表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第2章 The Y-axis

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/50

警部補・八神典子の悲しみ・1

 ―それが同一犯による犯行か、異なる犯人による犯行か、課内の意見は実質 今尚 半々に割れている―。


 しかし三課の一翼を束ねる係長により、この未解決のまま積み重なる一連の窃盗事件の内、少なくとも8件には、『怪盗マシン事件』という些か洒落た名前が付けられ、相いれない意見を持つ一部捜査員には、一時 停戦の上 一致協力することが求められた。而して根強く反対意見も燻ぶる中、表面上は、課内一丸となり、この8件について、同一犯による犯行と看做し、全件に類似する点、共通する手口が存在する可能性を再び洗い直す捜査方針が、過日打ち出されたところである。


―その当事者たる係長――八神典子(やがみのりこ)は 優秀な捜査員だが、現代的なキラキラ感に欠ける自分の名前に、長年コンプレックスを抱えて生きている。


 本人の預かり知らぬところで、捜査三課の『かぐや姫』と称される彼女は、(つや)の美しい豊かな黒髪をひっつめて、今日も1人、窃盗被害の現場の工場から入手した 防犯カメラの映像解析に、昼食を摂る間も惜しんで没頭していた。


 彼女が これらの事件を同一犯によるものと断じたのには、勿論確固とした理由がある。それは今 解析中の映像にも しっかりと映っており、彼女がこの事件を前述のように名付けた(いわ)れも 正に そこにあった。


 ―彼女が『怪盗マシン』による犯行と睨んだ8件の窃盗事件―。その被害者から提供を受けた防犯カメラの8本の映像には、少し油断すると見落としそうになるのであるが、一見してカブトムシのように見える、長さ10㎝程の、暗闇に(うごめ)く、黒光りする何者かの姿が、(ことごと)く映っているのである。


 ――虫のように見えるソレであるが、それは決して虫でないことも、八神は既に見抜いている。何故なら、8本の映像は総て、この黒い何者かの姿を捉えた直後、一瞬(いっしゅん)画面にノイズが走るものの、後は何事も無く、平穏無事な定点カメラとして、それまでと何も変わらない、退屈な風景画像を送り続けるばかりになるからである。

――しかし、まさしく その間にこそ、『怪盗マシン』の犯行は行われているのだ、何ひとつ、証拠も痕跡も残すことなく―。


 ―以上のことから、この黒光りする何者かは、何がしかの機械装置である―というのが、現時点での八神の見立てである。


 ―それ故の、命名『怪盗マシン』事件なのであったが、未だ犯人の手がかり1つ、満足に掴めていない この段階で、これは実に的確な名付けであったと、後に振り返ってみれば言わざるを得ない。


 鋭い観察眼と直感に恵まれた八神であるが、この時点では これでも未だ、事件の全容解明までには、ほど遠いところにいた―、にも関わらず、なのだから―。


 ―つまり、使われている『マシン』は、これだけではないのだ―。



 時計の針が午後3時を過ぎ、空腹が画像解析への集中を途切れさせるに至り、八神は ようやく昼休憩をとることを周囲に告げ、近場のコンビニへと向かった。


 そこで数個の おにぎりとサンドウィッチという、少々炭水化物に偏った昼食を調達し、自販機が備えてある署内のラウンジに戻った八神だったが―


「…まったく、ホントなら、そろそろ寿(ことぶき)退職でもしてもらって良いくらいなんだがなぁ…」


「―しょーがないさ、何せ 居もしない、王子様みたいな『恋人』の妄想に取り憑かれた夢女(ゆめおんな)さんだからなぁ、結婚なんて、夢のまた夢じゃねぇの?」


 うっかり耳にしてしまった、――おそらく自分への誹謗中傷を聞かなかった素振りで、ラウンジの隅に固まる2人の直属の部下から なるべく遠いルートを選び、自販機からカップのアイスコーヒーを買うと、八神は窓際の席に陣取った。


 背後から、まだ つつき合い、(ささや)き合う気配は伝わるが、八神は構わずサンドウィッチに齧り付く。


 今日あたり、空は すっかり晴れ渡り、窓から見えるコンクリートのビル群は、眩しく灼けるような日差しを乱反射し、その輝きで以て梅雨の終わりを知らせるかの如くである。


 こんな中を、手当たり次第の情報の収集と周知の為、外回りに行かせたのだから、たとえ それが刑事として当然の職務ではあったとしても、憎まれ口の1つや2つ、叩きたくなるのは当然で、そこは甘んじて受けようと八神は思う。


 けれど彼女は どうしても、釈然としない悲しみと 不可解な謎とを抱えていた。


 それは、この4月の終わりを境に、すっかり 八神の『妄想』として片付けられるようになってしまった、彼女の『恋人』の存在である。


 今となっては八神自身さえ、最早『彼』の顔から名前すら、日に日に(かす)んで思い出せなくなっている始末なのだが、4月の始め、係長・警部補となった彼女への昇進祝いとして贈られた、『彼』としては奮発したのだろう、少し重みのある、半貴石を(ちりば)めた腕時計だけが、今も彼女の腕には残り、『彼』が本当に『居た』ことを忘れない為の、唯一の『よすが』となっている。


 ―『彼』は本当に『居た』のである―



ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

本日より、【月・水・金】の週3更新となります。

改めまして よろしくお願い申し上げます。

貴方様から頂戴する、1PVの尊さを力に、今後も励む所存です。

引き続き、次回も お楽しみいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ