怪盗マシン・6
さて、彼らが戻らんとしている『本拠地』であるが、現在アキラが父から仮初に預かる会社の第2プラント、東京と神奈川の境目付近にある。
アキラの曽祖父の代から廃棄物処理業を営む『K.K.リング』は、(ちなみに社名は2度、時代に合わせて変更済)法令遵守を旨とする、真面目な中小企業である。産業廃棄物と一般廃棄物の両方を扱い、中間処理工場に、安定型と管理型の各最終処分場、加えて日本では極少数の遮断型最終処分場も小規模ながら有しており、唯一 感染性産業廃棄物を除けば、他の あらゆる廃棄物の引き受けが可能な、ゴミ処理のエキスパートのような会社である。
1都1県に分散する3つのプラントを所有するK.K.リングであるが、『怪盗マシン』の一味が『本拠地』とする第2プラントは、中間処理工場と安定型最終処分場から成る、主に建設系と工業系の産廃が運びこまれる場所である。
その中間処理工場の奥深く―、社内でも、限られた人間しか立ち入ることを許されない、地下1階の1室、少々子煩悩なアキラの父が、息子の為に作り与えた20畳の『研究室』が、彼らの『本拠地』となっている。
.
誰もいない深夜の工場に到着したアキラと野木は、駐車場の隅に1台置かれたトキオのミニバイクの隣に車を停め、今宵の戦利品を確認すべく、一路『研究室』へと向かう。
『許可無き者の立入りを禁ズ』と表示されたドアを開け、コンクリート製の階段を降りた先に、コンクリートの床と壁と天井で囲まれた『研究室』の扉はある。
「―トキオ、帰ったよ―、」
概ね成功裡に終わった今宵の作戦に満足し、意気揚々と『研究室』のドアを開けたアキラであったが、そこに居たのは、この世の闇を一身に背負っているかのような、がっくりと項垂れて、コンクリートの床に座り込んでいるトキオだった。
部屋の灯りも何割か削減されてしまいそうな、トキオの徒ならぬ暗さに、思わず顔を見合わせてしまったアキラと野木だが、何か不測の事態でもあったのか、野木は すぐさま その理由を問い質す。
「―どうしました? トキオ―? 何か ありましたか? ――誰かに何か見られたとか、…もしや偽物を掴まされたとか―?」
野木の提示した2つの可能性に、アキラも固唾を呑んでトキオの答えを待ったが、炭素棒を振動させて発せられるトキオの声は、常より震えを増して、聞く2人の耳に届いた。
「―ニンニク臭い…!!」
―2人が拍子抜けしたのは言うまでもない―
「なんだ、そんなことですか、大げさな…!いずれ消えますよ、臭いなんてものは…、」
野木は心底呆れたように切って捨てる。
「―だって…!! ほんとに すっっっごくクサいんだよ―!? こんなクサいの生まれて初めて―!! 僕、餃子なんか、自分家でだって滅多に作ったこと無かったのに、一体 何万何千個作らされたんだろ…!? ―狂気の沙汰じゃん! こんなの ひどい…!! 僕 めちゃ かわいそう…!!」
「―気持ちは分かるけどさ、…需要があって、それに答えようという人達が、多分それと知らずに君の腕を使ってただけなんだよ。工場の人達はきっと悪くないし、むしろ善意の第三者にして盗みの被害者でもあると思う。だから、そういう言い方は止しなよ、トキオ。」
―と、いうのはアキラの弁。これに野木が続く―。
「―そうですよ。それに、中々の評判だったらしいじゃないですか、君の手で握った餃子は―。意外と自分では気づかなかった才能があるのかもしれませんよ? 餃子作りの。」
「―え~~~!? …どうせだったら、もっと こう カッコいい何かに使って、カッコいい才能を見つけてもらうのが良かったな~~! 僕、『神』なんだし…!」
「―トキオ、職業に貴賤は無いんだよ。餃子を美味しく作れるのだって、立派な才能だし、カッコいいことじゃないか。―そもそも悪いのは『転売屋』なんだ。君の身体を作り変えて、勝手に売り飛ばしたりしなきゃ こんなことにもならないだろ?」
「―アキラくんの仰る通りです、トキオ。それに…仮に職業に貴賤が有るとすれば、今 我々が働いている泥棒稼業こそが最も恥ずべき賤しい行為と思い知りなさい―。
我々としても、事情が事情、場合が場合だから 君に協力しているのであって、でなければ、誰が好き好んで こんな火中の栗を拾うような真似をすると思います―?
勝手に過酷な扱いを受けていたことには同情しますが、何より まず、我々への感謝を忘れてもらっては困ります―。」
2人がかりの説教を受け、過去経験の無い臭いに我を失っていた神たるトキオも すっかり畏まり、居住まいを正して2人に頭を下げた。
「―ほんと、そうだよね、―ごめんなさい―!
―ありがと、アキラ…! 野木センも…、」
「―どういたしまして―」
「―まぁ ともかく、意に副わない奴隷的な反復労働から解放されただけで まずは良しとしなさい。―それで―? それは間違いなく貴方の『左腕』なんですか? トキオ、」
「―うん、間違いないよ―、ちょっと見ててね―?」
おそらく臭いの強さに衝撃を受け、床に投げ出したのであろう そのロボットアームに向け、トキオは機械で作られた仮初の左腕をかざす。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の毎日に、少しでも彩りを添えられる作品を お届け出来ているか、
日々頭を悩ませつつも、楽しく書かせていただいております。
引き続き、次回も お立ち寄り願えましたら幸いです。




