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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第1章 The X-axis

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ワケ有り品も歓迎します・4

 相手が警察である以上、七歩(かずほ)は二重にも三重にも策を巡らし、万全といえる体勢で、その落とし物の受け取りに臨んだ。


  ―それはつまり、本来は本人が受け取りに来るべき拾得物を、


①まずは『七生(ななお)』を装った自分が窓口に行く。

→そこで本人でないことを怪しまれたら、


②スマートに差し出す七生からの『委任状』は、既に作成・準備済み。

→更に 子供1人ということに難色を示される恐れに備えて、


③ネットで依頼したレンタル保護者にも同行を願った。

…という具合である。


 しかし、これだけ はりきって準備を整えた割りには、窓口の職員は、あっさり七歩(かずほ)七生(ななお)だと思ってくれた。


 身分証明になる保険証の提示と、遺失届等々の書類の記入を済ませ、七歩は無事、七生の小銭入れを その手に収めることが出来たのだった。


少し拍子抜けした感じの七歩とレンタル保護者だったが、万事滞りなく終ったのだから、これに越したことはない。いかにも仲の良い父と子のように、対応した職員に一緒に頭を下げ、警察署を後にすると、2人は事前の打ち合わせ通り、近くの公園に向かった。


 実の父よりは おそらく だいぶ年下なのであろうレンタル保護者に促され、七歩は小銭入れのファスナーを開けてみる。(ちなみに彼には、先月 七歩が病院で薬の処方を受ける際にも同行を願っており、今回が2度目の依頼となる。)


 中には、わずかばかりの小銭と、問題の宅配便の送り状だけが入っていた。


 対応した職員によれば、小銭入れにプリントされたヒーローキャラが、いかに男の子達の間で熱狂的支持を受けているか、よく知っているパートの女性が、忙しい仕事と家事と子育ての合間に、拾ったものを届けてくれたのだそうだ。


 謝礼は辞退して去ったという、その見知らぬ誰かの優しいお母さんと、迅速に対応してくれた警察署員に感謝しつつ、七歩は4つ折りに畳まれた送り状を広げて見る。


 そこには、七生の子供らしい筆跡で、依頼主には彼の名が、そして大きく書かれた宛先には、

四郎丸(しろうまる) (あきら)

と書かれてあった。


 その人選に、七歩は納得と安堵の溜息を漏らす。


 七生は気づいていたかどうか、この四郎丸 白という、今年高校1年になった筈の少年は、七歩の淡い初恋の相手でもあった。祖父同士に交流があったことで、四郎丸家と万城目家(ひえぬきけ)には面識がある。いずれ この物語に登場予定の白であるが、七歩との出会いは、病院の小児科の待合室だったことだけは ここで付け加えておく。


 もし あの時 あの電話を受けたのがキリヤで、この送り状が彼女の手に渡っていたら、キリヤ達の魔の手は、この(あきら)にまで及んでいたかもしれない―。


 それを思うと改めて、二階堂蘭(にかいどうらん)に対し、大きな借りが出来たことを肝に銘じる七歩だった。


 この送り状を、燃やして処分するまでが、レンタル保護者との今日の契約である。

見られてしまえば、あの『眼鏡』の行き先が、即刻 明らかになってしまう、この送り状は決して持ち帰らないということで、七生にも了承は得て来た。


 公園の喫煙所へと歩みを進め、この依頼をする際、準備してくるよう願ったライターで、すぐにも それを燃やすよう七歩は催促したが、借り物の父親は一旦それを制し、追跡番号くらいは控えておいたほうが良いと、彼女にアドバイスした。


 ―こんな助言は契約外のことであるが、前回も今回も、さしたる働きはしていないことに この父親役は負い目を感じていたのか―、あるいは、最初の依頼の時点で、保護者を借り受けなければならない、彼女の何やらワケ有りな事情を察して、同情から文字通り、親身になろうという心づもりもあったのかもしれない―。


 彼は七歩のスマホを開かせると、運送会社のサイトにアクセスし、今 この荷物がどこにあるかの確認方法を教え、どうやら順調に『アキラお兄ちゃん』の元へ向かっていることを共に確認し、七歩を安心させたところで、満を持し、ご所望のライターを取り出した。


 薄紙1枚の送り状は、火が点くと瞬く間に燃え広がり、喫煙所の灰皿に、黒い灰となって燃え落ちた。


その様を見届けた七歩は、今日の作戦行動のうち、まず1つ目が無事終了したことに、ほっと胸を撫で下ろす。


 通常の半値で良いとされた今回の報酬を紙幣数枚で渡すと、彼は それを すんなり受け取り、また困ったことがあれば依頼するよう七歩に告げ、父役から1人の通行人に戻り、西側の出口から公園を後にした。



 1人になった七歩は、東側の出口から公園を出て、次の行動のスタート地点となる、交番近くのコンビニへと向かう。


 最初のソレと違い、次なる作戦は、誰かに怪しまれ、咎められる恐れこそ少ないものの、辿り着く先も、会うべき相手も全く分からない、まるで雲を掴むような、当ての無い話であることは確かなのだ。


 持って来たスマホで、七生と連絡を取りながら進む手も考えはしたが、無我夢中で走ったという七生の記憶に頼るメリットと、その通話の最中、それをキリヤに見咎められるリスクを天秤にかけた結果、七歩はリスクを排除する選択をした。


 生まれた時から今日に至るまで、おそらく最も身近にいて、多くの時間を共に過ごした

あの『弟』ならば、この先に連なる道を どう感じ、どう考え、どう進むか―? 


 到着したコンビニの前で、七歩は一度目を閉じ、大きく深呼吸すると、自分の中に『七生』を乗り移らせるイメージで目を開き、二丁目に向かって歩き始めた。


 『あみだくじ』のように進んだという七生の言葉から、分かれ道に出会う度、七生なら ここは曲がり、ここは敢えて真っ直ぐ行くだろう―という具合に進んだ結果、15分ほど歩いたところで、目の前にゴミ集積所が現れ、その右手奥に、灰色の外壁を持つ、7階建てのマンションが聳えているのを七歩は認めた。


 途中で選ぶ道を間違った可能性もあるが、ひとまず七生の話した条件と一致する場所を探し当てたことに、七歩は大いに安堵し、早速 そのマンションの外階段を上ると、302号室の前で立ち止まった。


 呼び鈴を押す前に、七歩は頭の中でリハーサルしてみる。


 七歩にとって、目指す相手は どんな顔かも分からない、見知らぬ『お兄さん』ではある。しかし、昨日の七生の顔を憶えてくれているなら、よく似た双子の姉である自分の訪問に対し、おそらく何らかの反応を示す筈―。そこを見逃すまい―。


 その僅かな時間の繊細な駆け引きに 全力を注ぐ意気込みで、七歩はインターフォンのボタンを押した。


 ―少し待っても反応は無く、間を置いて2度、3度とチャイムを鳴らしたが、どうやら留守のようである。


 ―ならば―、と、七歩はランドセルの中から読みかけの文庫本を1冊取り出し、通路にランドセルを置くと その上に腰掛けて、続きが気になる その推理小説を読みながら、この部屋の住人が戻るのを待つことにした。


 天気予報よりも大幅に よく晴れた この日は、日没が遅くなっている、この季節の夕刻の長さを知らしめす西日を、彼女が座る細長い通路にも 惜しみなく降り注いでくる。


 ついに殺人のトリックが明かされ、次のページをめくろうとした七歩の耳に、初めて外階段を上って来る人の足音が聞こえ、七歩は咄嗟に本を閉じると、総ての感覚を、これから そこに現れるであろう人物に対して向けた。


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の貴重な1PVを頂戴できますことを光栄に思います。

引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。

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