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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第1章 The X-axis

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ワケ有り品も歓迎します・5

 午前中に出かけた(りく)の帰りが、今時分になってしまった理由は、まずもって夏美(なつみ)から買ってくるよう頼まれた、お目当ての発泡酒が、最寄りの店舗で売り切れていた為である。2駅先の別店舗で ようやく それは手に入ったが、その頃には もう昼時で、家に戻るよりは、と、スーパーでサンドイッチを買い空腹を満たし、ちょうど近くまで来たということで、久しぶりにハローワークにも顔を出した―という次第である。


 心を動かされるような求人は無かったものの、運動不足の解消にはなった筈―と、スマホの歩数計を確認し、ひとまずの満足を得て、ポケットに仕舞う。――二階堂蘭(にかいどうらん)との約束は、明日以降ということになりそうだが、ある程度、何らかの策を練ってからでも良いだろう――などと考えながら、階段を上りきったところで、陸は302号の夏美の部屋の前に、座り込んでいる1人の子供の姿を認めた―。


 「―あれ―? キミって昨日の―?」


 そこで言葉を区切ったのは、一瞬 昨日の『七生(ななお)』に見えたものの、よく見ると どこか違って見えたことと、七歩(かずほ)が言葉を被せてきたからである。



 ―買い物袋を片手に現れた その人物は、『七生』から見て丁度『お兄さん』に該当する年格好で、尚且つ七生の目から見たなら、それこそ仮○ライダーにでも変身できそうな、姿形のよい青年だった。


 そして七歩を見た途端、おそらく『七生』の再来と思って声を上げている―。

これは もう間違いない―。

七歩は即座に立ち上がり、まずはスマートに自己紹介した。


「―はじめまして―。私、万城目(ひえぬき) 七歩(かずほ)っていいます。

 ―昨日は弟の『七生』が お世話になりました―」

 

 そう言って、一礼した七歩に対し、陸は ゆっくりと状況を呑み込みながら問い返した。


「―あ~、えっと、昨日の『七生』…くんの、お姉さん―? 

―似てるね? 一瞬 本人かと…、」


「―私たち、双子なんです―」

七歩は にこやかに一言補足する。


 昨日、あのキリヤという女は、『七生』を連れ帰るのに、確かに『カズホ』という名を使い、脅迫まがいの説得をしていた。―それが この子か―…、と陸は得心する。


 姉と弟が互いを思う気持ちを利用しているらしい、あのキリヤの卑劣なやり口に、改めて、昨日 半ば無理矢理 連れ帰られた、あの七生の身を案じ、陸が問いを重ねる。


「…七生くんは―? …今日は一緒じゃないの?…昨日『キリヤ』っていう女の人が ここに来たけどさ、君らの保護者を名乗る割りには、なんだか冷たいだけの人―って感じだったけど…、」


「―七生には、留守番を頼んできました。…でも私、昨日のことについては、少し あなたのこと怒ってます―。 あなたが安易に このドアを開けずにいてくれたら、七生が あんな酷いお仕置きを受けることも無かったから―」

 言いながら ほんの少し、七歩は陸を睨んだ。


「―それは ごめん―! …ほんとに…、…迂闊だったと思ってる…、―その…、七生くんは、無事なのかい―?」

 昼間聞いた二階堂蘭の話もある。陸は心底申し訳ない気持ちで七歩に尋ねた。


「―今日は元気にしてますよ―。…それに、無理もないことですよね、普通に考えたら。人間の男の子が人形の姿になったり、人形かと思えば人間になって動き出すなんて、夢みたいな話だもの―。あなたのことは あまり責められないって、私も分かってます。」


 昨日の陸を翻弄した、不思議な出来事を見透かすように言葉にし、その表情で『赦し』を示してきた七歩に、陸は少し気になったことを聞いてみた。


「―君は大丈夫なのかい―? …その、あの『七生』くんと同じような目に遭ってたりはしないの―…?」

「――平気ですよ。私は『モノ』にされたりはしません。…ならない…って言ったほうが正しいかな…。

――色んな要因はあるんですけど、私は きっと『長持ち』しない『不良品』だから―。双子だけど、そもそも七生とは違うんです―。」


 『長持ち』しない『不良品』―

―その言葉が意味するところに、気がつかない陸ではない。


 穏やかな笑顔で答えはしたが、敢えて自身の『欠陥』を隠さず伝えたのは、同情であれ何であれ、使えるものは何でも使わなければならないという、七歩の覚悟の顕れだった。


 先刻の、遊佐小五郎(ゆさこごろう)からの『名前を憶えてもらう』願いなど、まったく可愛い些末事と思えるほど、これから七歩は 今 目の前にいる この青年に、大それた願いを託さなければならない―。


「―でも、あなただって そうなんですよ―」


 陸を真っ直ぐに見据えて、七歩は語りかける。


「―もう大人なのに―、…昨日、あの『キリヤ』に触れられたのに、今も『ヒト』の姿のままでいる、あなたも 私と同じなんです。―ただ、何故 あなたが『ヒト』としていられるのか、その理由は まだ分かりませんけど…、」


 語った言葉と、語られた言葉―。そこから生じる 互いの心の揺らぎを捉えられはしないか、その眼差しの挙動までをも探るような、濃密な見つめ合いを、2人は思いがけず交わすことになった。


 先ほど遠目で微かに感じた、弟『七生』と この姉との違いを、今 陸は はっきりと理解出来た。―彼女は彼より、大層 大人びている―。


「―私、あなたをヘッドハンティングしに来ました―」


 七歩は陸に畳みかける―。


「―あなたのこと、名前も何も知りませんけど、

あなたにしか お願い出来ないことがあるんです―…!」


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の貴重な1PVを頂戴できますこと、たいへん光栄に存じます。

引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。

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