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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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怪盗マシン・7

 アキラによって作られた、その仮の左腕の指を親指から順に折っていくのと連動し、床の上のロボットアームも、同じように親指と思しき部分から、内側に折り曲げられていく。


 そもそも『神』であるならば こうした念動力のような奇跡は容易く起こせるようにも思えるが、半神半人であるトキオの『感念力(かんねんりき)』は、その『波長』が合う物体でなければ、そう簡単には動かせないのだそうだ。


 とはいえ、『生命』を(つかさど)るのだという、トキオが持つ『神』の『(ちから)』を以てすれば、このロボットアームに変えられた彼の『左腕』を、今すぐ 元の生身の人間の腕に戻すことは無理なく可能であるらしい。


しかし、それをしてしまうと、折角 取り戻した彼の『パーツ』は、即座に切断された肉体の1部と化し、扱いにも保存にも非常な困難が予想される為、3人は、このトキオの感念力で『動く』ことを以て、これを『純正』の『パーツ』と認めることに決めていた。


 トキオが操り、5本の指で床に立ち上がったロボットアームは、関節部を曲げ、二の腕部分でアキラと野木(のぎ)に お辞儀をするような格好をして見せた。


「―2人とも、ほんとに ありがとう―。1本でも『腕』が戻ったの、ほんとに嬉しいよ―!」


 シリコーンゴムで出来ているトキオの頬は、やはり些か妙に引き()るのだが、その表情は、言葉通りの彼の喜びを伝えてきて、見ているアキラも つい つられて笑顔になる。


「―ニンニク(くさ)いって言うけど、僕は それほど感じないなぁ…、

―ひょっとすると、鼻センサーが働き過ぎなのかもしれないね、P社のモノを真似(まね)てみたけど、流石(さすが)に性能が良いんだなぁ…、ちょっと、セーブする方向で調整してみようか―?」


 床の上からロボットアームを拾い上げたアキラは、そんなことを言って、トキオの顔を(うかが)い見る。


「―え? いいよ、そんなことしたら、臭いが消えた時に『消えた』っていうのが分かり(にく)くなるだろ?」


「―まぁ そっか。…それじゃあ臭いが消えるまで、少しの間 我慢だね―?」


「―うん、我慢する、」


 1歳違いの2人が出会って そろそろ9カ月というところだが、出会った時から不思議と気が合うトキオとアキラである。もう何年も付き合いのある親友同士のように、2人は微笑(ほほえ)み合うのだった。


 ―ただでさえ、トキオを あまり歓迎していない野木が、彼に ちょくちょく冷たい態度を取りがちなのは、このアキラとの親密ぶりが、実は影響していたりする―


「―じゃあ とりあえず、この『左腕』も、いつものところに仕舞っておくね―?」


「―うん、いいよ、」


 アキラはトキオの了解を得て、『研究室』の隅にある、『クベース』と名付けた長方形の大きな保存用容器のフタを開けた。


 そこには これまで奪還(だっかん)できた、トキオの7つの『純正パーツ』が既に収められている。


 ―その内訳は、左右の耳と、3か所の表皮組織、右側の肺、そして左足で、今回ここに『左腕』が加わったのである―。


「―これで左足と左腕が揃った訳だから、分析が済んで複製が出来上れば、仮ボディの運動性能も格段に上げられると思うよ、」


 アキラは少し興奮気味にトキオに告げる。


「え…? 別にいいよ 僕、今のまんまでも。動き(やす)いから気に入ってるし、この機体、」


「―そうは言っても、警察との追いかけっこは遊びじゃないからね―。運動性能は、高いに越したことは無いさ―。…左足もそうだったけど、この腕も、本当に素晴らしいなぁ…! 早く分解してみたい…!!」


 アキラの瞳が、例によって異様に輝き始めたことを察知し、野木は すかさず釘を刺しにいく。


「―今夜は もう帰りますよ―。終電には もう間に合いませんし、当然 私が家までお送りしますが、早くしないと、私も眠くなってしまいますからね―?」


 野木に やんわりと(おど)され、アキラも一仕事(ひとしごと)終えた今宵の疲れを思い出したのか、ここは すんなりと その求めに応じた。


「―はぁい―…、―じゃあ、トキオも帰るよ―?」


「―了解―、」


 アキラに促されたトキオは、まず『研究室』の片隅にあるイスに腰掛ける。

着ているライダースジャケットのジッパーを下ろせば、観音開(かんのんびら)きに開く仕組みになっている機体の胸部から、光り輝く『(たましい)』である、『トキオ』の本体が抜け出て来る。その動力を失い、(まぶた)を閉じて、イスの上で眠るように動かなくなった『マシン』は『研究室』に残し、『トキオ』の本体たる『魂』は、もう1つの『依代(よりしろ)』となる、アキラの持つ歯車を模した小さなキーホルダーに乗り移り、2人と一緒に帰宅する寸法だ。


 そのキーホルダーが付いた鍵で『研究室』の戸締りを厳重にし、アキラと野木と、姿を変えたトキオの3人は、今宵の成果に満足し、夜更けの街に車を走らせ、一路(いちろ) アキラの自宅へと向かったのだった。


―以上が、警視庁七篝署(ななかがりしょ)の捜査三課が追う『怪盗マシン』事件【ケース8】当夜の一部始終(いちぶしじゅう)である―。




―さて、名前から 既にお気づきの方も おありと思われるが、この『アキラくん』こそが、前段で(なな)()少年が『目利(めき)きの眼鏡(めがね)』を送った先の、『アキラお兄ちゃん』こと『四郎丸白(しろうまるあきら)』その人である。


―この時点では まだ、彼の元に『目利きの眼鏡』は届いていない―。


 七生(ななお)の知らぬうちに、高校生ながら『社長』の代役を務めることになっていた彼は現在、ここまで見て来たように、なにやら人目を(はばか)泥棒稼業(どろぼうかぎょう)に その手を染めている様子―。


―コトここに至った細かい成り行きについては、次回以降に詳しく―。


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の1PVに、多大なる励ましを頂戴しまして、日々執筆に勤しんでおります。

引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。

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