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X-it《エグジット》人をモノに変え、モノを人に変える、相反する力を巡る神々と人々の攻防  作者: 向愛 水哉
第1章 The X-axis

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作戦会議・5

 七歩(かずほ)の話は、およそ見当はついていたことも含まれていたが、大部分は新たに明らかになったこと、確信を得ることができたことで、七生(ななお)は彼女の3カ月の努力を労うように、頷きながら その報告を聞いた。


―キリヤ達の正体は何かしらの『モノ』であること、仲間の男の名前はジロー様だと初めて知り、やはり彼らは『ヒト』に対して良からぬことを企んでいること―


 七歩が話している間、ワンは子犬ながらもドアの周りを盛んに行ったり来たりして、中々 有能な番犬としての活躍を見せていた。


 「―でね、ちょっと話は逸れるけど、これだけは是非あんたに言っておきたいことがあって―、」


七歩は 少し恨めしそうな眼差しで七生を見つめ、言葉を継いだ。


「―小耳に挟んだ これまでの情報をまとめるとね、


シャカイテキブンギョウをニナわない、まだ何者でもない子供たちは、『モノ』に変換するのは基本的に難しいんだって、普通はね―! 言われて見れば、私は今まで1度も『モノ』にされたことは無いのよ、確かに―。


そういう『子供』だっていうのに、お人形にされちゃうんだから、あんた やっぱり少し堅物過ぎるんじゃない―? …だから! これからは 少し不真面目にしてみたら? そしたら ひょっとすると、キリヤの魔法も通じなくなるかもしれないよ―?」


「…そんなこと…、急に言われたって…、」


 ―確かに 自分が『人形』に変えられなければ、七歩を不安にさせずに済む、それは 七生も望むところではあるが、


「…そんなんで ほんとに効き目があるのかな…? 

…それに、僕そんなに自分が堅物(かたぶつ)とは思ってないし、七歩(かずほ)が『モノ』にされないのはさ、逆に七歩が自由過ぎるからなんじゃないの―?」


「―は? なに? あんた、そういうこと言うワケ―?」


 ―ここで両者は しばし無言で睨み合った―。

 ―七生(ななお)が真面目過ぎるのか?

 ―七歩(かずほ)が自由過ぎるのか?


しかし この論争は、今に始まったことではなく、この場で あっさり結論が出るものでもないことは、お互い分かり切っている2人である。


 不毛な衝突を避ける為、話題を変えたのは七生(ななお)のほうだった。


「―でも とりあえずはさ、アレが無くなった以上、ヤツらも下手に『ヒト』を『モノ』に変えることは出来なくなるんじゃないのかな―?」


 今日の七生は その為に頑張ったのである。少し誇らしげに七歩に問うた七生だったが、そんな彼に、七歩(かずほ)は少し悲しげな眼差しを向けて、彼女が今宵聞いた、キリヤとジロー様達の『方針転換』の話を語った。


「―無差別に、変えていく―…っていうこと…?」

七歩は黙って頷く。七生は衝撃を受け、呆然としてしまったようだが、そんな彼を勇気付けるように七歩は言った。


「―でもね、七生(ななお)が今日したことは無駄じゃないよ…!

アレは、大事な おじいちゃんだから…、逃がしてくれて、良かった…、」


 気休めの慰めでなく、七歩が本心から言っていることは自ずと伝わり、七生は少し気を持ち直した。何より、あの『眼鏡』に対し、七歩も同じ見立てをしていたことを、七生は とても心強く思った。


「―七歩(かずほ)も そう思ってた…?」

「―思ってた―。」


 ―ここで双子は意気投合する。


「―アレはさ、僕が考えて、一番信頼できる人に送ったから、きっと大丈夫―、

…大丈夫だと思うよ…、」

「―あんたが そう言うなら 信じるよ―、」


 まだ結果は どう転ぶか分からない。それでも2人は、このことで状況が少しでも好転するよう、願いながら微笑み合った。


 「―で、そのこととも少し関係してくると思うんだけど、―明日にでも 私考案(こうあん)の作戦行動を展開するに当たって、あんたに聞いておきたいことが2つあるの―。」

「―なに…?」

「―まず1つ―。あんた今日、外で小銭入れ落とさなかった―?」


 言われて七生は 心当たりのズボンのポケットを探った。

「…そういえば、無くなってる…!」


今更ながら七生は少し慌てたが、七歩は落ち着き払って話を続ける。


「―夕方、警察から電話が来たのよ。北警察署で預かってるから、受け取りに来てくださいって―。宅急便の送り状が入ってたから、色々分かって連絡くれたみたい。親切な人が拾って届けてくれたみたいで良かったね?」


―その電話こそ、二階堂蘭(にかいどうらん)がキリヤと対峙している間に かかってきたものである―。


「―蘭ちゃんが来てくれて、助かったんだよ…! あの時 蘭ちゃんがキリヤの注意を引きつけてくれてなきゃ、あそこで『詰み』だったと思う―。―あんたのことも、ちゃんと覚えてるみたいだったし、良かったね…?」


「―蘭ちゃん…、教室では ちっとも振り向いてくれなかったけどなぁ…、」


 それでも七生は、微かな記憶の中、人形の自分に差し伸べられた、彼女の優しげな(てのひら)を思い出す―。


「―それで、小銭入れの受け取りは 明日 私が行こうと思ってる、」

「―どうして―?」

「―あんたの行き先はキリヤに暴かれる可能性があるからよ―。

今日だって、そうだったでしょ―?」


「―…そうだね…、今日 僕、知らない人の家にいたのに、キリヤは探し当てて来た…、たしかに、七歩に任せたほうが安心かも…、」

「…え? 待って―。知らない人の家の中に居たのに、そのまま隠れていられなかったの?」

「…しつこくピンポンされたから、お兄さんがドア開けちゃったんだ…、」

「―なるほど―…」


 ここで七歩は腕組みをして溜め息をついたが、

「―でも どうやら、その『お兄さん』とやらが、ヤツらに対抗する上での切り札になりそうなんだよね―、」

まじまじと、七生の目を見て 七歩は言った。


「―やっぱり―? 僕も そうなんじゃないかと思ってた―! ―そうだよ! 僕 真っ先に七歩に このこと話したいって思ってた! 」


―我が意を得たり―というように、七生は七歩の手をとって、嬉しそうに捲くし立てた。


「―キリヤとジロー様の話を聞いて分かったんだけどね、どうやらキリヤの力を、その『お兄さん』が跳ね返したみたい―、」


「―やっぱり そうなんだ―! あのお兄さんなら、きっとキリヤに勝てるかもって、僕も思った―!」


「―それで、あんたに聞きたい事の2つ目なんだけど、その『お兄さん』の家が何処にあるか、七生 憶えてる―?」


 七歩に尋ねられた途端、『切り札』の登場に喜び興奮していた七生は、急に力なく俯いて、視線を泳がせ始めた。


「―ごめん…部屋番号が302だったのは かろうじて見たけど、帰り道の記憶が、あまり無くて…、」


 ―抜け目の無いキリヤのこと、おそらく帰り道は七生を『人形』に変えて運んだのだろう―。


「―でも『行った』時は―? 何か少しでも憶えてることって無い―?」


「―デタラメに逃げた先なんだ―…。…あの交番近くのコンビニから、2丁目のほうに『あみだくじ』みたいにして進んだところで…、…ゴミ収集所の近くにある、グレーの壁のマンションだった と 思う…、」


「―ありがとう―。それだけの情報があれば十分よ―。あんたの言う通りにして、明日 探しに行ってみる―。首尾よくいったら、その『お兄さん』をここへ連れてくるつもりよ―、」


「―それだけで―? 大丈夫かなぁ…? 」

ただでさえ出不精の姉の単独クエストに、七生は少なからぬ不安を覚える。


「―大丈夫よ、双子なんだし! あんたが辿った道くらい、なんとなく分かると思うわ―。

なんたって私は『お姉ちゃん』なんだから―!」


 ―その論拠に疑念が無い訳では無かったが、自分ではキリヤの追跡を招く恐れがある以上、ここは姉の言う通り、『双子の神秘』に賭けるしかないのかもしれない。七生もまた腹を(くく)った。


「―わかった。任せる―。」


「…それで、代わりと言っちゃなんだけど、明日は七生が家に居て、キリヤの様子を探っていてほしいの―。キリヤが連れ込む『ヒト』の数と、店の『モノ』が新たに増えていないかを、出来る範囲でいいから調べておいてほしいんだけど…、」


「―わかった。いいよ。…たしかに、それは大事なことだね…、」


 七歩の狙いを理解して、七生は それを引き受けた。


 仮に一度『モノ』に変えられたとしても、その数と状況から『ヒト』と思しき『モノ』を把握しておけば、いつか『ヒト』の姿に戻してあげられるかもしれない―

―今日 七生と七歩は、共に その可能性がゼロではないことを知ったのだ―。


―しかし―


「…今…、こうしている間も、キリヤ達は『モノ』に変える『ヒト』を集めてるのかもしれないよね…、」


あの土蔵を見下ろす窓辺に歩み寄り、七歩は呟いた。

「―じゃあ僕、明日は朝一番から、『棚卸』をしておくよ―、」

「―それがいいね、」

七生の申し出に、七歩が頷く。



「…あとは 私が外出する理由を どうするかが問題なのよねぇ…、万一キリヤに出掛けるところを見られたら 何て答えたら良いか…、」


―ここまで頼もしく明日の作戦について語ってきた七歩(かずほ)が、意外や そんなことで困っているとは―。


口から思わず笑いが零れそうになったが、七生(ななお)は すんでで それを堪えて七歩に言った。


「―バカだな七歩、そんなことで悩むなんて―、」

「…なによ? なんか良い考えでもあるっていうの―?」

「―考えるまでもないさ―、」


 ここまで七歩が握っていた主導権を、取り返した気分で 得意げに七生は言った―。


「―簡単なことだよ。『学校に行く』って言えばいいんだ―、」

「―――えぇ~~~!!?」


 それは確かに 小学生の彼女にとり、至極真っ当な外出理由である―。

しかし七歩(かずほ)は、心底イヤそうな顔で 七生(ななお)を睨みつけるのだった。


ここまでお読みくださり、誠に ありがとうございます。

貴方様の貴重なPVを賜れますことに深く感謝申し上げます。

引き続き、明日も お楽しみいただけましたら幸いです。

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