現場検証
そんな具合に わいわいとベーコンエッグとお麩の味噌汁を作り終え、3人は、ご飯・味噌汁おかわり自由の 朝昼兼用の食事を、これまた賑やかに済ませた。
お腹がいっぱいになったところで陸は、明日からは それなりの時間に起きて、朝昼晩と3食キチンと食べること、どうやら出来合いの弁当類を多用していたせいか、乏しくなっている食材のストック補充の為、今日の午後にも買い出しに行って、夜は野菜も食べることを要望した。
そもそも学校に通う為 規則正しい生活をしていた七生に異議は無かったが、些か だらしない生活をしていた七歩は、少々難色を示す。
「―片付けも面倒だし、そろそろ夏休みなんだから、1日2食でも良くない―?」
「…そうだなぁ、たまには そんな日があっても良いとは思うけど、でも ほら、俺は最終的にキリヤさんから3食昼寝付きの条件を もぎ取ったワケだから? 基本は3食でお願いしたいです―!」
「…ちゃっかり昼寝も付けたんだ…、」
七歩は少し呆れたように、溜め息をついて、陸を軽く睨みつけたのであった。
―しかし その日の陸は、昼寝などせずに働いた。
食後の片付けを済ませると 3人は、昨夜、陸が破壊した『魔の蔵』に向かい、真昼の陽光の下、改めて検分に臨んだ。まず手始めに、屋根と壁の間に開いた隙間を応急的に塞ぐため、片手の無い大人1人と子ども2人、なんとか工夫し、ブルーシートで覆ってのける。
シート越しの光で、少し青くなった蔵の中に、恐る恐る3人は入った。しかし そこは、空っぽにはなってしまったものの、曽祖父の代に張り替えたという、板材の床と壁はそのままの、七生と七歩の記憶する、元の蔵のままだと2人は語った。
少し壊れて、梁や垂木が直に見える天井周りについては、双子の記憶も曖昧な為、前後の変化は不明だったが、ともかく昨夜、『ヒト』として初めて生還を遂げた陸が見た、『魔の蔵』の白い壁と床と天井板は、まるで幻のように消え去っていたのだ。
「…つまり…あの時の2つの影が、『魔の蔵』の白い壁や床や天井板に、姿を変えてた―…ってことなのか…?」
自分が見たものと照らし合わせて、陸は そのように『ご神体』の『正体』を分析する。
「―その2つの影って、どんなだったの―?」
「…そうだなぁ、ちょっと、絵に描いてみるか…、」
2人に問われ、スマホの描画アプリを起動した陸は、蔵の入口の敷居に腰掛け、昨夜の記憶を辿りつつ、2つの『影』を描こうとしたのであるが、それを覗き込んでいた七歩の口から、早々クスっという笑いが漏れた。
「…お兄さん、中々の画伯だねぇ…?」
勿論 七歩は、逆の意味で言っているのである。
「―え? 僕 分かるよ! これってクワガタだよねぇ?」
悪気無く言った七生であるが、これが止めを刺すことになった。
「…ごめん…、どっちかっていうと、牛のツノ…、」
―3人の間に、重い沈黙が漂う。
―連城氏の名誉の為に断っておくが、彼は元々右利きだったものが、それを失って後2年足らずで、本来右手で描けていたレベルの絵を描くまでには左手での描画力を向上させた、たいへん素晴らしい御仁なのである―。
(※結論として、彼に絵心は あまり無い)
「…牛ってことは、結構 大きい影だった感じ? こっちの黒いほうは…、」
気を取り直して七歩が尋ねる。
「―うん、かなりデカかった。形とか雰囲気は、昔 妖怪図鑑とかで見た、『牛鬼』ってのに近いな…。」
言って陸は、自分で描くことを諦め、検索して見つけた画像を2人に見せた。
「―これこれ、だいたい この形の、ぼんやりした黒い影が見えた感じだよ―、」
「―じゃあ、さっき描いた もう1つの、白いニョロニョロみたいなのは―?」
「―あれは、女の幽霊だよ―。俺 生まれてこの方 幽霊なんて、1度も見たことなかったけど、昨夜とうとう見ちゃった感だなぁ…、」
「…ふぅ~ん…『女の幽霊』と『牛鬼』かぁ…、」
「―なんか、どっちにしろ『神様』じゃないよね…?」
「―そうなんだよ、どっちにしろ、見た感じ、神聖な感じはしなかったっていうか―…、うん、まったく、不思議な『影』ではあったけど、『神様』と呼べるような存在には見えなかったな…、」
昨日まで『質屋神』の仕打ちに虐げられていた双子への忖度などでなく、見たままの正直な感想として、陸は2人に自分が目撃した『影』の印象を、そう語ったのだった。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
『ご神体』を構成していた2つの『影』は、『幽霊』と『牛鬼』であることは確かなのですが、それが何故『質屋神』としての『力』を得たのか?―が、筆者の創作に依る部分となります。
明かされるのは だいぶ先ですが…。
引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。




