決死の逃走劇
前回のあらすじ
王妃様のメモに従って潜入を試みるが……
エル・テペリ教会は市民も利用するごく小さな教会。
テトトラ司教は例の千文字の呪いの関係者として名前が上がった人物だ。これといって目立った功罪はなく、実に地味な人材だったが、今まさに渦中の人として話題にのぼることが多くなっているらしい。
(――学園に通っていない今となっては、お兄様から又聞きするくらいしか噂を集める機会がないのがもどかしいところだね)
司教はすっかり引きこもってしまわれているらしい。それがこの教会の教会長室というわけだ。
「壁抜け、できるようになった?」
「まあ、少しは……」
ややドアに引っかかりながらも、なんとか教会に入り込み、教会長室内に侵入できた。部屋の内側から鍵をあけ、ベルを室内に招き入れる。
「……すごく真っ暗。 緞帳かな」
防音魔法効果で声は全く響かないが、そこそこの広さの四角い部屋だ。
(……おかしい。司教はひきこもってると聞いたけど、全く人の気配がない……)
目が夜闇に少し慣れてくる。船の中にいるような、何かが規則的に軋む音が聞こえる。
「埒が明かないわ。 開けるわよ」
ベルが緞帳のように分厚いカーテンを開くと、ある人物が浮かび上がった――
そこでは、教会のシンボルである丸十字に結わえられたロープで、テトトラ司教らしき人物が首を吊って絶命していた。
その瞬間である。
「きゃあっ!?」
「!?」
ベルが電光とともに悲鳴をあげ、その場に倒れた。
私は咄嗟に周囲を確認する。5、6、何人かは分からないが、囲まれている。
「憲兵だ! 大人しくしろ! ファリア・アルテイシア!」
このあたりはグリーンヒル邸の憲兵団が担当しているはず。
しかしそれは、全く見たことのない背格好、聞いたことのない声だ。
魔族の驚異的な記憶力を持ってしても思い出せなかったこいつらは一体誰なのか――
圧倒的に不利な状況。捕まればおそらく犯罪者。私は時間遡行はできず、頼みの綱のベルは気を失っている。
(つまり、ベルを真っ先に気を失わせる奇襲が有効だと知っている、高位の人物と手先――)
裁判、有罪、処刑、罠? 補助脳が高速であらゆる穏便な分岐を解析する。
――『DEAD』『DEAD』『DEAD』。
どれもこれも死亡フラグだと補助脳が告げる。
鈍く赤く輝く夜目の魔法を目にまとった自称憲兵達。
「あ、これだ」
最も安全で、相手が人間であっても傷つけない魔法。たぶん。
(光輝!)
「ぎゃっ!」
ただのパーティ向けの光って脅かす魔法だが、増幅された光は一時的に自称憲兵団の視界を完全に奪った。室内が真っ白な光に塗りつぶされる。光の精霊がこちらに味方してくれたようだ。
急いでベルを抱え、司教室横の壁を圧縮魔法で塵に変え、外へと飛び出した。
「なるべく早く、安全なところへ!」
『了解』
足元で何かが数度爆発し、一部黒焦げになりながらも私とベルはなんとか窮地を脱した。
空中から後ろを見ると、穴の空いた教会から真っ黒な人間とも魔族ともとれない不定形の異形が数体溢れていた。
(何、アレ――)
◆
「で、うちに来たってこと?」
空を爆速で飛び続けること1時間。オルスフェーンの北壁、一年の半分が雪と氷に閉ざされているノースフェイス領。
領地にて謹慎中のアリスフィア・ノースフェイスの私室。アリスフィアは見つかってはまずいとそっと部屋へ招き入れてくれた。
「バカじゃないの?」
そして開口一番罵られた。
「うちは歴史ある教会派よ。ただでさえ解呪の件で教会派に睨まれてるのに、他の派閥の連中とこれ以上関わるとまずいのよ」
「うん、だから、きっと秘密にしてくれると思った。 助けても助けなくても」
「……あんた、そういう奴だったわね……昔は政治なんか興味なさそうな顔してたくせに」
アリスフィアはため息をつく。
「おおかた、あのタヌキ王妃に化かされたんでしょう。 あの人、いい人そうに見えるけど、国の利になることには急に人が変わっちゃうとこあるから」
「そんな風には……見えなかったけどなあ」
ほんとお人好し、とため息をつくアリスフィア。
その間も私は治療の手を止めない。敵に見つかるか、ベルが先に目覚めるかの勝負だ。
今回は失敗ですわ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!




