もうひとつの兆し
遠ざかる逸木の姿が、カウンターから見えなくなったところで、
「―ちょっと…、ビックリしたねぇ、いきなり警察が来るなんて…!、」
と、七歩が陸の同意を求めるように語りかけた。
「―ああ、そうだね…、でも、警察って、こんな感じで質屋とは協力関係にあるって話には聞いてたけど…、」
「―そうね、警察からの情報周知って、あるんだけど、今日のは ちょっと、変わってたなぁ…。
―そういうの、ウチでは画像をスキャンしてパソコンに送って、原本のほうは、綴っておくファイルがあるの、―ちょっと待っててね―、」
渡された資料の処理方法を陸に説明すると、七歩はスキャナーのスイッチをいれ、そのファイルを探しにかかった。
陸は そんな彼女に頼もしさを感じながら、改めて、その白黒写真の機械の腕を、1人じっくり眺めて見る。
逸木に話を合わせはしたものの、どちらかといえば、これを美術品の列に並べ得るものと判断した、その上司の感覚のほうに、陸は共鳴した。
――人の腕の如き働きと形状の再現を求め、飽くなき探求の果てに導き出された、創造主の最適解を具現するような、無数の素材と複雑な形の部品から成る、不可分にして不可侵の構造体―。
―美しい―と陸は思った。
この『腕』があれば、自分も もう一度ピアノが弾けるかもしれない―
不意にそんな思いが自分の中に湧き上がり、陸は慌てて心の中でそれを打ち消し否定した。
―ピアノに触りたくないとさえ蘭に語った自分が、何故そんなことを思うのか―?
―そもそも これは、自分に残されているのと同じ左腕ではないか―
そうこうしている内に、七歩が件のファイルを見つけて来たので、陸は彼女に写真を渡し、スキャンとデータの保存方法について、年下の雇い主から、丁寧な説明を受けたのだった。
―誰に知られることもない、連城陸の中で起こった、この時の心情の揺らぎは、
或いは 彼が持って生まれた、音楽的な霊感の鋭さ故に生じたことだったのかもしれない―。
―何故なら、その機械の『腕』は、『盗まれた』のでなく『奪い返された』のであり、尚且つ、或る『神』の力によって『機械』に作り変えられた、或る『神』の左腕に他ならなかったからである―。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
物語は この間章を挟み、1章『X-axis』と対を為す、2章『Y-axis』へと進んで参ります。が、
『カクヨム』様での先行連載が少々滞っている都合上、2章は ひとまず【月·水·金】の週3更新に変更してお届けいたしたい所存です。毎日お楽しみいただいておりました読者様には たいへん申し訳ありませんが、何卒ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。
2章『Y-axis』怪盗マシン編は、18日より お目にかける所存です。(ここから少しずつ、BL要素も加わって参ります)
引き続きのご愛顧を賜われましたら幸甚の至りにございます。




