現状維持
前回のあらすじ
父上と公爵様は実は入れ替わっていました……
「事情は――理解したわ。 まさか公爵家の血筋とはね」
「あなたの魔力には驚いたよ。 ……俺には受け継がれなかったけど、多少は体の方の才能も影響して……」
父ははっとして口を抑えた。
「すまない。 いい気はしないよな……」
「大丈夫。 多分この身体の才能がずば抜けていたのは事実だと思う」
そう言うと、父は少し誇らしげに顔をあげた。
魔族の、それも魔王の血脈の魂を受け入れられる器などそうあるとは思えない。
きっとロードライト・ホワイト公はそれも見越してこの身体を選んだのだ。
(一体どこからホワイト公の策略なの……?)
一抹の疑惑が浮かんだが、今は他に聞くべきことがたくさんあった。
「それで、貴方はお目付け役ってわけ?」
スピキオのほうに視線をやる。
「ええ、ええファリア様。スピキオは魔王より貴方様の護衛と、人間達の監視を仰せつかりました」
「……魔族に両親を殺されたっていうのは嘘?」
「さようでございます。 ……罰ならば何なりと、死以外でしたら受け入れましょう。 貴方を守れなくなっては困ります」
長年の友人だったスピキオに騙されていたのは結構ショックが大きかった。
しかも、学園内では私は何度も殺されている。
護衛にしてはとんでもないポンコツだ。
(それとも、私の覚醒を優先して放置していた――? 魔族の考え方はまだよくわからないな)
しかし今そんなことを言えば父が卒倒してしまう。
「そう、わかった。 それで、魔界は私にどうしてほしいの?」
スピキオが顔を曇らせた。
「……正直に申し上げますと、難しい状況です。 魔王様は未だ眠り病から目覚めてはおりませんし、魔王代理でいらっしゃる王弟様は、おそらくファリア様のご帰還をあまり快くは思わないでしょう」
それはそうだ。船頭が二人に増えるのを快く出迎える船長などどこにもいない。
しかも海のルールを何も知らない小娘では、船倉行きがせいぜいだ。
「でも私はだいぶ派手に呪いを解いてしまった――早晩、王弟殿には気づかれるだろうね」
スピキオが困ったように首をかしげ、頷いた。
「わかった。 ひとまず王弟殿の出方を待つ。 私もやりたいことがあるし……まだこの家には居ていいんだよね?」
父が一瞬何を言ってるんだ? と言いたげな顔をした。
「もちろんだとも、ここはいつでもあなたの家だ」
「そのあなたっていうのやめて。 お前とかファリアとかでいいよ、いつもみたいにさ」
「これは失敬……どうもやりづらいな。 娘が魔王様の血族というのも」
父はちょっとうれしそうだった。
どうも、この家から追い出す選択肢がそもそもなかったらしい。
「スピキオは魔界の流儀を色々教えて」
「承知いたしました!」
父は極大な魔法の才能を持つ私に嫉妬したりするのだろうか。
商人は決して心の底も手の内も簡単には明かさないものだといつも彼は言っていた。
それだけが心に少し引っかかった。
それに――父とホワイト公の因縁を、イザベラ様に話すべきなのか……。
あの全てを国に捧げ、絶対的な孤独の中戦い続けている鮮烈なまでに美しい人に、実はただの平民の子だと告げる残酷さ。
(大人達は勝手すぎる)
私はごちゃごちゃと絡まる思考に怒りで蓋をした。
◆
余談だが、アケローン准将達は、スピキオに追い返されてしまった。
『害意がない上、むしろ国の窮地である呪いを解いた功労者に対し、もてなすでもなく監視をつけるなど言語道断、魔界に敵意があるのか』と実に穏やかに尋ねたところ、しっぽをまいて帰ってしまったのだ。
宰相補佐は思ったよりかなり強い権限を持たされているらしい。
関係が複雑になってまいりましたわ~~~~~~~~~~~~~~~




