死者の証言
前回のあらすじ
司教のお部屋の暖炉から予約表らしきものが見つかりました!
証拠をあらかた確認し終え、ベルはテトトラ司教の復活を試みた。
ベルが司教の記憶のみ縫い止め、手をかざすと、司教の肉体の時が戻され、無事息を吹き返す。
「あ――わああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
テトトラ司教はまだ30代なかばといったところ、若くして司教の地位まで上り詰めた理由に、この悪事に加担していこともおおいに関わっているだろう。
可哀想に、オルスフェーンの記録の番人たるイザベラ・ホワイト公爵令嬢を前に、目に涙を浮かべながら尻もちをつき、祭壇へと後ずさりしてぶつかった。
「司教は錯乱していますね。目の前に突然イザベラ・ホワイトがいたら悪人ならそうなっても仕方ありませんが」
「……貴女、鏡を見てきたらどうかしら」
ベルが呆れて自身の目を指さしている。そうか、今私は明らかに高位の魔族の外見をしているのだった。
「正直に話さないと……食べちゃうぞー」
「話します話しますどうかお慈悲を……!」
「こら、脅迫で得た証言は無効よ。 取り消しなさい」
「難しいですね……食べませんよ。 まずそうだし。 正直に話してくれると、嬉しいなあ」
ベルの真似をしてなるべく冷たそうに笑ってみたら、司教はお隣テンセル領の名物ドラゴン人形みたいに首を縦に振りまくっていた。
◆
テトトラ司教は、呪いが解けたことを使い魔の報告で知り、懇意にしていた他国の神聖教組織へ名前を変え逃亡するつもりだった。溜め込んでいた多数の宝石や宝物を持って。
「しかしまさに出て行く寸前、客人が先触れもなく現れましてね……断ったのですが強引に入ってこられまして」
フードを目深に被っていたが、それは第二王子エドワード・オルスフェーン殿下その人だったと。
例の燃えカスは魔法で燃やされた形跡があったが、司教は炎魔法は不得意だった。エディは司教を殺害し、拙いながらも自殺に見せかけ、書類も燃やしたのだろう。
オルスフェーンでは自殺は自殺者の意志を尊重するとし、通常復活の手段は使われない。貴重な魔力リソースを利用しても再び自殺する可能性があるため、無駄だと言われているのだ。
「彼はその、5番がお気に入りでしたから……証拠を消しにきたのでしょうね」
イザベラ様の反応をちらちらと伺いながら司祭はペラペラと話している。
(エドワード第二王子殿下はベルの婚約者だから、当然だ)
「その5番って誰なの?」
興味なさげにベルが尋ねる。
「――それ、は」
テトトラ司教の目が明らかに泳いだ。
ベルがその様子を見てある名前を口にした。
「クロウリー……ドロテア・クロウリーかしら」
「! ご存知、でしたか……」
「婚約者だもの、被害者一覧を見ていればなんとなくね」
ドロテア・クロウリー男爵令嬢。現王の前妻の子と噂されている才女だ。
ドロテア様は細やかなウェーブの金のロングヘアと銀の目を持つ、物静かなイメージの人。
(イザベラ様とは正反対のイメージがあるかも。 義姉弟……結婚は許されないし道ならぬ片思いってやつか)
「確か、ドロテア様の横にも0が記載されていたわね。 ということは」
テトトラ司教の顔が青ざめる。
「それは、……そんな恐ろしいことは」
「憶測で構わないわ。 言いなさい」
「恐らく、ですが……エドワード第二王子殿下が呪いをかけたものかと」
ドロテア様は、クロウリー男爵家ではかなり冷遇されていたと聞く。本人も進路を聞かれても教会のシスターとなることくらいしか道がないらしい。
前妻が結婚にあたって邪魔だからと、デビュタント前に養子に出された形だそう。出自が霧に包まれているようによくわからない人で、社交界でも彼女について語るのはタブーとされている。
といってもかなりゴシップ色の強い情報しかなく確証はないのだけど。
(学園に通い出すようになってからたびたび殿下とドロテア様が言い合いになっている姿が目撃されているんだよね)
概ねドロテアが殿下を嫌悪している様子だったようだけど、だとしたら――。
ドロテア嬢は嫌いな男に呪われ、無理やり抱かれたことになる。
こみ上げる吐き気を治癒魔法で回復させた。
「大丈夫? 貴女ほんと社交界は向いてないわね」
「面目ないです」
他いくつか質問した後、テトトラ司教は憲兵に引き渡した。
「あの、孤児院は……」
「エル・テペリ孤児院のことは心配しないで。 きちんと存続させるわ。 名前は変わるかもしれないけれど」
「……子どもたちには、このことはご内密に」
イザベラは首を横に振る。
「それは難しいわ。 私ができるのは、孤児院の存続のため、不当な税負担を調べ上げることだけ」
司教は疲れたように微笑み礼を述べたあとは、しきりに「終わりだ」と呟いていた。いずれ自害を選ぶかもしれないが、情報は得られた。
◆
憲兵が言うことには、司教は逃亡後も孤児院を存続できるよう、ある程度の資産を残し、次期責任者を書面で定めていた。
「極悪人だけど、善人の部分もあったのか……」
「もしかしたら、最初は詳細なんかわからずに予約係として使われたのかもしれないわね。 今となってはわからないけど」
憲兵達と没落していく司教を見送る。気づけばもうすぐ朝日がのぼる時間だ。
「後は私が証言と証人を揃えておくわ。 エディを公衆の面前で再起不能にできるなんてワクワクしちゃう」
血湧き肉躍る美貌の公爵令嬢が拳をぺきぺき鳴らしている。
「帰りましょう。 送りますよ」
「お願いするわ」
空を飛んであっという間に帰宅する方法はお互い持っていたが、手をつなぎ、いつもよりゆっくり歩いて帰った。
ぼっこぼこですわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!




