暗殺者との対峙
前回のあらすじ
アリスフィアに助けられて無事時間を巻き戻せました。
暗視魔法を使い、教会長室の扉を開ける。少しの間を置いて、光速の雷光をベルの水鎧が弾いた。
(これで魔法使用の正当性が主張できる――)
私は危うい立場だ。魔界を争いに巻き込まないためにも、膨大な魔力を私欲のために使うわけにはいかない。
この不定形の、蠢く黒いジュースのような魔法生物はなんだろう。先ほどもベルばかり攻撃していたが。
『魔力吸収』
補助脳いくつかに半径5kmほどの範囲のマナや体内で生成される魔力全てを吸収させる。もちろん普通の魔法使いなら対策を講じているだろう。でもそれが索敵にはちょうどよかった。
(――いた! 教会の外、庭の隅にマナの流れが悪い場所!)
飛行魔法を応用し、音が追いつかない速度で間合いを詰める。
そこには、突然の超広範囲マナドレインに慌てたのか、微妙に解けかかった透明化魔法で隠れきれていない魔法使いがいた。
「まず――殺す!」
言った時には終わっていた。一度も使ったことがないのに、先祖から受け継がれてきた記憶か、最も使い慣れた血の刃で敵を切り刻む。
敵は半透明のよくわからないこま切れ肉となって積み上がった。尋問のため霊魂だけは霊魂捕獲魔法でつかまえておく。
急速に生命の灯をうしなった死体が、夜の冷たい空気に冷やされていく。
後には、初めて明確に殺意を持って人を殺した恍惚感と、興奮でなかなかおさまらない呼吸音だけが残った――。
◆
「で、あんたを雇ったのは誰?」
「はいいぃ! 第二王子エドワード殿下の側近のオズワルド・バルツァーでございますぅう!!」
首を吊った司教の前のデスクで、囚えた霊魂を尋問している。その霊魂の主である暗殺者・ミードはあっさりと白状した。どうやら魔族の血には相手を隷属させる効果でもあるらしい。怖い……。
ミードの死体にはエドワード殿下が前王より下賜された宝飾品が忍ばせられていた。
「裏社会の闇魔法使いまで雇うとは、ずいぶんな嫌われようですねえ」
「まさか殺したいほどとは思わなかったわ。 ……このブローチを私のバッグか私室にでも置いて、イザベラ・ホワイトが盗んだことにして投獄、有耶無耶のうちに処刑か毒殺ってところかしら。 全く甘く見られたものね」
「さすがはイザベラ・ホワイト様ご明察でございますぅー! もし暗殺に失敗した場合はこちらをちょちょーっとお渡しして去るだけの……簡単なはずの仕事だったのです。 しくしく。 紅の瞳がいらっしゃるなんて聞いてません!」
「はぁ……私の名を呼ぶことを許した覚えはなくてよ」
ベルはすっかり呆れてしまった。どうやらミードという男の子は貧民窟の出身で、貴族階級のならわしなど一つも知らない様子だった。
先ほどまで私たちを殺そうとしていたくせにすごい手のひらの返しよう。ちょっと鬱陶しいので別の殺し方に変えようかとも思ったけど、面倒だしそのままにしておいた。
「あの子たち……魔法生物にも悪いことをしました……高価な魔石がなくて、雑な命令しかできないので。 人間を対象に攻撃するよう設定したのが誤りでしたね……」
ちらっと霊魂の身で何度かこちらを覗いてくる。殺そうとしてきた輩に手心なんか加えないが。
「どうする? ベル。 乾燥させて魔界の渦潮に沈めさせればいい餌になりそうだけど」
「ヒィイー!! ご勘弁ください!! どうか命だけは!! 死んでるけど!!」
「うるさい人は嫌いだからなー」
ヒッと息を呑む音がしてミードは静かになった。
「そうねぇ……」
ベルは意地悪なアイデアを思いついたのか、その完璧に整った唇をにんまりと曲げ、笑った。
「ねぇファリア。 貴女、この子を奴隷魔法で従者になさいな」
嫌だけど、と答えたかったのに、ベルが私の腕を抱きしめながら至近距離でいい匂いをさせて言うものだから、口からは「いいよ」という言葉が出ていった。
次回、主人公にはじめて直属の奴隷が手に入ります!




