先で酔っ払って寝てました、なんてオチが分かったら、隠さず我が署に一報を、忘れずに、早急に入れてくれ給えよ! ―そこが大事だ、恥ずかしがらずにな―!」
「―はい、勿論です―、ありがとうございます。よろしくお願いします―!」
漢気溢れる逸木の対応に感謝し、アキラも姿勢を正して頭を下げる。
「―うん、よし! ―さ~て、報告書、報告書~!」
出鱈目なメロディで歌うように言いながら、その『イツキ』という刑事は、にこやかに その場を去って行った。
―図らずも 実は この時が、刑事・逸木と『怪盗マシン』との、浅からぬ因縁の始まりだったのである―。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
逸木刑事は、この時点では捜査1課の所属で、その後3課に異動になったという設定になっております。
後書きまで お読みくださる貴方様へ、一足早いネタばらしでございます。
引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。




