作戦会議・5
七歩の話は、およそ見当はついていたことも含まれていたが、大部分は新たに明らかになったこと、確信を得ることができたことで、七生は彼女の3カ月の努力を労うように、頷きながら その報告を聞いた。
―キリヤ達の正体は何かしらの『モノ』であること、仲間の男の名前はジロー様だと初めて知り、やはり彼らは『ヒト』に対して良からぬことを企んでいること―
七歩が話している間、ワンは子犬ながらもドアの周りを盛んに行ったり来たりして、中々 有能な番犬としての活躍を見せていた。
「―でね、ちょっと話は逸れるけど、これだけは是非あんたに言っておきたいことがあって―、」
七歩は 少し恨めしそうな眼差しで七生を見つめ、言葉を継いだ。
「―小耳に挟んだ これまでの情報をまとめるとね、
シャカイテキブンギョウをニナわない、まだ何者でもない子供たちは、『モノ』に変換するのは基本的に難しいんだって、普通はね―! 言われて見れば、私は今まで1度も『モノ』にされたことは無いのよ、確かに―。
そういう『子供』だっていうのに、お人形にされちゃうんだから、あんた やっぱり少し堅物過ぎるんじゃない―? …だから! これからは 少し不真面目にしてみたら? そしたら ひょっとすると、キリヤの魔法も通じなくなるかもしれないよ―?」
「…そんなこと…、急に言われたって…、」
―確かに 自分が『人形』に変えられなければ、七歩を不安にさせずに済む、それは 七生も望むところではあるが、
「…そんなんで ほんとに効き目があるのかな…?
…それに、僕そんなに自分が堅物とは思ってないし、七歩が『モノ』にされないのはさ、逆に七歩が自由過ぎるからなんじゃないの―?」
「―は? なに? あんた、そういうこと言うワケ―?」
―ここで両者は しばし無言で睨み合った―。
―七生が真面目過ぎるのか?
―七歩が自由過ぎるのか?
しかし この論争は、今に始まったことではなく、この場で あっさり結論が出るものでもないことは、お互い分かり切っている2人である。
不毛な衝突を避ける為、話題を変えたのは七生のほうだった。
「―でも とりあえずはさ、アレが無くなった以上、ヤツらも下手に『ヒト』を『モノ』に変えることは出来なくなるんじゃないのかな―?」
今日の七生は その為に頑張ったのである。少し誇らしげに七歩に問うた七生だったが、そんな彼に、七歩は少し悲しげな眼差しを向けて、彼女が今宵聞いた、キリヤとジロー様達の『方針転換』の話を語った。
「―無差別に、変えていく―…っていうこと…?」
七歩は黙って頷く。七生は衝撃を受け、呆然としてしまったようだが、そんな彼を勇気付けるように七歩は言った。
「―でもね、七生が今日したことは無駄じゃないよ…!
アレは、大事な おじいちゃんだから…、逃がしてくれて、良かった…、」
気休めの慰めでなく、七歩が本心から言っていることは自ずと伝わり、七生は少し気を持ち直した。何より、あの『眼鏡』に対し、七歩も同じ見立てをしていたことを、七生は とても心強く思った。
「―七歩も そう思ってた…?」
「―思ってた―。」
―ここで双子は意気投合する。
「―アレはさ、僕が考えて、一番信頼できる人に送ったから、きっと大丈夫―、
…大丈夫だと思うよ…、」
「―あんたが そう言うなら 信じるよ―、」
まだ結果は どう転ぶか分からない。それでも2人は、このことで状況が少しでも好転するよう、願いながら微笑み合った。
「―で、そのこととも少し関係してくると思うんだけど、―明日にでも 私考案の作戦行動を展開するに当たって、あんたに聞いておきたいことが2つあるの―。」
「―なに…?」
「―まず1つ―。あんた今日、外で小銭入れ落とさなかった―?」
言われて七生は 心当たりのズボンのポケットを探った。
「…そういえば、無くなってる…!」
今更ながら七生は少し慌てたが、七歩は落ち着き払って話を続ける。
「―夕方、警察から電話が来たのよ。北警察署で預かってるから、受け取りに来てくださいって―。宅急便の送り状が入ってたから、色々分かって連絡くれたみたい。親切な人が拾って届けてくれたみたいで良かったね?」
―その電話こそ、二階堂蘭がキリヤと対峙している間に かかってきたものである―。
「―蘭ちゃんが来てくれて、助かったんだよ…! あの時 蘭ちゃんがキリヤの注意を引きつけてくれてなきゃ、あそこで『詰み』だったと思う―。―あんたのことも、ちゃんと覚えてるみたいだったし、良かったね…?」
「―蘭ちゃん…、教室では ちっとも振り向いてくれなかったけどなぁ…、」
それでも七生は、微かな記憶の中、人形の自分に差し伸べられた、彼女の優しげな掌を思い出す―。
「―それで、小銭入れの受け取りは 明日 私が行こうと思ってる、」
「―どうして―?」
「―あんたの行き先はキリヤに暴かれる可能性があるからよ―。
今日だって、そうだったでしょ―?」
「―…そうだね…、今日 僕、知らない人の家にいたのに、キリヤは探し当てて来た…、たしかに、七歩に任せたほうが安心かも…、」
「…え? 待って―。知らない人の家の中に居たのに、そのまま隠れていられなかったの?」
「…しつこくピンポンされたから、お兄さんがドア開けちゃったんだ…、」
「―なるほど―…」
ここで七歩は腕組みをして溜め息をついたが、
「―でも どうやら、その『お兄さん』とやらが、ヤツらに対抗する上での切り札になりそうなんだよね―、」
まじまじと、七生の目を見て 七歩は言った。
「―やっぱり―? 僕も そうなんじゃないかと思ってた―! ―そうだよ! 僕 真っ先に七歩に このこと話したいって思ってた! 」
―我が意を得たり―というように、七生は七歩の手をとって、嬉しそうに捲くし立てた。
「―キリヤとジロー様の話を聞いて分かったんだけどね、どうやらキリヤの力を、その『お兄さん』が跳ね返したみたい―、」
「―やっぱり そうなんだ―! あのお兄さんなら、きっとキリヤに勝てるかもって、僕も思った―!」
「―それで、あんたに聞きたい事の2つ目なんだけど、その『お兄さん』の家が何処にあるか、七生 憶えてる―?」
七歩に尋ねられた途端、『切り札』の登場に喜び興奮していた七生は、急に力なく俯いて、視線を泳がせ始めた。
「―ごめん…部屋番号が302だったのは かろうじて見たけど、帰り道の記憶が、あまり無くて…、」
―抜け目の無いキリヤのこと、おそらく帰り道は七生を『人形』に変えて運んだのだろう―。
「―でも『行った』時は―? 何か少しでも憶えてることって無い―?」
「―デタラメに逃げた先なんだ―…。…あの交番近くのコンビニから、2丁目のほうに『あみだくじ』みたいにして進んだところで…、…ゴミ収集所の近くにある、グレーの壁のマンションだった と 思う…、」
「―ありがとう―。それだけの情報があれば十分よ―。あんたの言う通りにして、明日 探しに行ってみる―。首尾よくいったら、その『お兄さん』をここへ連れてくるつもりよ―、」
「―それだけで―? 大丈夫かなぁ…? 」
ただでさえ出不精の姉の単独クエストに、七生は少なからぬ不安を覚える。
「―大丈夫よ、双子なんだし! あんたが辿った道くらい、なんとなく分かると思うわ―。
なんたって私は『お姉ちゃん』なんだから―!」
―その論拠に疑念が無い訳では無かったが、自分ではキリヤの追跡を招く恐れがある以上、ここは姉の言う通り、『双子の神秘』に賭けるしかないのかもしれない。七生もまた腹を括った。
「―わかった。任せる―。」
「…それで、代わりと言っちゃなんだけど、明日は七生が家に居て、キリヤの様子を探っていてほしいの―。キリヤが連れ込む『ヒト』の数と、店の『モノ』が新たに増えていないかを、出来る範囲でいいから調べておいてほしいんだけど…、」
「―わかった。いいよ。…たしかに、それは大事なことだね…、」
七歩の狙いを理解して、七生は それを引き受けた。
仮に一度『モノ』に変えられたとしても、その数と状況から『ヒト』と思しき『モノ』を把握しておけば、いつか『ヒト』の姿に戻してあげられるかもしれない―
―今日 七生と七歩は、共に その可能性がゼロではないことを知ったのだ―。
―しかし―
「…今…、こうしている間も、キリヤ達は『モノ』に変える『ヒト』を集めてるのかもしれないよね…、」
あの土蔵を見下ろす窓辺に歩み寄り、七歩は呟いた。
「―じゃあ僕、明日は朝一番から、『棚卸』をしておくよ―、」
「―それがいいね、」
七生の申し出に、七歩が頷く。
「…あとは 私が外出する理由を どうするかが問題なのよねぇ…、万一キリヤに出掛けるところを見られたら 何て答えたら良いか…、」
―ここまで頼もしく明日の作戦について語ってきた七歩が、意外や そんなことで困っているとは―。
口から思わず笑いが零れそうになったが、七生は すんでで それを堪えて七歩に言った。
「―バカだな七歩、そんなことで悩むなんて―、」
「…なによ? なんか良い考えでもあるっていうの―?」
「―考えるまでもないさ―、」
ここまで七歩が握っていた主導権を、取り返した気分で 得意げに七生は言った―。
「―簡単なことだよ。『学校に行く』って言えばいいんだ―、」
「―――えぇ~~~!!?」
それは確かに 小学生の彼女にとり、至極真っ当な外出理由である―。
しかし七歩は、心底イヤそうな顔で 七生を睨みつけるのだった。
ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。
貴方様の貴重なPVを賜れますことに深く感謝申し上げます。
引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。




