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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

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怪盗マシン・2

―『怪盗マシン』による窃盗事件【ケース8】決行当夜、被害現場となった食品工場から500m圏内にある、とあるカフェレストラン―


 近日発売になる推しグッズ獲得の為、バイトに勤しむ腐女子のA子(仮)は、先程来、窓際の6番テーブルに陣取った、1組の客にたいへん興味をそそられていた。


 それは2人の男性で、アイスコーヒーとウーロン茶を届けに行った折、さりげなく確認したところ、両名とも中々の顔面偏差値の持ち主であった。


 ―しかし、何よりもA子の関心を引いたのは、時折 聞こえる会話の端々と、2人の醸す独特な空気感から、一風(いっぷう)変わったもののように察せられる、2人の関係性であった―。


 A子の待機位置から見て、背中を向ける形になっている男性は、グレーのサマースーツをスマートに着こなし、見るからに『しごでき』とわかってしまう、落ち着いた物腰と、知的な雰囲気のビジネスマンである。対面に座る相手から、『ノギさん』とか『ノギ専務』とか呼ばれる名前をA子は耳聡(みみざと)くキャッチし、少し嬉しくなった。


 おそらく 年の頃は せいぜい20代後半くらいに見える『ノギ専務』であるから、勤め先までは分からないが、結構なスピード出世を遂げている、有能な青年であることに間違いは無い―。

バイト中のハイスペイケメン客は心のオアシスである―。


A子は、ついニンマリしてしまう顔の下半分をトレイで隠す。


 しかし、『出世』というなら、『ノギ専務』の対面に座る相手のほうが、より括目すべき存在であることに、A子は ほどなく気づいてしまった―。


 そもそも もう1人の彼は、男性というよりも、まだ少年と呼ぶのが相応(ふさわ)しい―。やや華奢な体つきの、着ている制服から言って、たぶん近隣の高校生なのだが、そんな彼をつかまえて、『ノギ専務』は、実に(うやうや)しい態度と優しげな声音で『社長』とか、『アキラくん』とか呼びかけているのである。


 ―これは中々の破壊力である―

 A子の中で、妄想の宇宙が一気にインフレーションを起こしそうになったが、その物語にタイトルを付けるなら、


―『しごできエリートイケメン専務が仕えるのは、現役DK美少年社長―我が社の残業は、今宵も長引きますよ❤―』―


 ―と、いったところだろうか―?


 実際2人は、入店早々 各々ノートパソコンを取り出して、ヘッドセットを装着し、時折り注文した飲み物を口にしながらも、終始 熱心にキーボードを操作し、時折『エスワン』やら『エムワン』やら、何かの型番のような単語を しきりに発していたので、A子は それを、時差のある取引先とのリモート会議か何かだろうと解釈していた。



 ―賢明な読者諸氏は もうお気づきと思われるが、この『アキラくん』と『ノギ専務』の2人こそが、『怪盗マシン』に協力する、『マスター』と『マネージャー』、その人である。


 2人は この夜、『スコーピオ』と『スカラベ』の2台の『マシン』を使い、件の工場から標的のロボットアームを盗む為、遠隔操作の有効半径内にある、この店に来たのである。


 『スカラベ』が工場のセキュリティシステムを完全に無効化し、難なく侵入を果たした『スコーピオ』が、工場 最深部の『加工室』まで進み、その8つのカメラアイで目標を捉えたところで、住宅街を自転車で走る『マシン』のスマホが再び鳴った。


 ここまで7分ほど、ルートAの道半ばまで走って来た『マシン』であるが、休憩がてら自転車を止め、スマホを開く。それは『マスター』からの通信で―、


「―オッケー『マシン』、確認願いたいんだけど、分割・分離するラインは ここで良い―?」


―という問いかけの後、数枚の画像が送られてきたのだった。

 それは工場内のロボットアームを複数の角度から映した静止画像で、『マスター』が、これから『スコーピオ』で分解を施すつもりの箇所に、赤いラインで印を付けたものである。


「―オッケー『マスター』、間違いないよ! そのラインでお願いします―!」

「―了解―。では作戦続行で―。」


 作業を急ぐ『マスター』は そこで通信を切ったが、特に急ぐ必要の無い『マシン』は、その場でスマホに深々頭を下げる。


 『マスター』が、目的のロボットアームを手に入れるため、こんなにも力を尽くしてくれるのが大層ありがたくて、『マシン』は今、心からの笑顔になっているのであるが、傍目には それが どうにも ぎこちなく見えるのは、やはり現在の彼の身体が全身機械で出来ている所以である。


 ―そもそも『マシン』は、『(かんなぎ) 刻生(ときお)』という名を持つ、一応、歴とした人間であった。


―『一応』という消極的表現を加えたのは他でもない、『マシン』たる『トキオ』自身が語った話に因るのだが、彼は元々、半分は人間、半分は神としての生を受けて生まれた、所謂 半神半人の、少々特別な存在なのだそうだ―。


 ―『トキオ』の曰く、彼は、神代の昔に犯した ある罪業により天界を追われ、『神』の力を秘めたまま、『人』として輪廻転生を繰り返すことになった、もとはといえば『神』であり、日本に八百万いると言われる『神』の1柱である―。


 しかし17年前、幾度目かの生まれ変わりを果たした彼の周囲の環境は、これまでと比べて著しく不穏なものと化していた。


―某県の鄙びた山村にある、小さな神社の宮司の子として転生を繰り返してきた彼だが、今生にあっては、両親の早逝や氏子の暴走に遭い、果ては命を脅かされる出来事もあったことから、たった1人の肉親となった双子の姉とともに、中学卒業を待たず、宛ても無いまま、東京に逃れて来たのだという。それが およそ2年前のこと―。


 そこで幸い住処(すみか)と仕事にありつき、束の間 平和な時間を過ごした姉弟だったが、それも16の秋までのことで、2人は ある奸計により危機に陥る。


 ―姉を人質に取った謎の『連中』は、トキオの抵抗を封じ、彼を奇妙な十字の実験台の上に()り付けた。


その怪しげな装置の一瞬の閃光と圧迫を受け、彼の身体は瞬く間に、『機械』に作り変えられてしまったのだ―。


―それが『神』の『力』による『奇跡』だったのか

―あるいは『人』の『技術』による『改造』だったのか―?

―彼を陥れた『連中』の正体を探る上で、その真相は重要なのだが、本来の『肉体』と『感覚』を失った今、流石に『神』の端くれのトキオと(いえど)も、その判断は難しくあった―。


 200年ぶりに甦った『神』の目で見る現代のテクノロジーは、確かに目覚ましい進歩を遂げてはいる―。それでいて、トキオに対する実験に於いて行使された『力』は、明らかに その範疇を超越し、異質であった。


 ―『ヒト』と『モノ』とを反転させる―、この世の(ことわり)と、世界の均衡を揺るがしかねない、このような実験を罷り通すからには、やはり何れかの『神』が一枚噛んでいることは確実で、とはいえ、(すべ)てが『神』の『力』だったか―?と問われれば、そこにも多少の違和感を覚えるトキオなのだった―。


 ともかく あの日、『連中』は生身のトキオの身体を機械仕掛けのロボットに変えると、その後も尚、周到に準備していたと見える 更なる実験を加え、弱り果てた彼の『機体』を、仕舞いにはバラバラに分解し、奪い去り、いずこともなく消えたのである―。


―人質にした姉・瑠璃愛(るりあ)とともに―。


 ―後に残されたのは、小さな太陽のように、白く輝く、トキオの『魂』だけだった―。


 ―今、『マシン』と呼ばれる『機体』を動かすのは、

そのトキオの『魂』の持つ『力』なのである―

 (彼の言葉に()れば、『感念力(かんねんりき)』という『力』なのだそうだ)


 ―大変な目には遭ったものの、その後 仮の身体となる『マシン』を与えてくれただけでなく、今 こうして、人目を忍び、法を犯してまで、トキオ本来の身体を取り戻す手助けをしてくれる、『マスター』達に拾われたことは、まさに『地獄で仏』だったのであり、この幸運な出会いに、トキオは深く感謝している。


 ―現在進行中の作戦が成功すれば、今宵また、自分の1部、『左腕』が戻って来る―


 期待に胸を膨らませて、『マシン』ことトキオは、再びルートAの周回に戻った。


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

本作のBLタグに期待をお寄せくださっていらした方には大変お待たせいたしましたが、今回登場のアキラくんと野木専務が、筆者の推しカプその1になります。2人の関係が今後どのように展開していくのか、共に見守ってもらえましたら幸いです。

引き続き、次回もお楽しみくださいませ!

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