対決のための下ごしらえ
前回のあらすじ
無事王家の罠をくぐり抜け、ファリアとイザベラは帰宅しました
教会から戻ったことも、司教を憲兵に引き渡したことも、特に誰も咎めはしなかった。
既に私はアルテイシア家の誰よりも武力を有する身だ。意見など出るはずもなかった。
「お前が一番強いのはわかってるけどさ。 たまには頼ってくれよな」
そう言って頭を撫でる兄さんの手は優しかった。
最近、神聖院の呪いの関係者が逮捕されたり、尋問されたりと慌ただしい。
ノースフェイス家はじめ神聖院派の貴族達はすっかり軽蔑の対象。求心力を落とし、鳴りを潜めた。代わりにホワイト家はじめ貴族派達は大盛り上がり。これを機に神聖院の既得権益を奪い返そうと躍起になっているとか。
その一方王家派は、呪いへの関与が疑われる王家から離反しそうな気配を一部の貴族家が見せている。
呪いから解放された女性達の末路は様々だ。名を変え養子になり過去を捨てた者、海外に活路を見出す者、怯え部屋に閉じこもる者……ただ、イザべラ・ホワイト名義の研究成果はそれなりに功を奏したのか、呪いが伝染るかも、といったバカげた噂はすぐに立ち消え、それを婚約破棄の理由とする者も(少数の愚かな貴族以外は)いなかった。
記憶は癒せるし、名前は変えられるし、体の傷は治せば良い。魔法国家の貴族は割と柔軟だった。
私とベルは英雄として各種新聞、ゴシップ誌などでそれはそれは稀代の英雄だと称えられはじめ、ありとあらゆる貴族豪商有力者達からお茶会や各種コミュニティへのお誘いの手紙がわんさと届いた。
「全部断りたい……めんどくさい」
「いけませんよファリア様。 次期魔王としてオルスフェーンの有力者とは顔をつないでおかないと」
変わらず魔界学の教鞭をとるスピキオ=アイナ=ロンダート。
(ベル、何をするつもりなんだろう。 公爵令嬢といえど、王家に一矢報いるのって相当大変だと思うけど)
◆
イザベラ・ホワイトはドロテア・クロウリーとは面識があった。
面識、と言って良いのか、それは学園の廊下ですれ違う時に会釈をするとか、その程度のものだったが。
二人はお互いを意識し合っていた。
ドロテアにとっては、表立っては明かせぬ義弟の婚約者であるイザベラ・ホワイト。
イザベラにとっては婚約者の義妹であり――おそらく婚約者の思い人、ドロテア・クロウリーとして。
(エドワード殿下は気の多い人だったけど、言い合いになるほど詰め寄ったのは彼女だけだった――)
イザベラにとってエドワード第二王子は、どうでもいい、できの悪い駒の一人だった。
ただ、彼はいくらなんでもやりすぎた。何より、ファリアまで策謀に巻き込もうとした。
(それがどんなに愚かな選択だったか、思い知らせて差し上げないと――)
そのために、彼女はドロテアに会う必要があった。
昼下がりののどかな村の中央。クロウリー男爵邸はほぼ民家のような邸宅だった。もしかしたら少し裕福な平民の家のほうがよほど立派かもしれない。
(表立って言えないとはいえ、王家に縁ある血筋よ……? こんな扱いなの?)
先日出した先触れは郵便受けに突っ込まれたまま、読まれていないようだった。ドアをノックしても、返事がない。
イザベラはため息をつく。
「30分経って戻らなければ公爵に伝えて」
御者は快諾し、馬に水を飲ませるために移動した。
こぢんまりとした男爵邸の二階からは、ぎしぎしと規則的に家具が揺れる音がする。嫌な予感は的中した。
「イザベラ・ホワイトよ。 先触れも読まないなんて、どういう家なの?」
二階の一室のドアを開けると、小汚いベッドの上で死んだように横たわるドロテアに、小太りの男が必死に腰を振っていた。
「ああ!? んだよイイところなの……に……」
イザベラの出で立ちを見てやんごとなき身分だと理解したのか、男はそそくさと立ち去っていった。
「ちっ。 稼ぎ損ねたわ。 何、何か用?」
あの楚々とした空気のドロテアはどこに行ってしまったのだろうか。
目の前にいるのは平気で舌打ちもするすれた娼婦ドロテアだった。
(どこから突っ込めばいいの……)
イザベラは逃亡のため魔力も体も酷使したファリアを同行させなかったことを少し後悔した。
私実はガラ悪いキャラ書くの苦手なんですの~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!




