高貴な人のお気に入り
前回のあらすじ
ミード坊やを撃退して調査の続きです。
結論からいうと、それらしい証拠は出てこなかった。
「空振りですか……」
「この死体がぶら下がってる場所もおかしいものね」
司教は神聖教の像の十字架の手前、建物のむき出しになった梁にくくりつけられていた。
しかし、彼の足元には何もない。デスクもかなり距離があり、手近に椅子などもなく、明らかに作為的なものを感じた。
(彼がわざわざ魔法で飛んだなら、この状態もわかるけど)
「……しかもこれ、防腐魔法が使われてる上……下手すれば私たちが殺したことにされるかも。 気にくわないわ」
ちなみにミードはテトトラ司教の件については何も知らないとのことだった。
教会付近に張り込み、オーロラ色の髪が見えたら気絶させ、同行者がいれば全て捕え、失敗したらブローチを屋敷かバッグに忍ばせる手筈だった。
奴隷契約を済ませた上での質問だったので、記憶を消されたのでなければ本当に知らないのだろう。
(公爵令嬢を傷つけるなんて、闇魔法使いのはした金で引き受けるにはリスクが高すぎる……何も知らない子どもを利用したんだ)
「でも敵の目的はなんとなくわかったわ。 あのタヌキ王女か、エドワード第二王子殿下とその側近が、教会にやってきた私たちを狙った。 ミードは私を気絶させ、同行者を捕らえるようにとは言われたがリアの詳細は知らなかった」
「! 待ってください……それって」
こつこつと小気味よい足音を立ててベルは推理を並べ立てる。
「補助脳をあんなに強引に増やしたなんて聞いたことないもの。 王室もあなたの能力はまだ把握できていないのね」
小さくため息をついた。 知りたくなかったとでも言いたげだ。
「王室が私たちを狙った――そう見てさしつかえない状況ですわ。 全員が、とは思いたくないところだけれど」
美しい顔がこの上なく楽しそうに歪んだ。
「もっと言えば――狙いはホワイト家の財産と……おそらく、本命は貴女よ。 魔王の娘たるファリア・アルテイシア。 ……もし貴女が囚われていたら、『イザベラを助けるために力を貸して』とか、便利にこき使われたことでしょうね」
ベルの人差し指が私の顎を伝う。
「でもそれは私だけの特権だわ。 籠絡した者の責任があるもの」
瞳の青が深まり、酷薄な表情を見せても見惚れてしまう完璧な容姿。
あの月夜を思い出して、今にも押し倒してしまいそうになるのでやめてほしい。 死体が目の前にあるというのに、いつから私はこんな不信心者になってしまったのか。
「……そうですね、私がこき使われてあげるのは貴女だけです」
「言うようになったわね」
ベルの少し照れて唇をとがらせる様が可愛すぎてたまらず視線を外すと、冬場は活躍していたろう暖炉が見えた。
「ん……あれは」
暖炉に駆け寄ってしゃがみこむ。
紙の切れ端だ。燃えカスのようになっている。
「おかしいわね。 オフシーズンは片付けるものなのに」
ベルが試しに紙の復元を試みた。
「予約表か何かみたいね」
数字の羅列を見て、私は嫌な予感がした。
「この……番号。 娼館の扉に書いてあった……」
見てまわった限りでは娼館の扉は1から30まであった。 調査によれば、人が入れ替わる扉もあれば、入れ替わらない扉もあった。
「ああ、5って、そういう事……」
予約した人物の名前は全て暗号だった。5番の横に書かれていた名前は全て「高貴な人」だった。
そもそもが貴族ばかりの客層なのに、その中であえてノーブルとつけられる人物――。
「お笑い草ね。 私の元婚約者、娼館に『お気に入り』がいたみたい」
道ならぬ恋ですわ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!




