ごはんをつくろう
そんな具合いで3人とも夜更かしをした翌朝なだけに、朝寝坊を決め込んでいた面々を、寝床から叩き起こしたのは、昨晩 念入りに仕込んだ あの鳴子がカンカン鳴り響く音だった。すわジロー様の襲来か―!? と、3人が飛び起きて部屋着やパジャマのまま各々向かった玄関にいたのは、キョトンとして尻尾を振っているワンだった。
そこで3人は大笑いして、揃って起きたところで、朝ご飯にしようということになった。
七生と七歩は またも朝から外食や、ウー○ーの依頼を主張したが、そういうのは お金がかさむから、たまの贅沢か、疲れて時間が無い時の奥の手にしておくのが良いと陸は諭して、3人で何か作って食べることを提案した。
「―昨夜 台所を案内してもらっただろ? あの後 米研いで炊飯器のタイマーセットはしておいたから、ご飯は もう炊けてるし、あとは冷蔵庫にある材料で、ベーコンエッグとかどう? 味噌汁は お麩を使って…っていうことで、手伝ってもらって良いかな?」
「え~? 手伝うの~?」
双子は少し顔を見合わせた。
「―そうだよ。ほら俺、元々三ツ星シェフを目指せるくらいは料理上手だったけどさ、右手がこうなってからは、1人じゃ ちょっと出来ないことが多いんだよ―、」
そう言って陸はヒラヒラと、2人の前で あの義手をかざして見せた。
「―そっか、じゃあ手伝うよ―。僕も結構料理は出来るし―、何したらいい―?」
「じゃあ七生くんはベーコンエッグ担当で、ベーコンのパッケージを開けてもらえるだけで大変助かります―」
「―了解。お易い御用だよ~、」
七生は笑顔で請け負うと、フライパンをガスコンロに乗せて、早速 調理に取り掛かる。
一方 七歩は、そんな七生を少し渋い表情で眺めて立っているだけだった。
「―七歩は料理とか苦手―?」
「…苦手っていうか、あまり したことがないの―。私、下手だから材料がムダになるって母さんに言われて…、」
俯いて、七歩は そう打ち明けた。
「―そんなの、最初から上手く出来る子ばかりもいないのになぁ―、じゃあさ、お麩を水で戻すのとか、手伝ってもらえる?」
「―バカにしないで―! それくらい、私だって出来るよ―!」
「―ほんと? 助かる~! じゃあ お願いします―、」
そう言って陸は、お麩とボウルを七歩に手渡すと、自身は鍋に湯を沸かして、味噌汁作りに取り掛かった。
「―お兄さん、三ツ星シェフを目指してたって、本当?」
ガスコンロの前で隣り合った七生が陸に問いかける。
「―イヤだなぁ、あんなのは、ほんの冗談ですよ、七生くん―。」
「―え~? そうなの~? …てゆうか、僕のことも『ナナオ』で良いからね?」
「―よろしいんですか? 何でしたら、『七生坊ちゃん』とお呼びしても、私としては差し支えございませんよ―?」
「あはは、ないない、こそばゆいってば!」
やたら丁寧な口調で おどける陸に、七生はケラケラ笑って答えた。
「―ねぇ、お兄さんて、兄弟とかいるの―?」
昨日 来たばかりなのに、もう すっかり双子の間に溶け込んでいる、この青年の順応性の高さは どこから来るのか? 七歩は気になって、そんな質問をしてみた。
ボウルに水を張り、お麩をポトポト浮かべる七歩の顔を 振り向いて見ながら、ゆっくり言葉を選んで陸は答えた。
「―…そうだなぁ、本当の兄弟がいるかどうかは分からないけど、『兄弟分』なら大勢いるよ、俺、そういう『施設』で育ったんだ―、」
「―そうなの―?」
「―そうだよ。だから、こういうの慣れてる…っていうか、久しぶりに『兄弟分』が出来て、なんだか懐かしい気がするよ―、」
―そうなのだ―。昨夜から、何か不思議と心が凪いでいるのは、今の状況が『あの頃』に 少し似ているからかもしれないと、話していて陸は気づいた。
―『あの頃』―
可愛い弟分もいれば、生意気な妹分もいて、そういう自分にも、頼りになる兄貴分だっていた。何よりも、大好きな『先生』と一緒にいられた『あの頃』―
陸が懐かしさに目を細める一方で、七歩は すっかり気の毒がって縮こまり、項垂れた。
「…ごめんなさい…。―いなくなった『お父さん』を『探す』ことも、お兄さんから見たら贅沢なことだったんだね…?」
七歩の この一言に、陸は慌てて否定に回る。
「―いや、全然。それとこれとは話が違うっていうか? ―だって ほら、君らの父さん母さんを見つけないことには、この『質屋神』問題は解決しないだろ? ―ほら、だから、そんな顔しなくて良いっていうか…、」
陸の懸命なフォローも空しく、自分の安易な質問を悔いる七歩は依然俯いている。そんな2人を交互に見ていた七生が、こんなことを陸に問うた。
「―お兄さん、『兄弟分』が いっぱいいるの? じゃあ僕は、お兄さんから見て何人目の『弟分』なのかなぁ―?」
「―え―? 七生か―? そうだなぁ…、俺より年下のっ…ていうと…、」
そうして陸は、暫し左手の指を折りながら記憶を辿っていたようだが、
「―7番目だ―。七生は7番目の『弟分』だよ、うん。」
と答えた。
「―スゴい…! じゃあ僕はお兄さんにとって7番目の弟分で七生なんだね…!? ちょうど本当の兄弟みたいで嬉しいなぁ!」
これを聞いた七生は さも嬉しそうに目を輝かせたが、一方の七歩は冷めた反応を見せる。
「―ヘンなの。それって そんなに嬉しいこと?」
「―うん、僕、お兄さんみたいな お兄ちゃんが欲しかったから嬉しいよ!」
「―そりゃ どうも、」
こんなことを言われて、陸も悪い気はしない。ニコニコしている七生の頬を、軽く指で突いてやった。
そこで感じた疎外感に、七歩も慌てて陸に尋ねる。
「―じゃあ私は―? お兄さんから見て、私は何番目の『妹分』なの―?」
「―七歩か―? 女の子のほうはだなぁ…、」
陸は再び指折り数えて
「―5番目―。七歩は5番目の『妹分』だね―、」
それを聞いた七歩は 頬を膨らませて、不満を口にした。
「―そこは―! 多少盛っても7番目って言うとこじゃないの―!?」
「あ、それが良かった?…まぁでも、ほら、1番可愛いのは七歩だし―、」
軽く返された陸の言葉に、七歩は瞬時に耳まで真っ赤になり、
「―さすが元『ヒモ』…!!」
照れ隠しに そんな悪態をついたのだった。
「―あのさ、この際言わせてもらうけど、俺ホントに『ヒモ』だったワケじゃなくて、あくまでヒモ『みたいな』モノだっただけだからね? あんまりヒモヒモ言われるのは心外ってゆうか…、」
そろそろ陸も耐え兼ねて、七歩に理解を求めようと弁明を始めた その時、
「―ねぇねぇ、『ヒモ』って何のこと?」
と、横から七生が曇り無き眼で無邪気な疑問をぶつけてきたのだ。
そこで陸と七歩は、声を揃えて全力で、その質問を却下した。
「「七生は 知らなくて良いから―!!」」
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
3人の平和な時間の訪れに、筆者も ひとまず安堵しているところでございます。
引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。




