七歩の提案
そうして、とりあえず魔物の気配は消えた様子の蔵に鍵をかけ、3人は母屋のリビングに戻ると、これからの『質屋神』勢力との戦いについて、改めて情報交換と方針を確認する為、少し早い おやつの茶菓子をいただきながらの会議を開いた。
そこで七歩が最初に提案したのが、『ヒト』から『モノ』になった『ヒト』と、
『モノ』から『ヒト』になった『モノ』の呼び方を決めることだった。
七歩が1人で考えていたそれは、
―『ヒト』が『モノ』に変えられた『モノ』、
即ち『ヒト』が『化けた』『モノ』を『人化物』(ヒトバケモノ)とし、
―その逆に、『モノ』が『ヒト』に変身した『ヒト』、
『モノ』が『化けた』『ヒト』を『物化人』(モノバケビト)と呼ぶ…という案だ。
「―つまり、キリヤやジロー様は『物化人』で、反対に、お祖父さんが姿を変えられた『眼鏡』のような『モノ』は『人化物』ってなるのかな…?」
七生が少し頭を捻りながら七歩に尋ねると、そのとおり、と七歩は頷いた。
「―それで、私たちが これからすべきなのは、まず この家に残っている『人化物』を探して見つけて記録して、キリヤたちに奪われないよう、大切に保管しながら、なんとか元通りの『ヒト』に戻せるよう、頑張るっていうこと―!
その為に必要なのが、お兄さんが1度 七生に対して使った『解放力』という『力』らしいんだけど、その『力』がどういう条件で発動するのか? とか、お兄さん以外にも、その『力』を使える人がいないか? っていうことも、同時に探っていけたらと思う。
…で、今日 早速 取り掛かりたいのは、ウチに残ってる『人化物』の探索なんだけど…、」
七歩が ここまで話したところで、急遽 3人の会議は中断されることになった。
七生が 堪り兼ねた様に、体調不良を訴えたのである。
人形の姿に変えられた彼が、キリヤから酷い目に遭わされたことを知っている2人は、すぐさま病院へ行こうと七生に言ったが、当の七生が、特に痛いところがある訳でなく、ただ ひどく眠くて怠いだけだから―、と、1人 部屋で寝て休むことを希望した。
七歩と陸も ひとまず それで様子を見ようと了承し、七生はフラつく足どりで、彼を案じるように ついていくワンを従えて、2階の自室に引き上げて行った。
ほどなく寝息を立て始めた七生の様子を確認し、陸は2人だけでも『人化物』の探索を始めようか、七歩に尋ねてみたが、七歩は七生がいないと見落とすことがあるかもしれない―と言って、祖父の帳簿と照らせば探索は容易い『店舗』のほうから確認を始めようと、陸を誘った。
◆ ◆ ◆
キリヤが現れて以来、何の予告も無く休業状態に陥ってしまった『万城目屋』の通用口から2人が店内に入ると、幸い質種保管の為の空調は生きていた為、室温は快適だったが、そこには 明らかに、祖父の帳簿どころか七歩の記憶にも無いような無数の品々が、所狭しと並べられていた。
通路を狭める品々を避け、店のカウンターに辿り着いた七歩は、勝手知ったるようにパソコンを立ち上げ、足元の棚から分厚いファイルを取り出した。
そうして 暫しファイルをペラペラ捲っていた七歩だが、やがて得心がいったようにファイルを閉じると、陸に向かって こう言った。
「―とりあえず、床に直置きされている『モノ』は全部『人化物』だと見ていいよ―。他にもコレっていうものには、私がフダを貼っていくから、お兄さんは それを 母屋の2階の広間に運んで―? 適宜休み休みで良いし、仕分けが済んだら私も手伝うし―。それが済んで、時間があったら 今日は試しに お店を開けてみようと思うの―、」
七歩の この指示を受け、2人は手分けして、キリヤが増やし続けたのであろう、店の中の様々な『モノ』を、2階の広間に何往復もして運び込んだ。
それは大きな『トロフィー』だったり、ケースに入った『ひな人形』であったり、古風な『コーヒーミル』であったりした。
2人で黙々と作業を続けた結果、重くて運べない昔ながらの『挽き臼』と、まるで『ど○でもドア』のような、少し珍しい実物仕様のドアの形の置物を除き、店の中の『人化物』は、午後3時を過ぎる頃には、総て一掃することが出来た。
そこで七歩は『挽き臼』と『ど○でもドア(仮)』には『売約済』の札を付け、果たして来客はあるかどうか、実験的に店を開けることを陸に宣言した。
「―今は店主不在で、お兄さんは研修中みたいなものだから、もし新規の買い取り希望のお客様が来たら、その辺の事情を丁寧に説明して、お断りしていいよ―。
―今 気になるのは お得意様なの。3カ月も店を閉めてたから、定期的に質入れと質受けをしていた お客様は困ってるんじゃないかと思って…、そういうお客様なら、ウチの会員カードを持ってるから、カードのIDでパソコンから取引履歴を確認すれば、お兄さんでも対応できると思う。もちろん私もついてるし―、じゃあ、開けるね―!」
言いながら、七歩は表の通りに面した、『万城目屋』の引き戸の鍵を外した。
「―了解―、…てゆうか、七歩は スゴイな、店のコト、ひと通り分かってる感じ―?」
カウンターの内側にある椅子に腰掛け、七歩に渡された業務マニュアルを捲りながら、陸は小学生の彼女に尋ねる。
「―まぁ、ウチの店のことならね―、今のところ、七生よりは詳しいつもりよ―。―健康優良児で優等生の七生と違って、私は病弱で不真面目な登校拒否児だから…。家に居て、退屈した時は、父さんも お祖父さんも、こっそり お店の手伝いをさせてくれてたの。…―あ、でも、七生のヤツ、今日は寝込んでたんだっけ…、」
「…七生、早く元気になると良いね…、」
「…うん…、」
2人が そんな やりとりをしていると、再開早々『万城目屋』の店先に、1人の男が現れた。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の1PVに、いつも多大な お力添えを頂いております。
『人化物』と『物化人』、七歩の提案に、ご賛同いただけますでしょうか?
引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。




